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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/3 眠る原石


 魔術が使えない。それは魔力がないという事ではない。


 魔力はある。でも、使えない。コントロールができない。暴走もしないけど、術が発動しない。……貴族は多くが魔力持ちで、幼いころから家庭教師をつけられ、ある程度の技を習得するのが常識。我が師匠である魔術狂は行き過ぎていて清々しいけど。戦闘行為を軽々とこなす未就学生徒はいないと断言しておこう。……まあ学院に入学する前に基礎ぐらいは一通り身につけているものなのだ。


 でも、エルシオ少年はそれが『普通』にできなかった。


 ――異端は迫害されるもの。いつの時代でも、どの世界でも。


 例えばかつて前世の日本でも同様の問題が歴史の中で繰り返されたように。


 だからエルシオ少年は迫害された。敬遠され、冷遇をされた。通常与えられるべき『愛情』というものがひどく希薄だった。

 そしてそれは、許容してはいけないものであるとしても、現実に貴族の家ではよくある思考と言ってしまえる。


 膨大な魔力はそのまま武力につながる。ランスリー家がただそれだけで特別であるように、魔力は貴族のステータス。持っていて使えていて当り前。

 人など千差万別だとしても、『そうでなければならない』という風潮。それが誰が明言したものではなくとも。


 人によってはそれこそ、そこだけに価値を見てしまうほどに。


 でも、それを踏まえて、私はエルシオ少年の家族に言いたい。


 君達には観察力・考察力共に欠けているようだと。


 人間の価値がただ一つの要素に集約されてたまるのものか。


 そもそも考えてもみればいい。エルシオ君、美少年だともっぱらの噂なんだ。噂になるほどの美少年、なんだ。



 愛でようぜ!



 美しさはそれそのものが武器と言うのは私が実証済だ。しかも儚げ美少年。粘着キラキラ狸王子ではなく、少女めいた美少年貴公子。なんという優良物件。

 そんなことも理解できないのか最近の阿呆どもは。美少年の価値を軽んじ過ぎである。最大限に活用してはばからない王子がキラキラと王城で笑っているというのに何を見ているのだろう。


 その上、彼らが気付いていないだろうことはまだある。


 うちの両親が引き取ると言ったことの意味。そこに含まれているのは安い同情だけではなく打算計算謀略。うちは曲がりなりにも筆頭公爵家、押しも押されもせぬランスリー家なのだ。

 うちの両親は最良の領主ではなかったけれど、無能でもなかった。そして魔術に関しては専門家ともいえる。


 エルシオ少年は魔術を使えない。しかし魔力は持っている。

 その魔力の質は、ランスリー家との血のつながりを確かに感じるほどのものがあるのだ。

 魔力量も、私やジルには及ばないけど伯爵家の中においては断トツ。本当に遠い親戚で薄い血のつながりしかないのだが、隔世遺伝に似た何かなのだろう。


 さらにもともと勤勉で剣もそこそこは使えるエルシオ少年。しかも美少年。

 磨けば光る。その片鱗がある。努力をできることも分かっている。

 魔術は確かにステータスだ。でも領主に必要とされる才覚の一番はそこじゃない。

 魔術に長けているだけで為政者として仰がれるのであればランスリー家は公爵ではなく国主となっていただろう。


 他者を一面でしか見られないのならば頭悪い貴族の典型として私が憐れんでも仕方がないとは思わないだろうか。


 そんな体たらくだから横から掻っ攫われるのだよ。

 そして手に入れたものは返さないのが私です。


 ざまをみらせ。


 ――でだ。


 何で、両親の死から二年もたった今頃になってエルシオ少年がうちに来たのかと。これにも答えなきゃいけませんよね、当然。

 まあ、答えは簡単。


 忘れられてたんです。


 大変申し訳なかったと思っています。全面的にこちらの過失だが、元凶は豚領主代理であることだけは明言しておきたい。


 つまりだ。


 うちの両親が病に倒れる寸前に、契約自体は完了間近だった。引き取る寸前だった。まあ、まさかの私は全然知らなかったというサプライズはあるが。でも両親が病床の床についてしまって一寸お話ストップ、快癒してから正式に完了しようってことになったらしい。


 でも、病に倒れた後二人立て続けに天に召されてしまったもんだからさあ大変。


 この話が、私にも知らされないくらい極秘に進められてたのが余計に悪かった、というか私は使い物にならない状態だったので。


 執事長辺りは把握していたはずなんだが、いかんせんあの腐った根性の馬鹿領主代理がやらかした所為でうやむやになっていたそうな。合掌。


 ところがどっこい、最近うちの領は治安回復評判すこぶる快調。

 豚領主も断罪されたし?

 で、伯爵家の方が動いた。


 色んな確認とか、うちの方のごたごたとかが完全に収まるタイミングを狙ったら、今から三か月前――あのお茶会の日になったってわけで。

 それから、いろんな確認をとって、用意をして、両親の遺書とかをひっくり返して、使用人さん達とか伯爵さんたちとかの兼ね合いを終わらせて。

 色々な手続き確認をやり直してたら、いつの間にか三か月もたってたんだよねえ。


 いや、重ね重ね申し訳ないエルシオ少年。


 ――で、だ。


 ようやく全ての準備が終わった本日、私とエルシオ少年の顔合わせなんですよねえ。


 オッケー、美少年カモン☆

 エルシオ・ランスリー。なかなかいい名前じゃないか。愛称はエルだな!

 アッケンバーグ伯爵とともに、そろそろつくころかな?

 うん、楽しみです。

 うん。


 ……うん?



















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