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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第二章 家族の定義
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2/1 事実は唐突に


 時間は一気に三か月ほどたちまして。


 私は十一歳と相成りました季節は冬。あ、秋生まれだから、私。ちょっと前に誕生日でしたよ。誕生日会は内輪で済ませました。まあ内輪っていうか……うん内輪だよ。道行く領民さんに悉く祝われて最終的に全員踊り出すというテンションの高いことになったので規模は何処まで広がったのか考えないことにしたけど領民さんは皆身内なので内輪です。


 ちなみに復興していく中でナチュラルに畑仕事に参加したり井戸端会議に参加したり川での洗濯大会に参加したりして領民さんたちとは仲良くなりました。貴族と平民の壁はなかったことにして突き進んでいくスタイル。最初は皆恐縮したりひと悶着あったりしたけど今では『シャーロット・ランスリーはこういう子』と理解し合って受け入れている。この柔軟性、さすが私の領民。素晴らしい。まあ弁えるべきは弁えた関係だから何も問題はありません。


 さて、歳も上がりまして順調に調べは進んでおります。王弟公爵ことタロラード公爵の後ろ暗ーいところの証拠もいくつか掴んでるよー。もちろん、彼の協力者も着々と証拠固めが進んでます。はっはっは。素直な人は嫌いじゃないよ。大丈夫、ちょっと掌の上でコロコロするだけだから。気が付いたら全部終わってるから。


 まあそうは言いつつもさすがに『魔』たるエイヴァについては捜査が難航しているけれども、ようやくきな臭い感じの情報を掴んだところ。

 あとは外堀から埋めて行って逃げ場を一切なくすだけの楽しいお仕事です!

 ガンガン行こうぜ!


 ――とか、思ってました。


 でも、ここで強制的に閑話休題させられた私。


 なぜならば、うん。タロラード公爵のことも考えるのは楽しいんだけれど、そっちに決着がつく前に、我がランスリー公爵家に一つ問題が浮上しているからだ。

 それは何か。


 ――我が弟のことである。


 弟? 誰それそんなん居なかっただろとお思いの皆さん。


 正解だ、私には弟も妹もいない正真正銘の一人っ子だ。両親が他界したことにより一人っ子まっしぐらだ。

 だがしかし、今は二人姉弟です。

 なぜか?


 端的に言おう、養子をとったからだ。


 ……まあ、言葉にすると単純だが背景事情を含めればこれはこれでややっこしい話なんだけどねえ……。


 あの日です。楽しい楽しいお茶会in王宮で、腹黒二人が朗らかな微笑む鬼畜になって教育係兼宰相補佐殿と談笑してきた後、もちろん私はランスリー公爵邸に帰宅したわけですよ。


 ちなみに帰宅先は王都の別邸ではなく自領の公爵邸だ。普段過しているのも自領で相違ない。

 このご時世、転移門とかいう便利なものがあるので楽々使用人含めた団体移動が可能なのだ。


 はっきり言えば私個人の力だけで転移門と同じことは出来るっていうか、入り口と出口が固定されてしまっている転移門よりもあっちへこっちへ自由自在な私の方が格段に楽なんだけれども、団体様となると、『ランスリー公爵一行が王都に来て、帰った』という公的事実が必要なわけで。


 まあ能ある鷹は爪を隠すということにでもしておこう。


 ぶっちゃけ転移は『シャーロットのドキドキお忍び珍道中』で乱用しまくってるけど。


 はっは。

 だって行きたいところがいっぱいあるし。時間は有限だし! 使えるものは使う、これが私。


 一時期夜毎に徘徊してたのはやりすぎだった気もしなくもないけれど治安の向上に貢献しているから大丈夫だと主張する。そして私が知らない王都の裏道はない。そこにいたごろつきさんのお兄さんたちとは『友好』を深めた。とっても……優しかったですよ? やんちゃな盛りの彼等には少々物理的言語で教育的な指導が必要だったけれどもそれもなかなか有意義だったはずだ、お互いに。


 そして見事彼らは我先に私のお願いを聞いてくれるようになりました!

 今でも私の言うことを快く聞いてくれる大変気のいいお兄さんたちなのです!


 人徳です!


 前世友人が『貴方は何? 当たれば下僕を作れるの? そういう病気?』と沈痛な面持ちで言ってきた記憶が脳裏を掠めたのは気のせいだ。


 ……話を戻そう。


 充実したひと時を王宮で過ごして帰ってきたランスリー公爵邸では、なぜだか侍女さんたちが動揺していたのだ。忠実かつ謎のハイスペックに進化を遂げた可愛い可愛い我が使用人さんたちが、こぞってそわそわそわそわ。


 どうも、私の帰りを待ちわびていたようで。

 ――そしてもたらされた情報には、さすがの私もびっくらこいた。


 曰く。


「お嬢様、『弟様』のことでお話があるとのことで、『あの方』が――」


 おっけー、どういうことだろうか。


 え噓、私に弟とかいたの?

 そんなの聞いてないぜパパン、ママン。


 混乱している人間がよくわかっていないまま、まったく事情を判ってない人間に話そうとするんだから、事態はそれこそ混乱を極めに極めた。


 あの時の騒ぎはすごかった。私が記憶を取り戻した時に次ぐ大騒ぎだった。……なお、元領主代理を断罪した時がなぜ一番に来ないかというと、世間的には大事件でも事実は静かなものだったからだ。なぜなら脱四面楚歌を果たした私が指揮を執って完全に包囲網を固めていた。逃げ場はなかった。騒いでいたのは元領主代理の豚野郎だけだ。私たち、超冷静だったあの時。


 それはともかく。


 何はともあれその日その時、極まった混乱に私は己の理解より先にまずは彼らをなだめることから始めなきゃいけなかった。


 いやまあ、それ自体にはそこまで時間かかんなかったけどね。


 侍女――メリィの顎をとらえて頬につうっと指を滑らせて耳元でささやくんです。


「慌てないで、かわいいメリィ……。私の目を見て、ゆっくり話してごらん……?」


 熟れたリンゴのように赤面するメリィは大変眼福でした。


 それまでの混乱とは違う悲鳴が屋敷を満たしたけど。でもそれは私がにっこり笑って人差し指を唇に当てて、


「静かに……ね?」


 って言ったら静かになってくれたので大丈夫。何も問題はない。私の家の使用人さんたちはみんな本当に大変可愛い。


 で。


 そうやって宥めた使用人さんたちからかわるがわる話を聞いたところによると、だ。


 我が『弟』の名は、エルシオ・ランスリー。

 旧姓、エルシオ・アッケンバーグ。

 ――アッケンバーグ伯爵の末息子、だった。













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