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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/68 大事な大事な、(ジルファイス視点)


 転移門を抜け、私たちが降り立った戦場。にっこり笑って声をかければ、不敵な笑みを返すのはちょうど拠点となっている結界内に戻ってきたシャロンだった。


「お待ちしていましたわ、ジル」


 そして優雅に礼をする。完ぺきであればあるほどにこの場に似つかわしくない美麗さだった。周囲を見ればこちらに礼をとりつつも結界の維持や防衛、戦闘、そして回復等々、やるべきことに専念する教師陣。気を抜けぬ状況下では最善の判断であるといえよう。なお、状況の説明はシャロンに一任されているようだ。それに誰一人疑問を抱かないあたりが行き届いているなと思わざるを得ない。


 『ランスリー家』の配下のみならず、いったいどこまで彼女の影響力は及んでいるのだろうか。考えたら負けなのだろうか。……そう、先ほど、私自身の部下さえも、と私は遠い目になりそうだ。


 ――この事態の知らせを受けたのは。王城、執務室。私が山のような書類をさばきながら、本日行われている第二学年の校外実習はつつがなく終わっているだろうかと時折思考を飛ばしていた時だ。


「――殿下、火急の知らせが」


 なるほどつつがなく終わるわけがなかったな。焦りをにじませて飛び込んできた部下が内容を告げる前に、私は遠い目をして察してしまったのはもはや条件反射なのだろう。仕方がない。何故ならシャロンとエイヴァとエルシオ、今はシルヴィナ皇女もそろい踏みで騒動が起こらないわけがないのだ。


「聞きましょう。報告を」


 しかし内心はきれいに隠してごく真面目な顔を作り、私は部下に先を促す。そうして語られた『校外実習』であったはずの学院行事の現在の状況は一刻を争うものであった。


「『森』が……? まさか、そんなことが」

「確かな情報です。信じがたいことですが……」


 規格外令嬢にかかわれば自然現象ですら固定観念を覆してやまないようだ。どうしてそうなるのだろう。意味が分からない。それに、気になることはもう一つ。


「――情報源はどこです? 伝達が異様に早いですね」


 そう、聞けば魔物の氾濫(スタンピード)が起こったのはたかだか四半刻ほど前。実習に利用された転移門を流用したとして、その出口は学院だ。そこから私に情報が伝わるのがいくらなんでも早すぎる。早いに越したことはないのは確かだが……と、今後の動きを頭で計算しつつも問う。


 しかし私はこの問いをしたことをすぐに後悔する。何故なら。


「『主を愛で隊』の同志から私に直接。ランスリー家直属の彼らです。疑う必要はないかと」


 なるほど分かったがわからない。今の部下の返答にはごく自然におかしい会合の名称が紛れ込んでいたような気がしたが気のせいだろうか。


「あ、『主を愛で隊』とはランスリー家の黒服の方々とわたくし共で結成した会合です。けして怪しいものではございません」


 部下は真面目な顔で説明を添えた。なるほどランスリー家の黒服といえばシャロンの『影』だろう。そういえば、かつてシャロンに『国内程度の距離ならば、私の開発した魔術歩法を使った方が、起動に時間がかかり、出入り口が限定される転移門より速いですわ。転移門は魔道具ですし、充填魔力を節約したい状況も多いでしょう。この魔術歩法、利便性は高いですわよ』と、魔術論議を交わしていた時に説明された記憶がある。だから伝達が速かったのだな、ということは理解した。しかしその会合の存在は特に知りたい情報ではなかった。何故なら知らないうちに私と彼女の部下同士が仲良くなっているうえに不可解な意気投合を見せていることを晒された。


「……」


 どうすればいいのだろうか、私の部下は「何も変なことは言っていません」とばかりに生真面目な顔で私の指示を待っている。優秀な部下なのにな、と思う。でもそういえばシャロンの部下も優秀さは折り紙付きなのだと思いいたる。すこし愛がおかしいだけだとはシャロンとエルシオの言だ。そして私はまた、思い出した。


『部下の言動がちょっとおかしいなんて感じても、追及してはダメよ。ああ、愛されているんだなって流すのが正解よ』。


 そう、いつだったかシャロンはとても美しいほほえみでもって断言し、横でエルシオも優しく笑って肯定していた。なるほど。私も部下に愛されていたのか。了解した。それでいこう。流そう。


「……伝令を騎士団と魔術師団へ。私も出ます」


 流しきった私は、眼前の緊急事態に専念することを決めたのだ。


 そして部隊を編成し、装備を整え、各種手回しを終えて、今に至る。なお、軍事用大規模転移門の手配は知らぬ間にシャロンのところの黒服の集団が速やかに完了させていた。もう何も言うまいと私は思った。











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