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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第一章 貴人の掌
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1/25 信じてた?


 さて。楽しい楽しいお茶会in王宮です。

 目の前には、傲岸不遜な灰色の目をした壮年の教育係兼宰相補佐様です。


 唐突ですが此処で、私のモットー。

 売られたものは、買わなくちゃいけないと思うのですよ。

 しかも高く売りつけられてるんですからね、快くお買い上げしてあげるのが筋だと思います。


 さあ後悔の時間です。


 とりあえず、にっこりとほほ笑んでおきましょうか。


「ふふふ」


 もともとの容姿の良さも合わさって天使のような笑顔だったと思う。


 なぜならば目の前の男二人は間抜けにも口を開けて呆けているからだ。ジルファイスはひきつってるけど。その引き攣り、このタイミングの私の微笑みに嫌な予感しかしないとでも言いたげだけどキラーパスを出してきた張本人に文句を言われる筋合いなどない。


 ちなみにこの微笑みの意味としては。


 教育係殿に対しては『その喧嘩高く買いますわ☆』で、ジルファイスに対しては『馬鹿が喧嘩を売ってきた。お前も強制参加だぜ』です。


 さあて。


「まあ、いやですわ。ジルファイス殿下ったらご存知でしょうに。宰相補佐様に話しておられませんの?」


 ふふっと口元を覆えば教育係殿はわずか困惑、ジルファイスは苦笑。……そしてその苦笑は、私とよく似た朗らかな微笑にすぐに変わった。


「……ええ、まさか知らないとは思わなかったもので。……ランスリー公爵領の街道整備及び、魔物対策は非常に興味深い結果を出していますからね。陛下も注目しておられますよ」

「まあ、光栄ですわ。陛下や殿下には及ぶべくもありませんが、領民のため、領地の為……我が家には有能な執事や魔術師がおりますし、陛下のお心遣いで来ていただいている領主代理殿も『素晴らしい』方ですので、皆様頑張って下さっていますの」

「いいえ、聞き及んでいますよ、ランスリー公爵家の私兵はどの町にも均等に警備がいきわたるように努めておられるのでしょう?」

「魔物対策だけでなく警備には気を使っているはずですわ。それは父の代から続いております」

「謙遜なさいますね、シャーロット嬢は慎み深い」

「皆様の尽力のおかげで守れている領地です。わたくしは何もできておりませんわ」


 ふふふ、ははは。

 朗らかに笑う美少女と美少年の図である。


 完全に教育係兼宰相補佐殿を置き去りにして。


 その教育係兼宰相補佐殿は途中で何やら口を挟もうとしていたみたいですが、綺麗に無視して続けました、私たち。


 困惑に呆けた顔が大変滑稽である。


 ……自分が育てたと言っても過言ではない『ジルファイス』が、自分が分からない話をしているというのがそんなにショックかな?


 喜ぶべきなんだよ、マーク・ビオルト教育係兼宰相補佐殿。


 理想を押し付けてそこに押し込めようとして、己の願う結果をジルファイスが出すことは当たり前で。

 他領の事情も把握し、貪欲に知識を求める姿勢は『有能』な『王族』そのものでしょう。


 そのぽかんとしている顔は大変面白いけども。ビシリとした印象ががらがらと崩れていくけども。ほら見て君と一緒に実はしれっと入ってきて控えていらっしゃった侍女さんたちが噴き出しかけています。すごい頑張ってるけど顔が赤くなって肩が震えてるよ侍女さんたち。我慢できないなら直視しちゃだめよ。それともあれ? 美少年の味方な侍女さんたちは実は教育係兼宰相補佐殿嫌いだったりしたのかな。すげえ納得した。おっけー、期待に応えてもっとやろう。


「……あら、どうなさいましたの、宰相補佐様?」


 正しく戸惑うような色を乗せて、彼を見る。

 ジルファイスもそこで、初めて気づいたかのように彼を見る。


「……どうしました、ビオルト殿。まさか本当に、ランスリー公爵家の警備体制を知らなかったとでも?」


 まさか、と朗らかに言う王子は、

 ……すっごく嫌味だと私は思います!


 なぜなら我が家のそんな万全警備事情は、情報統制されていたからだ。

 正確に言うと私が規制していた。


 だってほら、私が指示飛ばしてたし。香とかのことは実はジルファイスもまだ知らないし。しかも魔物の大量発生とか、絶好のストレス発散だったから。一枚も二枚も私自身が噛んでいるっているか物理で絡んでるっていうかそんなわけなので必要以上のことが広まらないようにしていたんです。


 でも国王やジルファイスにはある程度話していたことも確かだ。一定の報告義務があるからね。私の思惑を理解できている彼等ならどこまで誰に何を話していいかなんてわかっていると信用しているし。


 しかし、教育係兼宰相補佐殿は言ったのだ。


「……不勉強で申し訳ありません。陛下も注目する興味深い結果、とは……いったいどのようなものなのでしょう」


 苦虫を噛み潰したような表情を、無理やり取り繕って。


 確かに国家高官であっても、他領の内部事情を詳細に把握することは難しい。でも、彼ほどの能力を持っていればある程度の情報を収集することは不可能ではない。それなのに、この状況下で、いっそ不自然なまでに教育係兼宰相補佐殿が知らないっていうのは。


 信頼されていないということに他ならない。

 それも、彼の妄信する『王族』に。


「ランスリー公爵領の、魔物による年間被害は十件に満たない現状なのですよ、ビオルト殿」


 爽やかに言った王子、息をのんだ教育係兼宰相補佐殿。

 私は内心あくどくにやりと笑いました。


 さあ、やっちまいましょうか、王子様?












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