3話 考察&探索
転生にあたって、今後の身の振り方を考えなければならない。
まずはこの世界の認識だが、ここは乙女ゲームがもとになった世界らしい。というのは、前世で入院中にプレイしていたからだ。優しい両親と兄弟がいるので羨ましいと思っていた。
ちなみに両親、ならびに兄弟達とは血が繋がっていない。全員養子である。
そうじゃないと髪の色が違いすぎておかしい、というのが制作者側の意見である。そもそも髪の色がカラフルな時点でおかしいのに、妙なところでリアルを追求したがるやつらである。
この世界のゲームは攻略対象が多いことで有名だ。
兄弟
主人公の通っている高校(教師も)
友人の弟
近所のおじさん
警察のお兄さん
コンビニのアルバイト
犬
その他…
はっきりいって『何でもあり』だ。
高校では場合によっては百合もアリだ。ただし友人Endは存在しない。1人2End。恋人になるかバッドエンドの二択。友人になりたいと思ったら、ゲームにはない、友人への道を切り開かなければならない。
ちなみに逆ハーエンドも存在する。条件は攻略対象全員に出会い、好感度をMAXまであげることだ。
この攻略対象が多いゲームでそれは不可能なのではないか、と思うかもしれない。
だがこのゲームの特徴は攻略対象が多いことのほかにもうひとつある。
それは、難易度が低すぎるということだ。
強くてニューゲーム、このゲームほどその言葉が似合うものはないと私は思う。
選択肢はエンディングの数に合わせて2つ。しかもすごくわかりやすい。
攻略対象は最初から好感度50%以上。
主人公のスキルが上げやすい。むしろすべてのスキルが100%になるのを避ける方が難しい。
アイテムに至っては、あったの?いらなくね?笑という扱いになる。
エンディングを誰と迎えるかは、はっきりいって主人公が最後に選んだ人、である。
いろんな人との出会いを楽しむ(そしてベタベタする)ゲームといっていいだろう。
私はこのフラグが乱立する世界で恋愛するつもりは毛頭無い。
何故なら、ここは現実だからだ。あくまでゲームを元にしただけ。フラグが乱立すればいざこざだって生じる。
それにゲーム世界の時間が終わってしまえば次の展開を予想することなんて出来ないし、前世の記憶をもった私と接することで、ゲームとは性格が変わっていくことも容易に想像できる。
ちなみにゲーム世界の時間は高校入学から一年半。
なにより面倒なのが、このゲームの主人公の特徴がとにかく好かれまくること、という点である。しかし主人公は鈍感なのでそれに気がつかない。
ゲームなら許そう。だがしかし、ここは現実だ。私はゲームをやっていたこともあり、周囲の好意にきっと気づいてしまう。
まわりの人間は私と接することで性格が変わるかもしれないが、そうそう容易く主人公の特徴が変えられるとは思えない。
それと、主人公はゲーム内の展開で誘拐されることもある。勿論前世はヤンキーなので、喧嘩に負けるつもりはないが、大分休んでいたし、それにこの主人公は運動が苦手なのだ。
よって私がすべきことは、
1.フラグを立てない
(これは出会わなければ基本大丈夫)
2.会ってしまった場合は友人になること
(一番穏便に済ます為)
3.喧嘩に負けないようにすること
(これは毎日の鍛練、そしてなにより大切なのが実践だ。実践することによって応用も習得することができる)
こんなものだろうか。
よし!今後のことをきっちり考えるとなんだか安心した。
ゲーム時間は高校入学から。それまであと2週間である。
とりあえずはフラグを潰すために誘拐しそうなグループを消しておかなければいけない。となれば縄張り確認から…すなわち街の探索である!
************
街を探索してみてわかったことは、ゲーム世界ではほんの一部しか移動出来ていなかったということだ。もちろん現世の記憶があるから迷子になる心配はない。
そのなかでうっかり攻略対象と出会いそうになったが全力で回避した。現世の記憶と照らし合わせて攻略対象のいない道を通った。
しかし、これからも街を出歩くことになるし、なにより攻略対象が多すぎるので時間の問題ではある。やっぱりなにもない平穏な生活は出来なそうだ。
それと、本題の縄張りだが、この街はかなりヤンキーがのさばっている。人数は多いがグループでいうと2グループしかない。どちらも巨大勢力。前世を思い出して思わずうるっとしてしまった。ひとりで潰すのは時間がかかりそうだ。ボスを倒すのが手っ取り早いかな…?
なんにせよ、鍛練は必要だな…忙しくなりそうだ♪
歩いていると肉屋のおじさんが声をかけてくれた。このおじさんは記憶を思い出す前からよく話し掛けてくれた人だ。
「お、華ちゃん。今日は珍しい格好してるね。」
「おじさんこんにちは。そうなの、今日はちょっと変えてみよっかなーと思ったの。」
「そっかあ…もう中学生じゃなくて高校生だもんな。」
「そう!そうなの!今日からの私はちょっと違うよ。」
そういってくるりと回った。元の私がこういう性格だからやっているだけで、別に私がやりたいとかそういうことは……
「華たん…。」
後ろから声がした。めちゃくちゃ背筋がゾワッとした。怖い。ストーカー。
「晴お兄ちゃん。」
晴がおいで、と呼んだので、肉屋のおじさんに別れを告げて歩き出す。
「そっかぁ…華たんはもう高校生なのか…もう少ししたら16歳だね…。」
晴は歩きながらポツリと言った。
本当にストーカーっぽい。
「え?うん、そうだよ。」
晴はしばらく何かを考え込んでいたが、やがてこちらを向いてにっこり笑った。
イケメンの満面の笑みに思わずきゅんとする。今ならなに言われてもドキドキしてしまうだろう。
「お兄ちゃん、いつでもフリーだからね。結婚もおーけーだよ。」
「おい彼女どうしたリア充。」
前言撤回。彼女を居ないものとするとは最低野郎だ。
「……………。」
晴は黙りこんでしまった。あまりの豹変ぶりにおどろいているのだろうか?前のように叫び出さないだけましか…
…と思っていると急に肩をガシッと掴まれた。突然のことだったので対応ができなかった。
「彼女とはもうとっくに別れた。俺は華たん一筋にするって決めたんだ。…華たん、俺はどんな華たんでも好きだよ。」
すると私を抱き締めて、耳元で囁くように言った。
「愛してる。」
――――正直ドキッとした。顔が火照って熱い。何秒か固まっていたと思う。
――――だが、
「ありがとう晴お兄ちゃん。私も晴お兄ちゃんのこと、大好きだよっ!」
これは恋愛の意味での『愛してる』ではない。なぜなら、私と晴は兄妹。そして晴はシスコンだ。
これが、正解だろう。
華は前世から鈍感です。ちなみに肉屋のおじさんも攻略対象です。