森で歌おう 秋編その3
「あれー、ヒューイの奴どこにいるんだ?」
「確かにここらへんにいるはずなのですが……」
紅の塔を左に曲がって歩くこと一時間。
ヒューイを僕たちは探していた。何故かというと、ゴウにメッセージを伝えてもらうためだ。……いや、そうだったのだが、というほうが正しいかもしれない。
何故なら、十分ほど前の会話でこういうやりとりがあったからだ。
「これじゃあ、みんなのところを回るのは無理みたいだな」
「どうして?」
「多分、この調子でほかのみんなも探していたら、歌い始める頃には朝になっちゃうよ」
僕の言葉を聞いて、彼女は残念そうな顔をする。
「……それじゃあ、どうするの?」
「私がみんなを呼び集めてきましょう!」
モケットが、私に全てお任せを、という表情で胸を張った。
「……みんながいる場所、知ってる?」
「いや、それは、その……」
彼女の言葉に少し落ち込むモケット。
「だから、モケットは私たちと一緒にいて?」
今の言葉でモケットは満面の笑みになった。そうしてコクコク頷いている。全く、現金な奴だ。
「僕は、ヒューイにその役目を頼もうと思ってる。彼なら多分、みんながどこにいるのかも知ってるだろうし」
そんなわけで、僕達はヒューイを探し続けている。いつもはここ周辺に良くいるのだが……
今日はいないのだろうか、そうだったら不味いなあ、などと考えながら周りを見渡していると、
「うわあっ!? 」
急に上から黒い何かが降ってきた。
僕の目の前に着地したそいつは、素早く右隣の木に登り僕の目線の高さまで来ると、脳天気な笑みを浮かべ僕を見た。
「へっへ、びっくりしたか!? びっくりしたかあ!?」
この黒いやんちゃな子供ムササビこそ、僕達が探していたヒューイである。
僕が苦笑していまの行動を注意ようとすると、
「ヒューイ! 貴様何を考えている!?」
モケットがもの凄い剣幕で怒り出した。
「えー? どうして? どうしてぇ!?」
「あのような現れ方は危険だろう。もしぶつかったらどうするんだ!?」
おおモケットが正論を言っている上に俺の心配をしてくれている、感動だ。
「姫様に!」
……僕の感動を返してくれ。
「むー、わかった、わかったよー」
「うむ、ならばよいのだ」
ヒューイはモケットより2周り程大きいが同じリスの仲間として何か通じるものがあるのだろうか、彼の説教には渋々ながらも従うのだ。
ちなみに僕の言うことには耳も傾けずサラッと流されるだけなのだから、我ながら情けない話だ。
ただ、彼女の言う言葉には……
「今日はいつものところで歌を歌うから、みんなへのお知らせ頼んで良い?」
「ハイッ!」
このように、完全なるイエスマンである。
もしかしてヒューイがモケットの言うこと聞くのって、ヒューイと仲良くなって彼女の第2の騎士になろうとしてる……とか?
か、考えすぎだな。うん、きっとそうに違いない。 そんな邪推を振り払おうと頭を軽く振った。ヒューイを見ると、これから木を登りますよ、というような姿勢をしていた。
「では行ってきます!」
「あ、ちょっと待って。他のみんながどこにいるかは知ってる?」
「ハイッ! 今日はみんな集まってワイワイやるという話を聞いたので、どこにいるかもその時に」
「ん、それなら大丈夫だね。ありがとう。それじゃ、いってらっしゃい」
「イッテキマス!」
そう答えてもの凄い勢いで木を登り、頂上にたどり着くと目的地へ滑空して行った。
ヒューイの姿を見送るために上を見ると、空は赤く染まっていた。
「もう夕方か……」
森の紅と空の赤。混ざり合う2つのアカを切り裂くようにしてヒューイは滑る。
「結局、夜になっちゃいそうだね」
「夜の秋の森というのも乙なものだよ。さ、姫。夜になってしまう前に行きましょうか」
「わかった。行こう」
彼女が僕に手を差し伸べている。
彼女の金の髪がアカと混じり合い、輪郭が曖昧になる。
そんな何もかもがぼやけて見える中、彼女の青い目だけがはっきりと見える。その瞳は宝石のようにきらきらと輝く。 僕はその手を取って彼女を見つめ、頷いた。
「行こう、そして歌おう。2人で、さ」
道中、彼女と僕が手を握ったまま歩いているのを見て、モケットがジーッと僕を睨んできた。
彼女が転ばないようにエスコートしてるのだと言うと、モケットは何も言わずに僕と彼女が丁度手を繋いでいる上に走っていって、そこに前足をかけてぶら下がり始めた。
僕と彼女は目を合わせ、互いに吹き出した。
しばらくの間、僕達の笑い声が森の中に響いていた。