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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/17 どうかこの手を(エルシオ視点)


 どうしようもなく脅える自分がいた。

 誘拐だと、それをされかけているんだと、気づいた瞬間から。


 しびれたように、暴れることもできないくらい。犯人の顔を見る余裕も、無いくらい。

 屋敷の警備は優秀だ。異常を知らせるための仕掛けくらいあった。それを僕はちゃんと知っていた。でも、そのことにその時は、思い至ることができなかった。


 恐い。

 ……こわ、かった。


 どうしようもない恐怖に、身がすくんだ。拘束されて、担がれて、連れ出されて、目隠しをされたまま馬車でどのくらい走ったんだろう。

 判らないまま、震えて。

 何で、僕だってちゃんと稽古を受けて、勉強して。

 少しくらい、強くなってる。


 なのになんで、ここまで、何にもできないんだろう?


 何で、こんなに、怖いんだろう。

 でも、怖くて、怖くて、怖くて。

 判らないことばかりだった。自分の事なのに。

 この部屋に放り込まれた時に、目隠しと猿轡をとられた。

 それが、恐怖の極大になった瞬間。



 ――いやだ。


 

 そんな思いで、叫んだ。

 本当に、馬鹿だった。今更叫んだって、怪我をするだけ、仕方ないのに。

 案の定殴られて、今の今まで気を失っていたらしい。

 よほどでなければ、殺されることは、まずない。

 でもきっと、すぐに公爵家には連絡が行ってしまう。

 僕の身柄と引き換えに、いったい何を要求するつもりなのだろう。

 金だろうか、地位だろうか。


 あの姉上がそんな簡単に、言うことを聞くなんて思えないけれども。むしろ笑顔で叩き潰しそうだけれども。


 ――僕は、どうすればいいんだろう。


 大人しく、ここで助けを待つべきなのだろうか。今、僕に打てる手立てなんて、何もないに等しい。

 縛られた手足では剣など使えないし、そもそもここには武器になりそうなものがない。魔術は最初から、使えない。


 ……まあ、うちの姉上じゃあるまいし、裏に貴族がいるとしても実行犯にはならないだろうから、誘拐犯は多分平民階級の人間。今まで魔術を使っていないこともそれを裏付ける根拠になる。だからまあ、魔術をつかえないのはお互い様かもしれない。でも、魔道具を持っている可能性は十分ある。大の男相手に純粋な腕力で敵うわけもない。


 僕は人質。

 今更のように、身体に震えが走った。

 いや、最初からずっと、震えは収まってなんか、いなかったけど。


 恐い。どうしようもなく、怖い。

 状況を整理すれば、冷静になれるかと思ったけど、そんなこと全然なかった。むしろ恐怖が増大してきた。


 ……なんで僕は、ここまでこの状況を恐れているんだろう。


 いや、誘拐なんてされたら誰だって怖い。でも命の危険が迫っているわけでもない。それに、あの姉上が何にもしないなんて、あり得ない。

 そうだ、多分、僕は助かる。

 でも、怖い。嫌だ。この状況が、たまらなく。

 なんで?


 本当に、助けてくれるかなんてわかんないから? でもそんなの、信じるしか、

 ただ怖い、怖い、怖い……っ。


 混乱も極まってきて、思考がぐちゃぐちゃだ。

 頭がただ、繰り返す。


 ねえ助けて。

 この暗い、狭い場所から、助けて。

 いやだ。

 逃げたい。

 死にたくない。

 何で、僕がこんな目に。

 また、僕は、きっと、やってしまう。

 何を? わかんない、そんなの。


 ――ああ、ただ嫌だ、怖い、いやだいやだいやだ……っ。

 何で、僕が、僕だけが、こんな。

 また、こんな。


 どろどろとした感情が、吹き荒れる。


 何で、僕ばっかり。なんで、僕だけが、こんな目に。

 何をしたっていうの、僕が。何がダメだっていうの、今までの。

 悪いことなんて何にもしていないそれでも優しさも幸せも全部全部全部―――!


 ――ああ。



「……たすけて」



 細く声を漏らした、瞬間だ。

 目の前の空間が、大きくゆがんだ。















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