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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第一章 貴人の掌
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1/2 教育的指導です


『ランスリー公爵家自体が気にくわなかった』。その結論を出したのにはいくつか理由がある。


 ま、最大は半年であそこまで経営が傾くなど意図していたとしか思えないからだ。……『物語』の中でそのような描写はなかったが、そこは現実との違いという事なのか、語られていない裏事情があったのか。


 只明確なのは、現実に、あれは、この公爵家を、領地ごと潰そうとしていた。

 私というランスリー家直系がいるにも、関わらず。


 ……ははは、確かに見た目は子供な私、何にもわからないだろうとお思いだったのだろうか。確かにかつての私は何もわかってはいなかった。


 だが今の私はそうではない。


 その油断、最大限に利用してしんぜよう。


 ここは私の領地。私の領地に住む領民は私のもの。

 代理人のものではない。


 ということで。


 まず私がしたことは、味方につけた使用人さんたちに、無邪気を装って代理人の動向を聞き出すこと。 それから書庫で経営のお勉強。代理人にばれないように、物語を読んでる体でカモフラージュ。

 時々、放心状態から抜け出した私の様子を見に気持ちの悪い猫なで声ですり寄ってきたけど阿呆のふりしてスルー。アカデミー級女優に死角はない。


 ……死角がなくて本当によかった。なぜならばヤツのあの目は完全に私を狙っていた。主に貞操的な意味で。

 私は十歳だ。ていうかあの時はまだ九歳だった。ヤダ、豚の分際でロリコンも患ってるなんて。役に立たないうえに気色悪さが留まるところを知らない。鳥肌ヤバイ。


 勿論忠実な侍女が鉄壁のガードを敷いてくれたおかげで変態は私の部屋にも入れませんでした。代わりにヤツが侍女の皆に手を出そうとした暁にはあらゆる手段でもって防いだ私は本当にいい仕事をしたと思う。豚領主代理にとっては原因不明の生傷が増える毎日だったわけだが完全に豚領主代理の自業自得だ。


 そうこうしつつも、情報収集は常に怠りませんでした。領民の様子とか、どんな政策を代理人が出しているのかとか。それらの王宮への報告がどうなっているのかとか。誰が手下で誰が不満を抱き、誰が得をしているのか、とかね?


 侍女とか執事さんとか。父の代からの使用人は、なかなか献身的に協力してくれましたよ。


 はっはっは。


 それにしても、出てくる出てくる。横領の証拠に、勝手に公爵家の財宝を売り払っていた事実とか? 重税を民にかけて国が定めている規定以上に搾取して、帳簿上ではうまいこと誤魔化してたり? この国では奴隷は禁止されているっていうのに、人身売買まがいのことまでやってらっしゃったそうで?


 果ては女性を囲って豪遊三昧。お酒に飽食、イケナイお薬にまで手を出しているたようでしてね?


 本当に、この豚領主代理、代理の分際でランスリー公爵家を道連れに最終的に破滅するつもりだったらしい。


 奴が自滅するのは奴の勝手だ。奴には奴なりの理由というものがあるのかもしれないが、それとこれとは別問題だ。そこまで事情を察して改心させるほど義理はないし、それはランスリー公爵家が一女である私の役目ではない。


 私がすべきは、その悪事を暴いて国に突き出すこと。裁きは国が下すだろう。いや、個人的に報復はするけど。だってどんな恨みがあったにせよ、私の家と領地を巻き込まないでほしい。下らない私情で身勝手もほどほどにしろという事だ。


 つまり証拠がそろえば教育的指導一直線。


 国に誤魔化すのがうまくとも子供に油断している邸内では穴ぐらいある。なぜならば豚領主代理に味方はいないからだ。わずかにいたやつの手下も懐柔済み。手抜かりはない。そもそも破滅に走っていることがうすうす周りにもわかり始めていた豚領主代理だ。金で雇ったのだろう手下の心も離れていた。


 で。


 教育的指導は勿論、実行しました! 容赦なんて致しませんでした!


 自分以外味方のいない状況で追い詰められた代理人殿の表情と言ったら。脂汗が滝のようだったがカーペットを汚さないでほしい、掃除をするのはうちの可愛い使用人さんたちだ。そんな感想を込めて火をつけたらよく燃えそうねって言ったら泣いていました。恐怖に引き攣って懇願してきました。こんがり丸焼きはやめてくれと。


 心優しい私は、その願いを聞き届けてあげました。


 二十四時間監視付きで、馬車馬の如く領地経営改善に奔走させましたけどね? 人権? 労働基準法? 何それ美味しいの? 他人にそれらを見いだせないあいつにそんなもの保障してあげる必要はないと私は判断する。


 勿論、使い終わったぼろ雑巾(代理人)は、最終的に憲兵に献上しましたとも。笑顔で。ここ大事です。笑顔です。なんだかその人破滅したかったマゾヒストのようですという文言も添えています。もううちに迷惑をかけないでねという副音声付。


 使用人は一致団結。絆が深まってホクホク。領主代理断罪につき、私自ら領地を巡って徐々に領民の信頼も取り戻してきております。荒れた土地はさすがに一年そこらで元には戻らないが、快方に向かっていることは報告される数字が示している。


 なお、以前の『私』が人見知り拗らせてほとんど領地でその性格を知られていなかったせいで、幼き公爵令嬢による勧善懲悪劇がウケににウケて旅芸人の語り物にまでなった。そこまで求めてなかったけど見なかったことにしました。


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