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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/3 些細な始まり


 パフォーマンス自体はありきたりだったのだ。調査隊の中の実力者と私が手合わせをして、私が勝利する。それだけだ。なお、その相手はランダムに選ばれるし手加減は必要ない。大丈夫、ぼこぼこになったところで私が治す。


 提案者は王太子殿下だった。出発前、王宮内、転移門で移動する前の出来事だったためにそこには王太子殿下だけではなくエルもいたしジルもいたしリーナ様もいた。リーナ様は王太子殿下とともに騎士たちの激励に、ジルは魔術師団の方を見送るために、エルは出発前からすでにあらぶろうとするエイヴァをなだめるために。


「行く! 我、もう行く! 遊ぶのだ!」

「そうだね、もうすぐ出発だからね、もうちょっと我慢しようね。あと遊びじゃないよ、お仕事なんだよ」

「だって、我楽しみだぞ? 我慢したぞ? シャーロットも思いっきりやっていいって言ったのだぞ!」

「そうだね、ついてからね。我慢しててえらいから、もうちょっと頑張ろう? 物事には順序というものがあるんだよ。ここで暴れちゃだめだし、みんなで行くんだから一人だけ先走っちゃいけないでしょう? 僕たちと一緒に買い物に行くとき、僕たちがエイヴァ君を置いて行っちゃったら寂しいでしょう? ね?」

「む、むむむ……でも、 我、楽しみだ!」

「うん、いっぱい我慢したもんね。もうちょっとだからね」


 もはや園児と保父さんにしか見えないこの光景。なお、会話はさりげなくほかの調査隊の面々の耳に入らないようにジルが結界を張っている。ほかの人間には命がけの調査だというのに堂々と『遊び』とわめくエイヴァは本当に空気を読めないと思う。


 ともかく。


 提案者のラルファイス殿下は私の実力もある程度把握しているため、非常に面白がった表情であった。対して言われた調査隊の面々は激しく困惑していらっしゃった。公爵令嬢相手にケガさせたらどうするんだよ! しかも筆頭公爵家なランスリーなのに! そんな心の声が聞こえてきそうだった。


「けれど、皆、納得していないのだろう? ……ならば、その実力を示してもらうのが最もわかりやすい。……安心していい、何があっても、責任は私がとる」


 そう笑ったラルファイス殿下は男前だった。しかしその笑顔には『まさか大の男がそろって女の子にビビっている、とでも?』という挑発を含んでいた。それが彼らの闘志に火をつけたのは言うまでもない。


 しかし時間もないから相手をするのは一人である。厳正なる話し合いの結果、選ばれたのは調査隊第一部隊隊長。実は彼、普段はラルファイス殿下の護衛も務めている実力者。全員が納得の人選であった。


 そして戦った私。私たちを囲むように円陣を組み、審判はラルファイス殿下とジル。ちなみにエルは輪の外で、「なんと! シャーロット、ずるい! 我も! 我も!」と地団太を踏むエイヴァをなだめすかして抑えるという安定の保父さんだった。


 ここでの私とラルファイス殿下の会話はこんな感じだった。


「遠慮、いらないのですわね?」

「ああ、シャーロット嬢。問題ないよ。みんなを黙らせくればいい」


 さわやかに笑うラルファイス殿下には含みは感じなかったけれど、その横でお手本のように微笑んでいるジルは絶対に含みがあったのだろう。むしろさりげなく入れ知恵したのがジルであると私は直感した。のちに聞けば、「ソレイラ殿ほどとは言いませんが、観察眼は養っていただかなければ、ね」と誠に黒く笑っていた。


 ともかくも。


 こうして始まった騎士VS私。遠慮なくフルボッコにした私。マジフルボッコ。反撃の隙など与えない。魔術体術結界、遠慮斟酌すべてをうっちゃり、作戦名はガンガン行こうぜ。これである。


 応援していたギャラリー、檄を飛ばしていた周囲、しかしやがてそれらは鎮まり、どこからか聞こえてきた声は言っていた。「あ……『血まみれ聖女』だ……」「『羊の英雄』、……羊じゃないな」「そうか、聖女と英雄の娘、『血まみれ羊』?」「いや『血まみれ英雄』だろ?」。


 おいやめろお前らまとめてフルボッコの仲間になりたいのか。なんて物騒な結論をたたき出すんだ。両親の二つ名を組み合わせないでいただきたい。そんな血に飢えた狂人みたいな異名をつけられるくらいならば『学院の救世女王』の方が百倍ましである。だって救い主だ。血なまぐさくない。


 ……いや、まあ異名は横に置きたくはないが置くとして、こうして最終的に彼らは納得した。相手の騎士が手を抜いたであるとか、やらせだなんていわれる隙もないほどに格の違いを見せつけてしまったようだ。最後には、もうやめて! やめてあげて! 俺らもそいつも心が瀕死! とばかりに止められた。ちなみに審判であるはずのラルファイス殿下とジルの会話はこんな感じだった。


「うわあ、シャーロット嬢はすごいね。彼は私の護衛の中でも抜きんでて優秀なのに」

「訓練、追加ですね。楽しみです」

「ほどほどにするんだよ? 訓練内容を組むジルは楽しそうだけど、お前はそれ以外だって仕事しすぎで、私は心配だ。ああ、そうだ、私も一緒に追加内容を考えようか!」

「いいですね、あとで部屋に伺います」

「ああ、待っているよ、ジル!」


 そしてジルの頭を撫で繰り回すラルファイス殿下、苦笑するジル。見ているだけなら仲のいい兄弟の会話だがばっちり内容の聞こえている騎士たちは顔面蒼白である。しかし同情はしない。何故なら彼らは私を『血まみれ英雄』などと呼んだからである。いたいけな美少女を捕まえてそんなことを言うから罰が当たったのだ。はっ、ざまぁ。


 なんであれ。


 こうして実力を力づくで認められた私たちは、もちろんフルボッコした騎士を回復させてから調査に向かってお仕事をしました。そう、お仕事をするまでは特にやらかしたことなど気づいていなかった。だって別にこの流れ自体が問題だったわけでもなければ『やらかした』わけでもない。それが発覚したのは帰還してからだったのだ。


 では、ここでやらかしに至る原因のようなものを羅列しよう。パフォーマンスの相手騎士が私になついたこと。彼が脳筋だったこと。彼に妹がいたこと。羅列だけでは感じ取れない混沌への道のり。しかし、確実にこれは、発端だったのである。









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