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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
プロローグ
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0/5 神かもしれないが気にしない


 いや、悪態をついても堂々巡りだ。私は開き直ったのだ、前向きに行こう。


 なぜならば時間の無駄だからだ。


 ……うん、ていうか、この期に及んで私にはさらにもう一つ、懸念要素があったりするし。


 まあ、何度も言っている通り、私には前世と今世の詳細な記憶がしっかりがっつりあるわけだ。


 で。


 一週間奔走しているうちに、ちょっと待ってくれ、これ……前世でも今世でもないっていうか……死後と転生の狭間か、そうなのか、的な、ますますファンタジックな記憶までもがあったりしちゃったことに気づいてしまったわけです。さらば現実(リアル)。こんにちは幻想(ファンタジー)



 もうこれ未練たらしいとか女々しいとかいう問題じゃない。



 執着心強すぎるだろ気持ち悪いな。



 と、我がことながら顔を引き攣らせるしかない。いい加減にしろ、私。


 でもまあ、さすがにそんな生きても死んでもいないような微妙な存在であったときの記憶が詳細に残っているわけじゃない。


 気が付いたら、青っぽいっていうのかな? ぼんやり光ってて、その光が青だったっぽい感じの謎の空間に、私はいた。そんでお約束なんだけど、人間じゃないっぽい威圧的な存在が、私の前にたたずんでいたわけだ。


 そうかお前が神か。


 魂な私はそう思ったわけだ。するとその威圧的な存在が、私に向かって言いくさったことには。


 ――『いかにも。我は人間が、神と呼ぶ存在……』


 とても重々しい声であったが私が感じたのはただ一つ。


 人の思考を読んでんじゃねえよ。


 そしてなぜ当たり前のように上から話してくるのだこの人外。『我は全能なるうんたらかんたら』などという自慢に興味はない。


 と、いうか。


『人を残念な死に方で昇天させておいて、他に言うことはないのか自称神』


 微笑みと共に言いきった私は己に大変正直なのだ。まあ魂であった私に顔はないのだが、青っぽい光である自称神も同じようなものだ。自称神のきょとん、とした雰囲気が私に伝わったのだから私のさわやかな笑顔もヤツに伝わったはずだ。


 ともあれ、腐っても自称神だからか、敬意のない私に非常に動揺していたことを覚えている。ざまを見らせ。


 ちなみにそんな自称神を前に私は鼻で笑ったのだが、そうしたら怒りを示された。


 しかし私は謝らない。なぜならば明らかに先に礼儀を欠いたのはあっちだからだ。『親しき中にも礼儀あり』。親しくもないのになぜいきなり上から目線をもらわなければならないのだろう。『神』だから無条件で偉いなどという方程式は私の中には存在しない。尊敬する対象は自分で決める派だ。


 しかも相手が『神』ならば、むしろ私を殺したと言っても過言ではない相手。だって自称『全能なる』神なのだろう。ならば運命や死因を司っているのもヤツだ。異論は場合によっては認めよう。


 ともかく、私は望んでもいない残念な事故で死んでしまった元日本女子な魂である。


 神だからと無条件で偉いという方程式が存在しない私には当然のように神だから敬うという方程式も存在しない。


 つまり、現時点で尊敬する要素を見いだせていない。


 私は、神だろうが人だろうが悪魔だろうが、礼儀知らずに礼儀正しく返してやるほど広い心は持ち合わせていないのだ。傲慢さこそが私のトレードマーク。前世の親友がダメなものを見る目で私に断言したから間違いない。


 ともあれ目の前の自称神、絶賛憤怒中で何やら叫んでいたのだが、聞き流してこう返したのも私が死んでも私であったことの表れだろう。一回死んだくらいで人間は変われない、実体験だ。


『はいはいはいはい。――で? さっさと転生なり消滅なりしたらいかがでしょう』


 パンパンと手を叩いたつもりになって、ふうとため息。なぜか音がした。なんでだろう。ともかく眼前には絶句の自称神。自ら転生と消滅の可能性を提示する魂な私。まさかその結果が『シャーロット・ランスリー』なのだろうか。何してんだ自分。


 まあいい。


 ちなみにこの時も別に自称神の顔は見えてはいない。物理的に眩しかったからだ。


 そんな眩しい自称神は地団太踏んで口惜しがってました。喚いたことには『あああ、やりにくい!』。恐縮です。


 さて、ひとしきり暴れた後、なんかそれまでの醜態をなかったことにしようとしたのかごほん、と咳払いをした自称神。


『しかし私は忘れない』


 なかったことにはしませんが何か、と小首をかしげた私はどや顔をしていたと思う。だって自称神の珍行動はまさに子供。指がなかったから指をさして笑うのはやめてあげた。


 まあ十分とさかに来た自称神、ふぬぬぬぬぬとか唸ってたけど。


 しかしそこで。


 ――『と、とにかく! 我はそなたに命じる』


 何とか自称神は持ち直した。話を進めたかったのだろうか。

 しかしはて、命じる、とはなんぞ。訝った私、続けた自称神。


 ――『そなたは選ばれたのだ』


 選ばなくていいのだけれども。さらに私の眉間に皺が寄る。

 が。


 ――『直さ……ならん。そなたはこれから転生……』


 この辺りからなぜか非常に聞き取りづらくなってきたのだ。なお、自称神を光源とした光も増して眩しかった。

 だのに自称神はさらに続けて。


 ――『かの……の……』


 ノイズが入る。


 ――『ねじれ……を…………』


 聞こえない。


 肝心なところが、どうも妙に掠れていて。さっきまで普通に聞こえていたはずだが何故だ。実は伝える気がないのか。


 結局、いったい何だというのだ自称神。


 そんな幕切れ。後味が悪いにもほどがある。なのによくわからないうちに、私の記憶は真っ白になって。


 そして現在、シャーロット・ランスリーとしての記憶が始まるわけなんですよ。










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