第一話 プロローグ1
初投稿です、よろしくお願いします。
※01/15 ゲームの名称を変更しました。エルフォニア→エルフォーティア。他、細かい部分の修正。物語に変更はありません。
「どうしてこんなことになっちゃったんだろうなあ」
俺、田中義人は膝の上で毛玉のように丸まったクロをなでながらぼやいた。
クロはMMORPG『幻想世界エルフォーティア』で初めて手に入れたペットだ。『子猫』という種族で、黒く滑らかな毛並みと、まだ幼い動物のころころとした姿がとても愛らしい。なにより、八年間ずっと一緒に冒険をしてきた頼もしい相棒である。
「ヨシトさま~、獲物を獲ってきたの。当分はご飯の心配いらないの」
偵察に出ていた小犬族のモエギが軽い足取りで何かを引きずってきた。コボルト特有の萌黄色の長毛がふわふわと揺れて、ぬいぐるみを連想させる。もこもこなのである。可愛い。
俺はモエギの持ってきた高さ三メートルはある物体にぎょっとするも、そのどこかしら見覚えのある死体に首をかしげた。
あの角の形とか、どこかでみたような気が……なんだったっけな?
そんなことを考えたせいなのか。無意識に【鑑定】が発動して、それがジャイアントボアの死体だという情報が脳内に表示された。
えっなにこれ? どういうことなの?
突然の出来事に混乱しつつも、不思議と心のどこかで自分が使ったのだと理解できた。
もしかして、共通魔法の【鑑定】……なのか?
うまく働かない頭を必死に動かそうともがいていると、モエギが戻ってきた反対側からも声が聞こえてきた。
「ボクも、獲ってきた、よ? 褒めて?」
小狐族のコガネが、引きずっていたこれまた大きな獲物の尻尾を手放すと、俺の左腕に勢いよく抱きついてきた。
くりくりとした瞳を上目遣いにこっちを見てくる。
コガネは、さらさらとした黄金色の毛に、ところどころ白いアクセントを添えたフォクサ標準の色合いだ。しかし、磨き上げられた毛並みにふさふさの尻尾は、他のフォクサとは比べ物にならないと断言できる。可愛い。
コガネは白い長袖のブラウスに紺色のフレアスカート、黒のタイツに編み上げブーツ。ちゃんと尻尾専用の穴がついている。モエギも同じ服装だが、こちらは茜色のスカートでコガネと色違いのお揃いだ。
コボルトとフォクサは種族名のとおり、見た目は体長一二〇センチ程度の動物に酷似しているが、亜人種に分類される。普通の動物との違いは、それぞれが独自の文明をもって言葉を話し、二足歩行をすることだろう。
ゲームではブリガレオ商会というNPCの店でペットとして購入できた。一応は人権を認められているらしいのだが、実際は集落から攫われて奴隷扱いをされているという、なんとも重い裏設定があった気がする。
もっとも、プレイヤーはそんなことは気にせず、買ったペットを育てたり好き勝手に着飾ったりしていたのだが。俺もそんなプレイヤーのひとりだった。
「なっ、コガネっ、はしたないの! よよよヨシトさまが困ってしまうの!」
どうやらコガネは感情をストレートに表現するみたいだ。逆にモエギのほうは忠誠心? かなにかで遠慮している感じがする。その証拠に、コガネに小言をいいながらも俺の右腕をちらちら見ているし、尻尾が盛大に振られている。必死に我慢しているみたいだ。
俺はコガネを脇に抱きよせると、その頭をなでた。
「ヨシト様、温かい」
うっとりと目を細めたコガネが頭をすり寄せてくる。
その様子を唾をごくりと飲みながら眺めていたモエギに、俺は右手を差し出した。
「ほら、モエギもおいで」
一瞬で笑顔になったモエギが抱きついてくる。同じように頭をなでてあげると、ちぎれんばかりに振られた尻尾の風が顔にまで届いた。
こんな風に慕ってくれるのをみちゃうと、もう、なにもかもどうでもよくなってくるね。なぜ君たちが居るの? とか、放置されている巨獣の死体とか。
それにしても、モニター越しでも可愛かったけど、実物は天使だなあ。
あ、肉球もあるんだな。ちょっと硬いけどぷにぷにしていて気持ちがいい。
しばらく二匹をなでまわして堪能していたが、精神が安定してきたところで我に返り、静かに溜息を吐く。
その原因は、俺が今おかれている状況だった。
辺りは深い森といえるほど何の種類か分からない樹木に囲まれており、今はかろうじて開けた場所に座っている。木々の密集した森の奥は深く暗く、ときおり正体不明な動物の鳴き声が聞こえてきて、ちょっと怖い。
顔を見上げると、日が傾き青白くなった空にふたつの月がうっすらと見える。
そして極めつけは俺の格好だ。
白いシャツに黒のスラックス、その上から銀糸で刺繍された闇色のローブをまとっている。左右の指には玄龍の環と涙石の指輪があり、足には天界の僧兵靴という小さな白い羽がアクセントの頑丈なブーツを履いていた。
うん、これ、どう見てもエルフォーティアで俺のキャラが愛用していたテイマー装備だよね。
怪しげな森、みたこともない空、ゲームでしか触れ合うことのできなかったペットたち。そしてある意味見慣れた俺の装備。
どうやら俺はペットたちと一緒に、どこかへ飛ばされたようだ。
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