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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/11 すべては彼女の手の内に


 さあ夜だ、作戦決行だ、ガンガン行こうぜ!


 ――とか、思ってました。

 うん、思ってたんだけどね。


 部屋に居たら、予定の時間よりも早いのになんか屋敷内が騒がしいな、と思っていた。しかし使用人さんたちが血相変えてるわけだ。いったいどうした、いつもの貞淑さは何処にいった。


 まあ、私をさがしていたらしいんだけど。ごめん、すぐに出て行かなくて。


 私、最後の調整で屋敷をちょっと離れてたからさ、大慌てで探させちゃったみたいなんだけれども。もう一つごめん、転移で直に部屋に帰ってきて。一番最初に探したのにいなかったから屋敷中大捜索になったようだ。反省しています。


 まあ、それはいいとして。


 結構な、深夜なのね、今。

 なぜ私は探されていたのか。

 ――と、聞いたらですよ。その返答がこちら。


「エルシオ坊ちゃまが、どこにもおられません!」


 マジか。


 なんという不測の事態。イレギュラーにもほどがある。

 エルシオ少年よ。君はいったいどんな星の下に産まれてきたんだ。運命を引き寄せる強力な磁石でも内蔵しているのか。事件体質か。


 ……じゃなくて。


 何故に、今日。そう、なぜに今日。

 部屋が若干荒れてて? エルシオ少年が心配をかけるのに黙って出ていくわけがなくて? なのに何処にもいない?


 誘☆拐!


 真夜中、泡くった使用人からもたらされたその情報に、さすがの私も「え、ガチで?」と聞き返してしまいそうになった。

 いや、聞き返さなかったけど。報告してきた人、今回の『荒療治』のことすら知らせていないエルシオ付きの侍女さんだったので。淑女然として、姉然として、口元に手を当てがって、


「そんな……!」


 って驚いてみせた私、演技派。

 んで。


 そんなこんなで当然、私の捜索があろうがなかろうが真夜中にもかかわらず屋敷内は上を下への大騒ぎ――に、なりそうですけど。いや、普通はなるけど。


 だがしかし私に情報がきた時点で早急に収まっていく動揺。静まる使用人の皆。整う迎撃態勢。さっきまでのてんやわんやは何だったのか。素晴らしいこのスマートさ。


 何故なら私が私だからです。

 この絶対的な信頼。大分信者化が浸透している……。


 ではなくて。


 取り乱したエルシオ付きの侍女も、私がちゃんと落ち着かせておきました。可愛らしく頬を染めて下がっていきました。

 ……なんだか背後のメリィの視線が痛いのは嫉妬なのかな。大丈夫、私は等しく貴方たちを想ってる!


 まあいい。


 とりあえず、ちょっとだけふくれっ面なメリィに紅茶を淹れてもらって、私は椅子に腰を落ち着けた。うん、紅茶がおいしい。


 ええ、私は余裕ですが。ていうか私が余裕だからみんな急速に冷静になったのですが。


 いやいや、さすがにこの展開にはちょっと驚いた。というか驚かないはずがない。なんなのエルシオ少年は誘拐体質なの? エルシオ少年の生まれた星の位置を逆算してしまったくらいだ。というかうちの邸に侵入するとか、誘拐犯、度胸ある。


 どっかの貴族の手先かな? 噂の回り具合からして。

 その辺の調査は領主代理の仕事だ。

 ま、何にしろこの程度の予定外は許容範囲というのもある。


 誘拐って言っても、公爵令息を攫って行って、やることがすぐさま殺害はありえない。殺すのが目的なら攫う必要がそもそもない。リスクを余計に負うだけだ。


 個人的な怨恨で痛めつけたいとかの線も薄い。だってそうならないように立ち回って来たし、芽は早々に私が潰してきた。そもそも私もエルシオ少年も現時点で噂の域を出ない行動しかしていない今、早計な行動は自滅にしかならないことくらい少し考えればわかる。エルシオ少年がランスリー家の養子になったことを妬むとしてもそれで手を出すには魔術特化な筆頭公爵・ランスリー家は特殊過ぎる。


 つまり、エルシオ少年自身が目的かもしくはそれを盾になにかランスリー家への要求がある。


 人質っていうのは生きててなんぼ。

 さして時間たってないし、十中八九エルは無事。


 ま、抵抗したら多少殴られたりするかもしれないけども、殺されることは今の時点じゃあまずない。そしてエルだって曲がりなりにも生まれながらの貴族。それくらいわかってるでしょう。ってことは下手なことはしないはず。


 短慮を起こす阿呆が下手人の可能性もないとはいえないから迅速さは不可欠だが。


 でも私が言わずとも『影』たちはとっくにエルの居場所を突き止めに走ってる。領主代理の尻も叩いておいた。

 犯人な貴族の判明も時間の問題だ。能力面で不安はそうそうないからね、今の領主代理様は。

 なにしろあとがない国王の渾身の人選。

『影』たちも優秀さは折り紙付き。


 私が焦ることは無意味かつ無駄に不安をあおることにしかならない。


 最悪、魔力探知すればいい話だし。ぶっちゃけ、やろうと思えば国中にアンテナ張れないこともない。そうすればエル一人くらい見つかる。あの子魔術使えないからか殆どコントロールも出来なくて垂れ流しだし。


 ま、さすがの私でも、それをやるのは魔力消費が激しすぎるし、目立ちすぎるから最終手段だ。


 てか、うん、誘拐犯もね、アレだ。うちに侵入してエルシオ少年を攫って行った手腕は褒めてあげるけど、それ多分『荒療治』の前準備の所為だし。早々にうちの侍女にばれて、私に速攻連絡来ちゃったんだからこの誘拐犯さん実際は大したことないだろう。


 ていうかあれだな、この状況は利用してくださいと私の下にスライディング土下座で頼んでいるのと同義だ。

 こんなうってつけの状況、利用しないという手が思い浮かばない。

 エルは今頃脅えているか、助けを待っているか、それとも意外に冷静だったりして。


 まあ、何でもいい。


 私がやることは、変わんないし。

 荒療治、荒療治。

 ストーカーな粘着王子にビビらなくなるくらいには、効き目があるといい。


 ――とか思いながら紅茶を飲んで、待つことしばし。

 わずかに天井から伝わる気配に、立ち上がる。


 エルの居場所が分かったようだ。おっけー、予想の範囲内にいるし、『影』さんたちはホントに優秀。後でボーナスを弾んであげよう。


 さてさて。


 荒療治、荒療治☆













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