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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第三章 愛の化物
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3/24 世界は硝子玉(エイヴァ視点)

他者視点連投です。しばらくシャロン視点には戻らないです^^;


 我は、ただ一人でこの世界に生まれ落ちてきた。生まれ落ちてきたという表現ですら正しくはないのかもしれない。気が付いたらここに居た。それ以前の記憶もなくただ唐突だった。よく考えれば不可解なのであろうが他を知らない当時はおかしいということに思い至らず、年月の経ちすぎた今に至ってはそんなことは考えても仕方ないしまあどうでもいい。


 ともかく、人が『親』と呼ぶ者はいなかった。ただ、ここに我があるだけで。むしろ我以外の知的生命体が存在しなかったと言っていい。

 目の前に広がっていたのは、鮮やかな色。青い青い空にざわめく木々は新緑。花は咲き乱れてたくさんの生命を感じた。生命は、確かにあった。


 鳥が飛び立ち、獣が野を駆け、魔物が咆哮をあげる。魚は跳ね水がせせらぎ、風が渡った。

 それらを、とてもとても、美しいと、思ったのだ。


 知っていたことはあった。

 例えば己の名前。此処が『世界』であるということ。獣の名。魔物の名。植物の名。知っていたのだ、最初から。


 どうしてかは知らない。ただ産まれて、最初から、そうだったのだ。

 そこに意味などないのかもしれない。あるいは、あるのかもしれない。我の存在は、この知識は、必然か偶然か。しかしそのようにあるのだから仕方がないんじゃないだろうかと適当に割り切ったのは割と早かったように思う。


 だって、何もわからない。分らないものはわからないので、深く考えはしなかった。

 考えても意味などないし、言うほどに気にはならなかったのだ。これは『判らない事』であると納得するという矛盾を抱えてもまあいいやと何百年も放置していまだに放置している。これからも放置する所存だ。


 意識を持ったばかりの我には、知識でしか無いそれらが実際に目の前にあることに驚きながら楽しみ、夢中になっていた。

 その時間は、とても長かった。すごく、長かった。

 正しくどのくらいだったのかは数えていない。

 おそらくこの世の始まりから、我は我として、この世界に存在していたのだろう。多分。きっと。


 ともかく、我はあまり物事を深く考えずに夢中になった、目の前の鮮やかな世界に。

 喜びとその感情を呼ぶのだと思う。世界中を歩き、巡り、様々なものを見たのだ。


 ――けれど、そうしていると、やがて気づく。


 我には力があった。比較対象がいなかったが、とりあえず思ったことは大体実現可能であった。

 しかし我は『力』以外には何も持っていなかったのだ。


 話すこともなく対等なものもなく。じゃあなぜ我には口があって言語を知っているのだろうか。この意思を伝えるためではないのか。必要がないのなら獣のように鳴き声が発せればそれで十分だったはずだ。


 まあ一度はどうでもいいこととして流した事柄ではあるのだが。我は少し能天気なだけで阿呆ではない。だから二度目はもっと明確に、己の中で疑問にしてしまった。


 我は、初めからどんな生き物の力をも凌駕していた。

 我と同等の知能を持つものなど存在しなかった。

 我は、強かったのだ。

 我はこの世で唯一で故に圧倒的な存在で。


 それを『孤独』と称すと知ったのは何時だったろう。


 多分、知らなければよかったのだ。大体のことはまあいいかと流す適当さを己が持っていることは自覚している。そもそもそうでなければ我自身の存在そのものをもっと追求したであろう。しかしこれは、流すにはあまりにもドカリと我の中に腰を据えてしまっていた。


 気付いて、気づいてしまってからの空虚な時間を、どれだけ過ごしたのかは覚えていない。けれども緩やかに時は流れ、動物は栄え、緑はうねり、魔物はそれなりに気ままに生きて行く。我の目にはすでに、最初の鮮やかさは失われ、無意味なものにしか見えなかったけれども。


 世界はただ変わらない。



 ――変わらないと、思っていた。





 









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