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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/6 惹かれるように転げゆく、


 結論から言うとエイヴァはお菓子が食べたかったらしい。お茶会に用意するお茶菓子について話していたのがいたく彼の心の琴線に触れたようだ。迂闊であった。エイヴァが我が邸で盗みをたびたび働くほどの菓子狂いであることを失念していた。だがしかしいまさら気づいたところで時すでに遅し。エイヴァは私の『影』・ディーネ&ノーミーと壮絶な追いかけっこを繰り広げなくても美味なる甘味を手に入れることができる機会を逃す気はないようだ。


 まあ、お茶会に参加できるかできないかといえば、まあできなくはない。身内といっていいごく近しいもののみの小規模なものだし、参加者のシルヴィナ様とエイヴァはそれなりに仲がいいし、リーナ様も弟のようにエイヴァをかわいがっている。『あらあら、まあまあ。うふふ、エイヴァさんはいつも元気ですわね~』とゆるゆるっと許可してくれるのは想像に難くない。


 そう、参加自体は可能だ。エイヴァの教育的観点から言っても、悪くはないし、経験を積む場としてはむしろ最適だろう。だが参加させれば、女子同士でのほのぼのは崩される。確定事項である。


 さてどうすべきか、とシルヴィナ様と目を見合わせる。そのシルヴィナ様の背後では無表情に断りたそうなソレイラもいた。その気持ちはわかる。多分、曲がりなりにも身分がはっきりしていて、かつ魔物の氾濫(スタンピード)の際に一応意見をぶつけ合って多少わだかまりのなくなった私を抜いて、彼女の中でエイヴァが『得体のしれない準危険人物』として堂々の一位に君臨していると思われる。表立って何も言わないのはエイヴァの後見がメイソード王国だからだ。


 まあつまり、そんなソレイラのこともあるし、総合的な私の心情としては今回はエイヴァに遠慮してもらいたい方に傾いていた。何故なら私は女子に癒されたい。


 だが、しかし。


 きらきら、きらきら。期待に満ちているエイヴァの目は疑いを知らない幼子のようだった。断りにくい。実際中身はとんでもない年月を生きた人外であるというのに。でもキラキラした瞳の美少年という見た目の威力。実に断りにくい。ソレイラでさえ「うっ」とまぶしそうにしていた。恐るべし美少年。


 結果。私たちは折れた。なんか、もう、仕方なかった。見かねたエルが助力を申し出てくれたのも大きい。


「シャロン、僕も行っていいかな? 準備は負担をかけちゃうけど……エイヴァ君を抑える役、多い方がいいと思うし」


 シルヴィナ様(暴走皇女)と エイヴァ(最古の『魔』)を一度に相手にするのは、大変でしょう?


 暗に含まれたエルの気遣いが身に染みた……。染みた……。もちろん即答でエルの参加は可決された。地味にシルヴィナ様の背後でソレイラも安堵していた気がする。ソレイラからエルへの信頼度はうなぎのぼりである。


 こうして着々とメンバーは増えた。私とリーナ様とシルヴィナ様、ソレイラ。飛び入り参加のエイヴァとエル。この時点でトラブルメンバーがほぼそろっている。


 そして運命の放課後。始まったお茶会。初めは比較的順調だった。事前に連絡した飛び入り参加も、案の定『あらああ、まあまあ、うふふ』で寛容に受け入れてくれたリーナ様。


 まあ、お菓子に目がくらんだエイヴァがちょっと騒いだりとか、それを私がガツンと沈めたりとか、ちょっと何かがはっちゃけたシルヴィナ様が『お姉さまの魅力講座』なるものを開講しようとしたりとか、それをやんわり止める私とエルとか、「まあ、皆さんかわいいですわね~。仲が良くって!」とずれているのか何なのかよくわからないことを言いながら優雅にほほ笑んですべてを見守るリーナ様とか、徐々に徐々に遠い目になっていくソレイラとか。紆余曲折もあったが、まだ、混沌は発生していなかった。ほのぼのお茶会は崩されていたが、割と通常運転だ。つまり、そこそこ順調である。


 それが完璧に混沌へと転げ始めたのは、一人の訪問者によったのだ。


 ――お茶会のさなか。控えめにノックされた扉。ちなみにこのお茶会の主催は一応私となっていたので、応対したのは私だ。そして聞かされた訪問者。聞き覚えのあれど接点のほぼない名前。


 この時点で疑問、というか若干の予感はあったのだ。しかし寛容なお茶会メンバーにせっかく来ているのだから話だけでも聞いた方が、と促され、断る強い理由も特になく。少々のやり取りの後に、控えるメイドに通され扉から現れたのは一人の少女であった。


 ――目を引くのは頭頂部で束ねられた、燃えるような緋色の髪。存外しっかりとして意志の強げな眉の下にある瞳はしかしややたれ目で印象を和らげる。けれど煌めく相貌は右が金、左が碧眼のオッドアイ。年のころは十代前半、まとう衣服は騎士服に近いパンツスタイルで……ウルジア王立騎士学院の制服だった。


 そう、彼女は女性騎士の卵なのである。


 そんな彼女は開口一番、突然の訪問に意図が読めない私たちに慇懃に礼をとった。



「皆様、ご歓談中失礼いたします。私はネイシア・ドレークと申します」



 騎士の卵たる、緋髪の少女。彼女はかのさわやか脳筋ドレーク卿の、実妹であった。








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