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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/10 自己満足で構わない


 さて荒療治。

 手抜きなどせずにガツンといこう。


 エルが来てもう半月もたってるのだ。ランスリー家の御家事情は王様たちにも話は通ってる。なぜだか会わせろとしつこいジルを華麗に無視して、謁見もひっそりと済んだ。そろそろ上流階級にも噂も出回ってる。


 ランスリー公爵家の跡取りは、ってね。


 そうなると、社交の場に引っ張り出されるまで、そんなに猶予はない。

 つまり遠慮はしません。今だって第二王子を筆頭に、面会の申し込みや茶会の誘いがちらほら舞い込んでるのだ。遠まわしに婚約の申し出も混じってた。気の早いやつもいたものである。まだ噂に信憑性が薄くてたいていの貴族さんたちは様子見ってところだが。


 ……しかしジルは……どういう事だろうか。最初からあんまりうるさいから、友達のよしみで直接、「うちの子はコミュ障だからしつけが終わるまではほっといてくれ」と言っているのに、それでも会わせろというしつこい矢のような催促をしてくるんだけどあいつ。まさかの一日三通の手紙。そして日を追うごとに増える。雪だるま式か。


 え、なにこれ恐い。やだこれキモイ。目的、目的は何だ。そんなに興味を引くようなことはなかったはずだ。なぜなら「儚げ美少年」という情報しか私は漏らしていない。


 さてはそんなに儚げ美少年が見たいのか。なんでだ。確かにエルシオ少年はたぐいまれなる儚げ美少年だが貴族は血筋で顔だけは整ってるし、王家ならなおさらだ。美形ならそこらにあふれている、それで満足しておけ。そもそも自分が美少年筆頭だろうジルファイスよ。


 ……あれ、ていうかこれストーカー? ストーカーなの? まさかのそっちの道に目覚めたの?

 もともと粘着王子だのストーカーだの言ってたけど。あくまで苦笑いで済む範囲だったよ、あれ。何より対象が儚げ美少年だと、そこはかとなく禁断の香りがするんだけど。


 私の悪友が新しい世界に頭からダイブしていた可能性について。


 それは……うん、どうしような。


 とりあえず結界張って奴を進入禁止にした。ついでに手紙も全部無視してる。

 中身? 読んでない。


 今日も今日とて何も見なかったことにしてスルーしてるから。使用人さんたちももうわざわざ私のところまで持ってこないから。主の意図を汲める彼らはとても優秀である。王族<私という彼らの中の揺るがないヒエラルキーが愛しい。私、愛されてる。


 そしてそんな私たちはうちの義弟を未知なる世界へ引きずり込む気ならば軽く教育的指導を施そうかと思っています。

 いや、ジルの好みがそういう方向でも私は一向にかまわない。そんなもんは個人の自由だ。まあ前世の世界ならまだしも血を繋ぐことが重んじられるこの世界ではなかなかハードモードではあると思うけど、私個人は割と気にしない。ただ、うちの義弟が望まない場合は阻止するというだけだ。私の全てを使って。

 王族への敬意とかそんなもん手紙と一緒に燃やした。

 割と最初から持ってなかったともいう。


 まあともあれ今はストーカーの駆除より義弟の荒療治だが。

 ……いや、エルが実はすでに新しい世界の扉を開いていた場合は、アレだ。お姉さん温かく見守る体勢に入る所存だけど。でも今はね、それは置いておいてだね。


 荒療治、荒療治。


 そう一口に言っても、いろいろと準備がいるわけだが。何をするにも根回しって大事。手を抜いて不味い事態を引き起こしたら目も当てられない。

 これ、結構、大分……色々なものが弾けた作戦だからね!


 何をするのかと言えば全力で楽しめるあれこれです。


 楽しいのは私だけど。


 いやまあ、死にはしない。相手は大事な大事な我が公爵家の跡取りさまだ、怪我などさせない。

 ま、多少予定外のことが起こってもぶっちゃけそれはそれでいいかなって思ってたりもするが。なんてったって荒療治。荒ければ荒いほどに効き目はいいと思う。


 私は生粋のお貴族様、むしろ表面上箱入り過ぎるお嬢様だけど。

 前世親友に『怖気がする』と言われた笑顔でもってその『箱』を破壊しよう。


 人生は経験。甘ったれていては渡っていけない。美少年が眼福でも私はそこまで頭に花は咲いてない。

 というか、親しくなる努力はするし、心を開いてもらえるならその方が楽ではある。ぎすぎすな姉弟仲なんていろいろと疲れるのが本音だ。


 でも別に、私は優しい人間じゃない。

 必要があるなら、いつでも手の平を返す。


 いや、正直に言うのであれば打ち解けてきているし、仲良くもなっているだろう。エルシオ少年は正しく『ランスリー公爵家』に救われた。

 このままいけばいつか私への微かな嫉妬や怨みを忘れていけるだろう。

 魔術が全てじゃないから、他の部分で補うことは出来るし、領主としての統率力や管理能力はあの子の努力なら身につくだろう。

 エルシオ少年はそのままでも『いい』領主になれる素質がある。


 でもくさいものにふたではだめだと思うの。


 だって、『そこ』を突かれて、崩れる可能性が捨てきれない。その危険性が看過できないほどに、エルのトラウマは大きすぎる。


 あと、普通にもったいない。

 ええ、私のエゴですが、何か。


 あの子の能力は高い。才能だってある。それを使わないのは無駄極まりないだろう。

 いや、美少年だっていうことも相当ポイント高いですが。


 何度でもいうが、私はエルシオの可能性を買っている。


 トラウマなどというものは指先でひねりつぶせるくらいの気概はきっとある。エルの場合、トラウマが自信のなさにもつながってるから、それの改善も兼ねてるしね。

 ついでにメンタルを鍛えた暁には美少年に群がるハイエナも上手に利用すべきだと思ってる。ほら、ストーカー王子とか、あれ使えるから。


 さてさて。そんなわけで、エルシオ少年に気づかれないように準備して、数日。エルシオ少年と私の行動スケジュールが被ってるからちょっと時間がかかってしまった。万が一にもばれないように、使用人さんたちにも極力秘密にしてたのもある。フルで動けたら一日で終わったんだけどね、この程度の仕込み。

 まあ、一日だろうが数日だろうが、結果にはさほど関係ない。


 決行は、今夜。

 最近は裏方ばっかりだったから、かなり楽しみです。


 さあて、我が義弟はどんな顔をして、この試練を乗り越えるかな。

















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