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森で歌おう 秋編その1

 秋の森の真ん中には木の生えていない丸い緑色の空間がある。

 周りは紅く染まった木々ばかりなのだがその空間にだけ緑の芝生が生えているので、この森の名所と呼ばれる場所の1つと言われている。


 僕と彼女はそこの中央に立っていた。


 ここには、さんさんと太陽が降り注ぎ、木々の色の移り変わりを表現するかのように、紅と緑と黄が混ざりあっている。


 その真ん中、僕達の前方の足元に一匹のリスが寝ていた。


「すー……すー……」


 小さい影が規則正しく呼吸を刻んでいる。


 僕達はいつもこの真ん中で歌い、他のみんなは回りの木々の影で思い思いにくつろぎながら聴く。 その時ここに来る順番に関する面白いルールがあり、三番目までに来た者は特等席と言われる僕達と近い場所で聴くことができる。

 このリス―――名前をモケットといい、特等席をとるために日中常にここにいるのだ。

 僕達がどの森に行くのか、いつ行くのかなどはその日の気分次第なので、毎日モケットはここに来る。


 そういえば昔、ここで歌おうとして初めて来たときもこんな風に寝ていたなあ、と思っていると、


「……ん……ふわああっ」


と、目を覚まして伸びを始めた。


「モケット」

「うわあっ!? 」


 彼女が声をかけると、もの凄い勢いで飛び上がった。

 かと思うと、


「おお、歌姫様! お久し振りです」

 と言って彼女の前にちょこんと膝をつき頭を垂れそう言った。

 彼女は、みんなから歌姫と呼ばれ慕われている。

 彼女は頬を緩ませ目を輝かせて頷きながら手を前に差し出すと、モケットは素早い動きでその手を駆け、彼女の肩に乗った。


「姫、今日はいつから歌を歌いになられるのですか?」


「みんなが集まり次第歌い始める」


「わかりました。では、私がみんなには伝えてきましょう」


「いや、今日はいい。私達が直接みんなを呼ぶから」


「ふむ、やはり、久し振りだからですか? 」


「ん。大分来てなかったから、みんなと話したくて」


「姫はお優しいですねー、はっはっはっ」


 はっはっは、ふふ、と笑い声が響く。

 ごらんの通りモケットは彼女の騎士のような存在であり、この森に来る度このような会話が行われる。

 一見微笑ましい光景である。

 が、それを見る僕の表情は硬い。


 するとモケットはこっちを見てにやっとすると、


「これはこれは奏者殿。今日も仏頂面がお似合いですな」


 歌姫に対して僕は奏者と呼ばれている。

 歌姫と共に音を奏でる従者。

 そのような意味をこめてみんなは僕をこう呼ぶ。


 モケットがいつも通り僕に絡んできたので、僕も応戦する。


「モケットも、昼寝の時のよだれで顔がてかてかなのがよく似合ってるよ」


 なっ!? とか言って顔をゴシゴシし始めた。

 それを見て彼女は笑っている。


 このようにモケットは毎度僕に突っかかってくる。

 昔は本気で嫌いあっていたのだが、彼女のおかげで今はなんだかんだ仲がいい。 このやりとりは昔のなごりというやつだ。


 モケットはムスッとした表情をして、


「その口はよく嘘をつきますね。このほら吹き! 」


「いや、嘘じゃないって。彼女に聞いてみなよ? 」


「嘘ですよね? 嘘ですよねっ? 」


 そう必死に彼女の横顔に話しかける。

 彼女は首を傾げ、さあ? と言った。

 その反応に、まさにガーンという感じで四つんばいで落ち込むモケット。 もちろん嘘なのだが、彼女は意地悪でさあと言ったわけではない。

 なぜかというと、彼女が横を向いたらモケットにぶつかるため、彼女は正面を向かざるをえないのだ。

 つまり、そもそもモケットの顔を見れないわけで、彼女が首を傾げるのは正しい反応なのである。


「……ははっ」


 そんなやりとりが楽しくて、思わず笑ってしまう。


「……ふふ」

「……はっはっは」


 彼女も笑い、モケットも一瞬キョトンとした後笑い出した。

 三人でしばらく笑った後、


「じゃあ、行こうか」

「そうですな」

「うん」


 僕らは秋の森のみんなに会いに行った。



 ふと、ここでこう思った。


 これ、みんなを回り終えた時にはいつになってるんだろう……


 ま、楽しいからいっか。なんて思いながらその考えを打ち消した。

 こういう楽観思考も大切……だよね?

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