昔々のお話 その1
「今日も人間が家を潰していった」
「今日も人間に家族を殺された」
「今日も人間に縄をつけて引きずられる」
どこからともなく声が聞こえる。右の雑草から。左の木の上から。足元のアスファルトから。空から。どこまでも深い悲しみと憎しみが混ざった声。僕がただ街を歩いているだけで聞こえる声。
「今日は仕返ししてやろう」
「今日は復讐してやろう」
「今日も、明日も、明後日も。どれだけたっても許さない」
「許さない」
「許さない」
「許さない」
常人ならば発狂してしまうであろう、そんな声達。僕はそんな中を眉一つ動かさず歩いていく。
……僕はもういい加減慣れてしまっているのだ。何故なら僕は生まれた頃からずっとこの声を聞いているのだから。
何かあるようで何もない時間。そんな無意味なものを積み重ねただけの人生を、乾いた心を仮面で覆い隠して過ごしていく。僕はそうやって死ぬまで生きていくのだろう。
人が他人を恨み、妬み、傷つける。それらを人だけでなく他の種にも広げながら、なにもかもを壊す。そして生まれる復讐。増大する悲しみ。永遠と続く負の連鎖。
それをずっと感じてきた僕の感情は死んでしまっていた。なのに僕はさも感情があるかのように振る舞い続ける。家族を騙し、友達を騙し、何もかも騙して。
もう嫌だって思っているのに仮面を被ることをやめられない。何故だろう。僕が臆病だからだろうな、きっと。
この世界は汚い物ばかりしかないと、僕はそう思っていた。彼女が現れるその時までは。
これは、この世に全く染まっていない、純真無垢な空っぽの天使、奏と“綺麗”を探す話。遠い遠い昔からこの瞬間の今まで、そしてこれからもずっと続いていく、悠久の物語。
何故、同時に四季がある島なんてあるのか。
何故、“綺麗”を探すのか。
何故、主人公達と動物達は言葉をかわせるのか。
何故、主人公達の名前が出ないのか。
そういう疑問を解消してくれるだろう章。
“綺麗”を探す旅の合間に挟まるシリアス。
そういう位置付けの話となっております。