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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/4 発覚、突如


 混沌までの濃くて長い道のりはまだまだ続く。


 さて、その私になついた相手騎士。ラルファイス殿下の護衛。単刀直入に言うと、この青年が、ソレイラにグイグイ語り掛けて無表情にさせている騎士その人である。名前を、ルーファス・ドレーク。燃えるような緋色の頭髪は髪質なのだろう、少しだけ長めの毛先が遊ぶように跳ねている。太めの眉の下、くっきりとした一重の瞳は柔らかな琥珀色。ドレーク男爵家の長男で、次期騎士団長候補という驚異の出世株である。年のころは二十代中ごろ、おそらくソレイラより若干年上だろう。


 ぶっちゃけ、彼と私たちとの接点は多くはなかった。ドレーク卿はラルファイス殿下の護衛騎士といえども、シルヴィナ様とソレイラのようないつでもセット、ニコイチな関係性ではなく、ある程度のローテーションが組まれていたこともあるし、王太子殿下に護衛騎士がつくのは主に視察などで外出するときや王宮であって、教師の目もある学院内では、王太子殿下本人の能力が高いことも相まって常にそば近くに控えているわけではないということもある。


 まあ、それなりに親しくさせていただいているとはいえ、ラルファイス殿下とリーナ様は『先輩』であり、院内では相応に一歩引いた関係性というのも大きい。この場合、学年が違うにもかかわらず違和感なくごく自然に混じっているジルがおかしいのだ。初めのころは確かにあったはずなのに、いつの間にかなくなった「どうしてここにいる」という視線。わがクラスの皆さまはどこまでも順応性が高くてほれぼれする。


 話がそれた。


 まあ、つまり、ジルならともかく、ラルファイス殿下の護衛であるドレーク卿とは面識がある程度だったのだ。いや、私の記憶が正しければ昨年、『エイヴァと街に行ってみよう、with王子』にて巻き起こった孤児院襲撃事件でとても頑張ってくれた騎士たちのうちの一人ではあったはずだ。しかし私と個人的交流はなかった。この時点では。


 だが今回のパフォーマンス的フルボッコを経てのち。――これが問題発覚の瞬間なのだが――調査から離脱した私は報告がてらラルファイス殿下にあいさつに行った。するとそこには同様に殿下のもとを訪れていたドレーク卿がいた。フルボッコにした相手だからと言ってわだかまりを抱える私ではないし、彼がそういうタイプではないというのもわかっていた。だからいたのは構わない。というか彼はラルファイス殿下の護衛でもある。定期報告や護衛の仕事の都合等、考えられる用件はいくらでもある。アポは取っていたがドレーク卿の用件が長引いているのならば場合によっては出直すべきかと考えるも、「待っていてほしい」とのお言葉に引いた立ち位置で控えていた。


 帰ればよかった、とのちに私は思う。


 なぜならば、殿下と二、三言話し、用件を終えたのであろうドレーク卿が部屋を辞す前。彼は私に目を止め、とてもさわやかな笑顔になり、言ったのだ。



「ああ、師匠(・・)! お久しぶりですね!」



 なんて?



 私とラルファイス殿下は固まった。ガタイのいい緋髪のイケメン。年上の男性。騎士。それはもう彼は何の躊躇もなくまぶしいばかりの笑顔だった。嫌味はない。含みもない。裏もない。まさにさわやか青春系、というのがふさわしいだろうか。そんな彼が言った短い言葉には違和感が詰まっていた。


 誰だよ師匠。


 私とラルファイス殿下はぎこちなく視線を合わせた。え? 私? 『私=師匠』? ちょっと意味が分かりませんね。どうしたこの護衛。殴りすぎた? 私、やっちゃった? そんな意味を込めた視線を投げる私。


 いやさっきまで普通だったけど? 突如壊れたけど? どうしたこの護衛。殴られすぎた? 私、見誤った? そんな視線を返してくる殿下。


 まさかラルファイス殿下と視線で会話が成立するとは思わなかった。しかしそんなことはどうでもいい。問題は目の前のさわやかな緋髪のイケメンである。わたしと おうたいしは こんらん している! だがさわやかなイケメンは止まらなかった。


「師匠の極められた様々な技の数々には感服いたしました。私もまだまだ精進が必要だと痛感しましたね。ぜひともまた機会があればご指導を願いたいものです」


 にこっと笑うのは、うん、イケメンだ。ジルやエルやエイヴァが美少年、ラルファイス殿下が男前とするとまさにイケメン。


 イケメンが言っていることの意味が分かるけどわからない。その文脈だとやはり師匠は私か。私なのか……。


「あの、ドレーク卿?」

「はい、なんでしょう?」

「その、『師匠』、とは、私、のことなのですか?」


 恐る恐る、聞いた。ドレーク卿はさらに破顔した。


「はい! 負ければ門下に下るものでしょう?」


 さわやかだった。


 さわやかが怖いと思ったのは初めてだった。彼は当然のこと、自明の理を語るかのように何の疑問も持っていないが、私はそんな常識は持ち合わせていない。よって、弟子をとった覚えはない。これからも弟子をとることはないだろう。打ち負かすと強制師弟関係とか何そのネット詐欺みたいなだまし討ち。


 しかし、ドレーク卿の瞳は、純粋に私を慕っていた……。


 どう、しろと……? ラルファイス殿下を見れば、なんか、ゆっくり首を左右に振られた。何見捨ててんだお前の護衛だろ。


 ともかく、私は悟る。



 ルーファス・ドレーク。彼は新しいタイプの脳筋であると。







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