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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/16 その恐怖を知っている、(エルシオ視点)


 冷たい床が、頬に当たる。

 僕は手足を拘束された状態で、どこともわからない暗い部屋の中に転がされていた。

 窓はない。ドアは一つだけ。その隙間からわずかばかり漏れてくる光で、辛うじて室内が認識できる。

 部屋に放り込まれる直前まで目隠しもされていたからよくはわからないけれども、多分地下室だ。


「痛……」


 身をよじると、きつく結ばれている縄が擦れた。殴られた頬もひどく腫れていた。口の中を切ったのかもしれない。鉄の味がした。うめいて、それでも何とか体を起こして、ぼんやりと部屋の中を見つめる。

 暗く狭い室内。普段は物置として使っているのかもしれない。雑多なものが無秩序に積み重なっている。


 こんな場所を、僕は知らない。

 これから、僕はどうなるんだろう。


 ――なんで、こんなことになったんだろう。


 虚ろな闇に、思い起こす。






 ――それは、いつもの夜。剣の稽古を終えて、慣れてきたとはいえやっぱり疲れていたから、僕は倒れこむようにベッドに身を投げ出した。

 そのまま引きずり込まれるように眠りに落ちて、どのくらい経っていたんだろう。


 不意に、意識が上昇した。


 なんでか、最初はよくわからなかったんだ。月明かりもささない室内は静かで、真っ暗で。何にも、変わりなんてないように思った。……すぐに、それがどんなに間抜けな認識か、知ることになったけれども。


 僕が、馬鹿だったんだ。油断、するなんて。違和感があったから目が覚めたなんて、決まっているのに。


 カタ、と音がして。

 寝ぼけた目でそちらを見た。

 ――そうして次の瞬間には、全身の自由が奪われていたんだ。


「……!? ……! ~~~~!」


 瞬時に、僕はパニックに陥った。

 けれども猿轡を噛まされて、叫びは音にならない。


 何で、何が。

 訳が分からない。


 混乱する頭の端っこで、『侵入者』『賊』という単語がちらついた。

 無我夢中でもがいたけれども、相手は大人の男が数人で、手慣れた様子で僕の両手足を拘束していく。殺すつもりはないらしい。


 そうか、これ、は。

 ――『誘拐』。


 ここで殺さないということは身代金か何かが目当て。

 僕が、公爵家の人間に、なってしまったから?

 思い至って、血の気が引いた。


 まずい。

 この状況は、まずすぎる。


 どうやったのかはわからないけれども、この賊たちは屋敷の厳重な警備をかいくぐって僕の部屋までやってきた。ちょっと引くくらい強固な警備体制なのにそれを突破したのなら大した手練れだ。


 逃げなければ。

 まずい。

 抗わなければ。

 恐い。

 いやだ。


 ――そんな風にあせりながら、でも僕の思考の一部は、冷静さもあったんだと思う。

 だって、曲がりなりにも貴族なんだ、僕だって。公爵家に引き取られる前も、そんな扱いされていなかったとしても、貴族、だった。

 拘束された今は下手に刺激をするべきじゃない。

 隙を伺って、犯人の特徴を頭に叩き込む。

 使用人や護衛に、出来るだけ早くこのことが伝わるように。

 出来れば自分で、撃退できればいい。


 そう。

 出来ることを、無駄なく。

 やる、べきだとわかっていた。


 ――でも。

 なぜ、だろう。

 そんな風に考えることは、確かに出来ていたのに。

 冷静な僕だっていたはずなのに。


 震えが、止まらなかった。







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