森で歌おう 秋編その2
遠くから秋の森を見ると、周りの木よりも明らかに高い木が一本ある。
その高さと美しい紅葉から、森のみんなには「紅の塔」と呼ばれている。
今僕たちは、その紅の塔の前に来ている。
「や、久し振りだねぇ」
その木陰からそう言ってこちらに笑みを向けるのは、大猪のゴウだ。
ゴウは高さ2mとかなり大きく、彼と木の巨大な2つを見るとまるで僕達が小さくなってしまったような感じがしてしまう。
だがその見た目とは裏腹に、彼は優しくおっとりしているので、彼と話している時はその大きさで僕達を温かく包み込んでくれているような、そんな安心した気持ちになれる。
「久し振り。この頃は何をして過ごしてたの? 」
「最近は冬の森に通っていてねぇ。今日も行ってきて、ついさっき帰ってきたばかりなんだねぇ」
「そうなの? 実は僕達もつい昨日まで冬の森に通っていたんだよ。いやぁ、それなら一緒にいけば良かったなあ……
会えなくて残念だったよ」
「んー、僕は日の出を見るために、夜明け前に行っていたからねぇ」
ゴウも“綺麗”が大好きで、よく他の森に行ったり山に登ったりしている。
そんなわけで僕達はお互いの“綺麗”情報を交換したり、一緒に“綺麗”探索に出かけたりしている。
いるのだが……
「夜明け前に?それじゃあ、多分一緒にいけなかったろうなあ。僕達朝早くに起きるの苦手だから……」
情けないことに僕らは2人とも朝が弱い。朝日が上って起きることは起きるのだが、互いにボーっとして気づいたら昼間、なんていうのが日常茶飯事なのだ。
だよね?と思って、後ろにいる彼女を見ると、
「むー……」
と唸りながら、そんなことないもんといいたげな目で僕を見ていた。
どうやら、彼女は冬の森から日の出を見たいらしい。
僕は苦笑しながらゴウのほうを振り向いて、
「やっぱり頑張って起きてみるよ。その時に一緒に行こう? 」
「そうですねぇ、是非お二人と一緒に見たいですねぇ。
大丈夫、その時は僕が起こしに行きますからねぇ。」
ゴウは嬉しそうにこう言ってくれた。
その言葉を聞くと彼女が僕の隣にきて、
「ありがとう。その時は私達も頑張ってみる。楽しみだね」
と言って微笑んだ。
すると彼女の肩で伏せていたにモケットが急に立ち上がって、
「私もお供いたします」
と言い、恭しく一礼した。
寒いのが苦手なモケットがこうまでして“綺麗”を見たいと言うなんて成長したなあ、と感心していると、胸を張って誇らしげにこう言った。
「この私のモフモフの毛で、姫の首筋をお守りしましょう! 」
……マフラーとしてついていくようだった。
「うん、モケットもよろしくね」
今日も騎士は姫のために身を粉にして働くのだった。
「それじゃ、他のみんなのところも回ってくるよ。あ、今日はいつもの場所で歌を歌うよ」
「いつからかねぇ? 」
「夕方になりそう。もし早くなりそうだったらその時はヒューイに頼んで呼びにきてもらう。安心して待っていて」
「わかったねぇ。楽しみにしとくねぇ」
そう言ってゴウは地べたに腹這いになって寝てしまった。
早朝の冬の森のおそろしい寒さのせいで体力を消耗してしまい、疲れているのだろう。
その様子を見てみんな顔を見合わせ目配せすると、口の前で人差し指を立てながら、静かに次の場所へと移動を始めた。