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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/2 エルシオ・アッケンバーグ伯爵令息


 エルシオ・アッケンバーグ。


 アッケンバーグ伯爵家三男である彼は継嗣ではないがれっきとした貴族子息ではある。ていうかその辺りの貴族事情は世知辛いものがあって、大体年功序列だからよほどのことがなければ長男が継嗣。何かあった時のために教育されるのが次男。三男はこう……ちょっとぷかっと浮いてしまうところがある。財政に余裕がないと、余計に。エルシオ少年もまあそんなぷかっとした三男の立場だったわけだ。


 さて、そんな彼、年齢は私の一歳年下、十歳。ま、あと一、二か月で誕生日なので普通に同学年だ。

 上にはお兄さんがもちろん二人、そしてお姉さんも一人。長兄は問題なく継嗣として教育されていて、下のお兄さんとお姉さんは魔術学院に在学中。もちろん、エルシオものちには学校に通い、騎士なりなんなりなるはずだったろう。珍しくもない話である。長兄さんがそれなりに優秀だということで、家督争いもこれと言ってない家だから、よけいに。


 では、なぜそんなエルシオ少年がうちに来ることになったのか?


 ――まあ、貴族の次男・三男が養子に行くという話はそこそこなくはない。子供の性別は選べないしね。……だから男尊女卑をすぱりとやめればいいと思うの。王妃様然り女性の為政者って男性の為政者よりも時に強かだと思うの。女には女の戦場があって単なる役割分担であるという考え方もあるけどね。


 まあそれはいいとして。


 ……それでなぜアッケンバーグ家の三男がランスリー家に、というのはやっぱりアッケンバーグ伯爵家はうっすいけどうちと血のつながりがあるってのが一つ。


 そしてうちは私以外に直系がもういない。何この近親者の幸薄さ。呪いですかと聞かれれば割と呪いですよと真顔で答えられるからちょっと笑えないんだけど。


 なぜってランスリーの血筋は魔力が強すぎて体の方が結構もろい人間が多かったりするのが原因で短命だし子供があんまりできないんだよねえ。


 うちの両親も私以降の子供は望めないと言われていたし。


 ともあれ、現状うちでは、私が婿を取るか養子をとるかってことしか家督を継ぐ者がいないわけだ。

 で、うちと多少血のつながりがあるってことで伯爵家にお話が行っていたそうです。両親の生前、ね。私は知らされてなかったけど。


 父よ、そこは知らせておこうぜ。将来の家族について娘にも了解取っておこうぜ。


 なぜ肝心なところで意思疎通がうまくいっていないんだ。溺愛を拗らせた挙句のサプライズ? サプライズのつもりだったの?


 やめて、あの頃の人見知り勘違いちゃんな私だったら、そんな衝撃の事実聞いた瞬間泡を吹いて気絶した自信がある。むしろ私の気絶が両親にとってのサプライズで大事件である。なんという連鎖。『弟』が話に置いて行かれる未来しか見えない。


 ……話がそれた。


 エルシオ少年な。そんなこんなで彼はうちに来ることになってたんだけど、ただ、受け入れるのは別に次兄君でもよかったんだ。だって、次兄君の年齢は私より三つ上で、魔力量はそこそこだけど勉学もまあまあできるし剣術には優れた人らしいもの。長兄さんが継嗣として問題ない人だから跡継ぎ問題は起きていないけど、剣の腕なら次兄君の方がいいって話だ。


 ……うむ、そういう情報は、あれだね。ぜひ手合わせしたくなるね。完膚無きに叩きのめして地べたにはいつくばらせたくなるね! 違う、これは鬼畜じゃない、道場破りが趣味だった前世があるだけだ。強い相手との手合せは腕が鳴る、この気持ちわかっていただけないだろうか。


 ジルはそれなりに腕は立つけど、やっぱりまだ師匠たちのほうが強いのでなかなか逸材に巡り合えていないのだ。というかジルはやっぱお坊ちゃんなんだよね。王子様という究極のサラブレットがお坊ちゃんでなければ何がお坊ちゃんなのかと言われそうだが。ま、あの教育係殿の影響だろう、型から抜け切れていない感じがする。


 うちの師匠連は……奔放だからね。奔放というか……変態だからね。


 最近は見事ジルも麻痺してきたけど、公爵令嬢に嬉々として攻撃してくる大人はあんまりいないと思う。なんだろう、彼等の筋肉と魔術の前にはすべてが許されるみたいな超理論。しかし寛容にも私やジルが流されに流されて許しているから増長しているのかな? でも暑苦しく鼻息荒く筋肉と魔術について語りに語って迫ってこられるとすごく辟易してなんかもう色々とどうでもいいので近寄らないでくださいませんかって心境になるんだよ。


 多分師匠連は、私とは違う意味で怖いものがないんだろう。もうその独自の世界で強く生きていけばいいと思う。


 ……うん、またしても話がそれた。


 でも、そんな今がありつつも引き取る手続きをしていたのは次兄君でなく末弟のエルシオ少年。


 何故か?


 んー。これはなんていうのかな。うちのお父様とお母様の慈悲深い心っていうのかな?


 エルシオ少年は黄土色の髪にこげ茶色の瞳を持った、ちょっと儚げな印象の美少年だそうで。ジルも綺麗系キラキラ属性だけど、エルシオ少年はどっちかっていうと女の子に見えそうに線が細いんだってさ。文系属性で本が好きで、勉強熱心だったかな? でも一応バリバリ武闘派の兄のおかげでそこそこ剣術も使えるって話。


 ここまでだと、まあそんなもんよね、と思うよね。

 剣がそこそこで騎士に向かないからかな? って感じだよね。


 まあそんなはずがない。


 このエルシオ少年には、一つ問題があるのだ。


 それのせいで、実の父――現アッケンバーグ伯爵に疎まれちゃってるっていうか、冷遇されちゃってるっていうか。お兄さんたちも、稽古はするけど軟弱で父に冷たく当たられてる末弟とはあんまり積極的にかかわってない、というよりは親の言動はダイレクトに子供に伝染するので右倣えという。主人たちがそんなんだから、使用人さんたちも彼に対しては冷淡だそうで。


 何ていうか、アレだ。超放置プレイ。ネグレクトとまではいかないみたいだけど。……なんだろうこのしょっぱい懐かしさ。一年ちょっと前の我が身の状況と被る。かの自滅を望む元領主代理殿による子供を飼殺す畜生の所業を思い出す。


 まあ、アッケンバーグ伯爵一家の所業の理由はもちろんうちとは異なっていて、いわば選民意識だろうか。


 落ちこぼれは要らないよって感じのあれだ。

 ひねりがなくて下らないよねえ。


 うちの両親も、そう思ったらしい。感性の一致である。流石親子。


 ――まあそういうわけで、だから、エルシオ少年を選んだ。彼を、うちに引き取って、後継ぎとして育てることにした。


 なんというシンデレラストーリー。美談である。


 ぶっちゃけうちの両親だって同情だけじゃないのは明白だけど。慈善事業をやってるんじゃないのだ。打算計算謀略、無いはずがない。


 ――ここで話はエルシオ少年の『問題』がなにかっていうのがポイントになるんだけど。

 彼の『問題』は、言ってしまえばごく単純。しかし故に深刻なもの。


 ……まあ、この世界ではね。


 彼は、エルシオ少年は、魔術を使えなかった(・・・・・・・・・)のだ。
















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