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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第一章 貴人の掌
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1/9 傾く天秤


 私は屋敷の中で、悩んでいた。


 勿論脳内の議題はあのキラキラ属性王子の事だ。


 まったくもって不本意である。なぜかかわりを望んでいなかった人物に対してこうも頭を悩ませなければならないのだろうか。


 まあ、やらかした、とは思っていたんだけどね、正直。


 うむ、何をやらかしたのかというとだ。

 ……あれだ。


 腹黒王子の興味へ対応の方向性間違ったっていう。

 ……ちっ。


 説明しよう。


 あの我らが変態師匠連との肉食獣バトルを御覧に入れたのちのこと。鬱陶しいくらい再三、訪問の申し込みが来る。それはもうネチネチネチネチと。三日とあけずに。端的に言ってしつこい。お前はストーカーか。権力を持ったストーカーとか最強だな。


 それに対する私の返答は一択だ。全てぶった切る。これに限る。それに際して一応正当な理由もつけていますよ。そこんところに抜かりはない。王子からの誘いなど、普通の貴族令嬢なら小躍りして喜ぶってもんでしょうけど、私は半眼にしかならない。なぜならば私は普通の令嬢ではないからだ。そこのところの理解はしているだろうに癖なのだろうか。手紙の文言にそういう傾向がみられる。平たく言うとうざい。


 まあ、何故頑なに王子を拒否するのかと言われれば、面倒くさかったからと回答しよう。何が悲しくて王子などという人種と必要以上に付き合わなければならないのか。そんなものに時間を割くくらいなら私は執務にいそしみたい。無駄は嫌いだ。


 というか現在ね、異世界産のあれこれを生み出そうと画策中なのですよ。


 でも電気もガスもない世界だし、技術は圧倒的に足らないし。前世の私の仕事はしがない『事務職』だったもんで、専門性は見込めない。


 ただ、料理は好きだったんだよね。


 それをカミングアウトしたところ、前世友人には非常に意外な顔をされ警戒すらされたが彼女は私を何だと思っていたのだろうか。


『私に近づかないで。その料理をその場に置いて下がりなさい』って言われたんだけど。


 ……彼女は、私を何だと思っていたのだろうか……。


 ともあれ料理は楽しいと私個人は思っている。実験みたいで。いろいろ混ぜていろんなもの作ってみたいという溢れる創作欲。もちろん理科の実験も大好きだったかつての私。未知の物体とかワクワクがとまらない。それを語れば一旦警戒の解けた前世友人が警戒を倍にして料理を食べてくれなくなったのだがあれはどうしてだったんだろう。


 まあそれはいいとして、未知かどうかはともかく、故郷の味に私は飢えている。お米とか味噌とか醤油とか緑茶とかさ、懐かしの日本食を求めて色々と手を広げているわけだ。


 そこに王子などという存在はいらないわけだ。


 だって現時点での第二王子の人脈を利用する利点が私にはあまりない。だから親しくなりすぎる必要性を感じないし、手合せもしたくない。肉食獣をカミングアウトした私の思惑はそこにはなかった。婚約話ももってのほかだ。


 王子からのそういう方面での接触を私が歓迎してないと知るや否や、うちの使用人さんたちは完全に『王子敵』認定ですよ。空気読まずに舞い上がってたのは代理人くらいですよ。でも冷えた視線を一身にうけて察した彼は徐々に馴染んできていると思う。


『お嬢様のお気持ちが第一です!』


 そう言い切った使用人さんたちの愛を実感する今日この頃だ。彼らは完全に私の味方。心強い限りです。

 信頼関係万歳。料理も侍女とかと料理人さんたちと楽しんじゃってるしね。


『私にあんたの料理を食べてほしいなら食材から調味料まで全部報告して』と血走った目で言った前世友人とのやりとりのような攻防は存在しなかった。キャッキャウフフだった。


 はっきり言って、この楽園で王子などという外的要因は邪魔でしかない。


 つまり、邪魔を、しないで、いただきたい。


 なのに届き続けるお便り。


 やだ、この王子察しが悪い。

 嫌がられてんだよ。あしらわれてんだよ。気づけよ。


 ……気づいた上でのスルーだろうけど。


 迷惑極まりない。


 あれからもう一か月たってるのになー。そんなに珍しかったか、剣と魔法をバンバン使って暴れる肉食獣系令嬢は。……まあ、頻繁には見ないかもしれない、うん。


 ちょいちょいみられる、私と手合せしたいという申し出。


 物好きがここに居る。


 違うの、そんなつもりじゃなかったの。そんな簡単にプライドを刺激されるとは思わなかったの。


 確かに第二王子がチートなのは知っていた。第一王子を凌駕する勢いであると聞いてもいた。


 でものぼせて考えが足りていない。私と王子が手合せして、私が勝ったらいろいろ問題がありすぎるのだ。私はこれでも公爵家の人間。その辺の自覚くらいある。仮にも王子をコテンパンに伸したらまずいくらい、判るのだ。


 それを王子はきっと忘れている。いや、気づいているけど、私は『そうではない』と思いたいのか。


『身分と立場に阻まれて、今の力関係のままで私が全力を持ってお相手することは出来ない』、そんな常識を私なら気にしないと。


『貴方ならば何があっても大丈夫そうですね』という王子の言葉が手紙に見え隠れしてるし。


 前世友人も友人だが、この王子もこの王子だ。大丈夫ってどういうことだ。私を何だと思っているんだ。


 いや、うん。はっきり言って、確かにわりと常識は気にしない。私はね。

 でも、私には可愛い使用人さんたちと領民がいるのだ。


 貴族社会の噂の広がりを私は舐めるつもりはない。『ランスリー公爵家』と『王家』が絡んで話が漏れないわけがない。『ランスリー公爵家の勧善懲悪劇』が広まったように。


 すでに今の時点で、第二王子の動向が話題に上っている。


 だから私は、拒否をするんだ。


 頭を冷やして出直して来いという事だよ。


 頭を冷やす期間は十分あったはずなのにそれでものぼせたままらしいけどな。茹だるぞ。実は頭が悪かったのか王子よ。


 ああ、面倒臭い。





 ――と、思ってた。







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