1/18 朗らかに笑う
……ん?
楽しそう? 嬉しそう?
そう見える?
ですよね。
だって楽しいもん!
どうやってタロラード公爵を問い詰めようかな♪とか、どうやって証拠を握ろうかな♪とか。どうやって原初の『魔』を屈服させようかな♪とか!
そこを考えると楽しくって楽しくって!
正直、最近退屈してたんだよねー。商売軌道に乗っちゃったし、貴族に脅しかけちゃったし、領地整備も代理人のしつけが終わったから任せても大丈夫だし。あ、そうはいってももちろんすべての政策に目は通してるけどね? まだまだ完全なる信頼にはほど遠いのですよ。前例がアレだから諦めてくれ。今のところは合格ラインなのだ、私は貴方を応援している。
だからって採点は辛いままだけどねー。
ま、それはいいとして。
こんな生活、充実していると言えば充実している。でも、だ。
娯楽がないのですよ、娯楽が!
だってだって原初の『魔』だよ! ラスボスだよ! 実力試したい思いっ切り魔法ぶちかましたい、思いっ切り剣で勝負挑みたい、狡猾な貴族相手に裏を掻いて鼻で笑いたい、ふふんと指差して馬鹿にしたい――――――!
……ごほん。
やべえ本音が。
ではなくて、取り乱しました。なんだっけ。そうそう、その『魔』、エイヴァが引き起こす事件ね。
その概要も、もちろん前世の記憶で完備済みだ。
大規模で陰惨な事件なんだよね。ただ、この事件の始まりは、そう派手なものじゃない。だからこそはじめは、誰も気づかなかったんだろう。それこそ国王でさえ。……確かあの『魔』は精神感応系の魔術の使い手でもあったからその影響もあったのだろうか。一応あの国王は割と狸なのだ。たまに本当に抜け作だけど。その抜け具合が彼の人間味かもしれないけれど今のところダイレクトに私に迷惑が掛かっているから本当にやめてほしい。……うん、思ったらイラッと来たから機会を見て復讐をしようそうしよう。
ともかくも。
その事件の広まりは、まるで病魔のようにこの国を徐々に蝕んでいく類いのものだったのです。
やだ、いやらしい。
ぞっとしないわ、知らない間に、ゆっくりと、真綿で首を締めるように忍び寄ってくる恐怖。
そのやり口に、エイヴァの享楽主義とタロラード公爵の憎悪をひしひしと感じずにはいられないわ。
執念深いというかなんというか。
こんな陰険な計画にホイホイ乗っちゃうとか、『明日セカ』版シャロンといい勝負な根暗さんだと思います、タロラード公爵。
気を強く持てよ。前向いて生きろよ。
明日は明日の風が吹くっていうだろ?
そんなこと思いながら私は前世、小説を読み進めていたことを記憶している。なお、前世友人に感想を求めたら『貴方は何処を向いていようがその方向が前なのよね』と意味が分からないことを言われた。どういう事だろうか。
ともあれ、今も全く同じ感想を抱いてしまうよタロラード公爵。私の中でどんどん貴方の株は下がっている。ま、最初からたいして上にはいなかった悲しい事実も私の中には存在しているが。
……話がそれた。
で、そんな彼らがどんな事件を引き起こしたのかというと、だ。
事件のからくりは、単純かつ傍から見ると原因不明のものだった。
どんなに優秀な魔術師でも、まさか伝説級の存在がかかわっているなんて思わない。というか思いたくない。それが人間の性だもの。今現在の私だって、こんな予備知識がなければ即座に思い至ることは不可能に近いだろうね。
で。その、中身の話ね。
陰険、陰惨、病魔、憎悪……いろんな評を下してきたけど。
――この世界は魔術がある。私も多大な魔力を有し、それを使って戦うこともできる。国民の半数以上は魔力持ちであるというくらい、この国と魔術の結びつきは強い。
そこを突いた、事件だったということ。
何が起こったのか? ……答えだけなら、一言だ。
――狂うのだ。