転生
ふと目が覚めると、俺は知らないところの床に転がっていた。
冷たくも、暖かくもないその空間は、がらんとしている神社の拝殿の中と言った感じだ。
「起きたかい」
男性の優しい声が聞こえる。
声に導かれるように、俺は立ち上がる。
ゆっくりと周りを見回しながら立つと、真正面に誰かいた。
「やあ、来てくれたんだね」
誰か分からないが、どうやら向こうは俺を知っているようだ。
「何のご用でしょうか…それに、ここはどこでしょうか」
「ここは、君が知っている知識の範囲で話すと、閻魔庁というべきだろうね」
「閻魔庁ということは、あなたは閻魔大王?」
「ハッハッハッ、いや、全然違うんだけどね」
違うのかと、なぜかがっかりする。
「とはいっても、君の死後についてを考えることには変わりない。さて」
彼はさらに続けて俺に話しかける。
「君は、生前司書だったようだね」
「ええ、はい」
死んだという実感も特にないまま、俺は彼の話を聞く。
中学生のころから図書館に入り浸っていた俺は、高校の進学について、司書職を目指すということを決意した。
それ以来、大学で司書資格をとり、司書一本で生きてきた。
「ちょうどいい。実は図書館の整理をしてもらいたいのだよ」
そして初めて、彼は名乗った。
「私はサイン神。きっと、きみは聞いたことないだろう。いわゆる死神だ」
死神と言われても、そんな雰囲気ではない。
サラリーマンな感じのスーツを着て、ジッとこちらを見ている。
別に大きな鎌があるというわけではないようだ。
「死んでしまったんですよね」
「そうだ、君は残念ながら死んでしまった」
「……なら、図書のお手伝い、させていただきましょう」
「ありがたい。では、こちらに来てくれ」
サイン神は、そう言って俺を別の場所へと、彼の図書館というところへと連れてきた。
「紹介しよう。赤羽鈴音さんだ」
ちょうどそこに居た女性を紹介してくれる。
「サイン神さん、こちらの方は」
「ああ、今日から新しく入ってきた司書です。岩太京師と申します」
「初めまして、赤羽です」
彼女の手は、死後の世界には似つかわしくないほど、暖かった。