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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第一章 貴人の掌
25/661

1/17 潜んでいる


 王弟公爵クラウシオ・タロラード。


 ま、黒幕っていうか原因? きっかけ? 利用されてたって言ったらそうなんだけどね、この人も。ホントどこまでも面倒なお方ですよ。


 そんな面倒な方が引き起こす予定の面倒臭い事件。それが『明日セカ』の軸であって主人公の活躍の場なんだよね。


『物語』なんてガン無視で行こうぜイエイ☆な私は正直、傍観しててもいいんだけどねー、心情的には。でもでも、領民の為にもそうもいかないわけなんで、じゃあむしろこれをとっとと解決しちゃいたいわけですよ。長引かせることに意味なんかないし。


 主人公の登場などこの際待っていられない。彼女が来るのが何年後かと言えば、私が十八歳の時、つまり八年後。


 長い。遠い。遅い。

 三拍子である。


 しかもその時には結構深刻な事態まで事件は進んでいる。


『物語』を知っている私がいるのだ、早期収束に問題はない。なぜならこの王道ラブファンタジー『明日セカ』は主人公ちゃんが特殊能力を持つわけではないので、主人公ちゃんがいなきゃ解決しないような事件でもないのだ。


 ぶっちゃければ『物語』中でも味方側の能力カンストチートは『シャーロット・ランスリー』と『ジルファイス・メイソード』である。主人公ちゃんの存在意義は其の天真爛漫さで登場人物たちの闇を晴らしていくという方向に振り切れている。


 そして救ってもらう必要のない『私』は今から勝手に動きます。


 ……え、『物語の流れ』? 何度も言うがそれはあくまで『参考書』であってそれに沿う理由も価値も私にはない。


 でだ。


 事件の発端っていうのは、権力争いに敗れて病んじゃったクラウシオ様の行動だ。……いや、ここで『病んだ』って言うと語弊があるかもしれない。現国王が王位についたのって十五年前だし、悔しい思いはしても最初はそれほどじゃなかったはずだ。兄弟仲が悪くなかったという噂が真実であると仮定すればなおさら。


 ただまあ、兄弟仲が良かったとか、王位を本当は欲していなかったとか、そういうことがクラウシオ様の本音だったとしても、『年の近い兄弟に負けた』という事実は鬱屈した感情を生まなかったかと言えばそうではなかったのだろう。


 貴族を二分した大きな政戦だったのだ。そして今もクラウシオ様の立場はあまりよくない。居心地は悪かっただろう。


 でもって、そんなたまった感情が負の方向に振り切れさせた事件があった。今から二年前。私の両親が亡くなる一年前。


 幼馴染にして幼いころからの許嫁。そしてそのまま婚姻を結んだ、クラウシオ・タロラードの最愛。



 アイシャ・タロラード公爵夫人。



 ……彼女が事故で帰らぬ人となったことが、歯車の狂い初めだ。


 私はこの事件を今世の記憶としてとどめてはいないけど、領地から王都へ、社交のために移動している最中に賊に襲われたのだという。

 クラウシオ様自身は王家に呼ばれていて、奥方とは別行動で。

 腕の立つ護衛だってもちろんいたんだけど、命が消えるのは本当に簡単なはずみで、一瞬の事だって多い。


 ……賊は壊滅したが、引き換えの様に奥方は、亡くなった。


 クラウシオには子供はいない。だから彼女は最愛にして、唯一の心の支えだったのだろう。


 私がこの話を知っているのは、記憶を取り戻してからかき集めた情報と、もちろん前世の記憶から。物語の中で出てきた過去語りに、これと同じエピソードが、確かにあった。


 かつて住んでいた日本より、ここは命が安い世界だ。

 魔法があって、貴族がいて。戦争だって、今この国は平和でも私の父に武功があるように身近だ。


 ただ、それを理解していることと現実を受け止められることとは別の話なだけ。


 ……で、病んでいく過程で、そんな不幸の全ては王家のせいだ、国王である兄の所為だ、ひいてはこの国そのものの所為だ……。そんなちょっとイッちゃった思考を持つようになるわけです。


 なぜ極端な方に振りきれるまえに誰かに相談しなかったんだい。きっと君のお兄ちゃんたる国王は君の歩み寄りを待っていた。


 そう、待っていたヘタレなのだあの国王。だから肝心なところが抜け作だとあれほど。


 いや、ともかく。


 そんな病んじゃったクラウシオ様、待ちの姿勢で動かなかった国王、その隙をついて近づいた影。

 それが多分、ジルファイスも言っていた『不審な輩』。

 これが、本当の黒幕って言ったらそう。この輩が病んでいくクラウシオ様を煽って、加速させた。狂気を増長させ、理性を壊した。


 ――さて、この輩は何者でしょう?


 物語の中ではいろいろ言われていた。『狂気と怨嗟を糧にしている』とか、『死肉を屠る悪魔』とか、『酷薄な謀略者』とか。



 ――その名前は、エイヴァ。

 此の世で初めて発生した、原初の『魔』だ。



 俗に魔物とか魔族とか言われるものの親玉さんみたいな。

 白髪に透色の瞳を持った、ものっそい美形さんという話。見た目はね。

 でもその実は人間を嵌めることで遊んで血を喜ぶ残虐な魔族。


 伝説級の輩なんですけどね、彼。ほら、よくあるじゃん。寝物語に出てくる悪魔とかさ。悪いことしてたらやってくるぞって子供を脅す文句とかさ。そんな感じの存在。


 チートですね? テンプレですね?


 そう、味方側の能力カンストチートは私とジルファイスだが、敵側のチートはこのエイヴァさんなわけです。

 そしてそんな脅し文句のマジモンに運悪く付け込まれちゃったのが、クラウシオ様。


 もう、お ば か さ ん ☆


 んで、だ。


 初めてクラウシオとエイヴァが接触したのが、一年前。私が領地で豚領主代理を吊し上げてた頃。

 正直当時の私は立場も土台も安定していなかったから、何ができたわけでもない。


 でもその間に出た犠牲はやっぱりあるわけで、だからこそ私は急いでいる。


 だがしかし急いでいるからと言って準備不足は自殺行為だ。


 だっていくら私が普通でなくとも、敵さんも普通ではない伝説級の輩なのだ。


 そこで私はシンキングタイムなんですよ。


 さ、どうやって、

 ――あそぼっかな?










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