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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第七章 或る国の歪
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7/2 少女の努力とその必要性


 目の間に広がる混沌。それは途方に暮れる私、とうとう壁際に追い詰められたエルとジル、困惑を通り越して無表情になったソレイラ。グイグイくる少女、グイグイ追い詰めてゆくエイヴァ、語りやまぬ青年騎士。そして乙女ポーズのシルヴィナ様、ティータイムなうな未来の国王夫妻。


 これらの状況に私たちが陥るに至った経緯は、少々時間をさかのぼって説明が必要である。何故ならばそれが冒頭の『やらかした』という私の心情につながるからだ。……どのくらいさかのぼるかというと、ざっと二週間ほど、さかのぼる。


 ――さて、『森』での騒動から一か月、と最初に語ったと思う。学院内は落ち着きを取り戻しつつある、とも。しかしまあ国としてはそれでは終わりにできるわけもない。何せ歴史上魔物の氾濫(スタンピード)が起こったことのなかった『森』である。かの場所でいったい何が起こっているのか? それを調査しないわけにはいかないだろう。


 そういうわけで、『森』の調査隊が派遣されたのが二週間前なのだ。もちろん現在進行形で国が調査中ではあるが、最初の一週間は私とエイヴァも紛れ込んで調査をしていた。そう、私とエイヴァも参加を国王の爆笑とともに許可されて、とても頑張りました。ちなみ調査出発前、私にむかって国王は言った。


「なんていうか、お前、うん、……がんばれ」


 爆笑から一転真顔だった国王を殴った私は悪くないと思う。


 だがしかし仕方がないので私は頑張った。何を頑張ったのか。主に隠蔽である。それはもう楽しそうに森を破壊し魔物を蹴散らし生態系を壊さんばかりに殺戮行為にふける最古の『魔』の狂気の暴走ぶりをほかの調査隊の面々に気づかれないようにごまかすだけの全然簡単じゃないお仕事です。


 とりあえず半径百キロを結界で覆って音も視界もほかの人には目に触れないようにして、うっかり違和感を覚えないように人よけまで施した私。そんな私の努力をあざ笑うかのように全力で魔術をぶっ放して結界ごと揺らそうとするエイヴァ。殺戮行為に森の木々まで壊滅的ダメージを受けそうになっているのを見かねて、というか目くらまし結界を解いたとたんに森が一部消えていましたでは隠ぺいの意味がないので、さりげなく森林だけは保護する私。そんな私の努力を無にするかのように高笑いしながら無茶苦茶に暴れまわるエイヴァ。一応調査隊なのだからと魔物の狂暴性や大きさ、その発生頻度や種類、分布や特徴等々を記録しようと努力する私。そんな私の努力をさせまいとするかのように魔物の姿を確認する間もなく無残にもすべてを消し飛ばしていくエイヴァ。


 どれほどストレスがたまっていたのかと初めは私も仕方がないなあと許容していた。そして魔物の氾濫(スタンピード)発生時、エイヴァに戦闘許可を出さなかった己の判断をほめたたえた。こいつ手加減、全然できない。私がそばにいるのに全く関係なくガンガン行きやがる。バンバン魔術の流れ弾は飛んでくる上にどうかすると流れ弾じゃないものまで飛んでくる。偶然を装って私を始末しようとしているのかと疑ったぐらいだが、エイヴァはただ楽しそうだった。無邪気といってよかった。行っているのが殺戮行為でさえなければかわいらしくさえある純粋な笑顔だった。しかしその手は血まみれである。なんというシュールな光景。なんであれ奴には悪意はなかった。破壊衝動があっただけだ。私でなければ五、六回この世とさようならをしていただろう。


 その状況で私は頑張った。でも黙って殺戮行為を見守っていたのは三日だった。許容量の限界である。四日目の朝、殺戮行為に喜々として乗り出そうとしたエイヴァを、私は、出合頭に殴った。うん、殴った。きれいに宙を舞った美少年、それを自由落下など許さずにわしづかんで地面にたたきつけ、強制正座にしてから懇々と今回の調査の目的を語る私。


 エイヴァはもちろん駄々をこねたが、いつしかおとなしくなって私の許可が出た時だけ全力魔術をぶっ放していた。最終的にはなんか魔術の威力調整の実地訓練みたいになっていたけど一石二鳥であったと思っておく。


 と、少し話がずれたようだ。戻そう。


 そんなこんなで一週間の調査自体は何のかんのと言いながら終わったわけだが、それでは何が混沌のきっかけになったのかというと、調査の始まりの時だ。私とエイヴァはゴリ押しするまでもなく国王の許可とともに調査隊に組み込まれたわけなのだが、この調査隊、編成までにはいろいろとまあ悶着があったのだ。


 近隣諸国が首を突っ込んできたり、逆に得体のしれない『森』に自らの子息を調査に向かわせることに難を示す貴族がいたり、情報をよこせと言ってくる輩が湧いて出たり、調査隊の規模で意見が割れたり。そのあたりをどうにかしたのはラルファイス殿下と国王陛下だったわけだが、あの短期間で近隣諸国含め入り乱れた意見と利害をまとめ切ったのはさすがの手腕というべきである。彼らは一応、有能なのだ。ただのブラコンとチンピラタヌキではないのである。


 そして最終的に『森』の調査は近隣諸国で期間ごと持ち回りで行うこと、先陣を切るのはわがメイソード王国の精鋭部隊、情報は各国共有する等々の方針が決まり、そして出発したのが第一陣たる私たちだったわけだ。しかしそんな悶着があったからこそ、編成隊に組み込まれるのは精鋭中の精鋭。なのにそこに交じってる学生たる私とエイヴァ。特に私は女生徒で公爵令嬢。国王が爆笑とともに許可をしたからと言って調査隊参加者の全員が私の実力を知っているわけではない。


 学院ではまあ有名だし、『ランスリー』の名が轟いているというのをさし引いても、どうしても『学生』で『女』というのは渋られる原因になるわけだ。魔物の氾濫(スタンピード)を抑えた中心にいたのが私だと知っているものも多かっただろうが、まあ実際に見たわけではないし。本性は徐々に暴露している私だが、計画的に場所も相手も程度も選んでいるのだ。私にまつわる逸話は多くとも影で情報を動かすことが多いから、うわさはいろいろと知っていても実際に『森』への調査に加わるとなると問題視するものも出てくるのは仕方がないことである。


 しかも超単独行動する気満々だし。なんだこいつらと思われるよね、常識があれば。調教され切ってる学院教師陣が毒されている側なのだ。


 まあそうなることは予測済みだった。だから納得させるためのパフォーマンスをする必要性があった。それも、『森』に入る前に。だって入った後だと多分、エイヴァが絶賛殺戮モードに入ってしまうだろうから。


 さて、ここでようやく『きっかけ』の話に戻るわけだが、そのパフォーマンスの内容こそがその『きっかけ』だった。もうちょっというなら、パフォーマンスの相手が、なんていうか、うん。あれだった。









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