森へ行こう
ギィと音を立てる扉を開けて三歩外にでると、全身で風と太陽を感じる。
風にのってくる草の匂いが心地良い。
隣に並んだ彼女も心地良さそうだ。
僕は朝の眠気を完全に吹き飛ばすために伸びをした。
「ん〜っ!本日も快晴快晴!」
空は雲一つない冴えた青だ。
彼女の瞳と同じ色で、僕は少し頬が緩む。
「にやにやしてるけど、どうした?」
すると急に足元から声が聞こえてきた。
この声は……
「おはよう、アカメ」
下を見ると、こっちを見上げる白い兎がいた。
「ん、おはよー」
笑いながら彼女はそう言った。
すると、隣の君はしゃがんでアカメにこう話しかけた。
「今日はどこで歌ったらいい?」
「そうだなあ……秋の森のみんなが次はうちの番だ!とか言って騒いでるから、秋の森かな」
「わかった。ありがとう」
ばいばーいと言って、彼女は俺たちの後ろの森、通称春の森へピョンピョン走っていった。
彼女から視線を外し、顔を正面に向けると、遠くには青白い山が見あり、その手前には紅い森があるのが見える。
その森が通称秋の森といわれるところで、僕達のいくところだ。
森の木は全て紅葉し、色鮮やかな景色を見せてくれる。
正に情熱的な色合いなので、彼女はここで歌うと思わず感情が入りすぎて急に泣くことがある。
その日はいつも帰るときの方が行きより凄く機嫌が良くて、踊るようにしながら彼女は帰路につく。
ある時、彼女になんでそんなに機嫌がいいのかと聞くと、涙を流すと心のもやもやが晴れるからだと言っていた。
それまで僕は男だから、とかいう理由で泣くのを我慢していた僕は、その時から我慢しないようにしようと決心した。
それ以降、何回か感極まって泣いてしまったのだが、泣いた後は彼女のいう“綺麗”が凄くよく見えた。
泣くと心のくもりを消してくれるという事を、身を持って知った僕だった。
閑話休題。
家から秋の森までは、歩いて大体十分というところだ。
「んじゃ、行こうか」
こう言って彼女の方を見ると、彼女は名残惜しそうにアカメが行ったほうを見ていた。
可愛いもの好きだもんなあ……
僕らの家は森に囲まれ、さらに山から囲まれている。
周りを囲む山は正方形を描いていて、4つの辺は別々の四季を持っている。
我が家の玄関側が秋であり、そこから時計回りに冬春夏となっている。
どこに行っても森しかないが、僕はここが大好きだ。
「秋の森に行くのはいつぶりだっけ?」
「1ヶ月ぶり。最近は冬の森に行ってたから」
そう、最近は冬の森で歌を歌っていた。
そこで僕は銀世界の美しさを彼女に教えてもらい、それですっかり僕は魅了されてしまった。
そんなわけでわがままを言って足繁く通い、入り浸ってしまったのだ。
「んー、なんかあんまり時間たった気がしないんだけど、そんなにかー。他のみんなには悪いことしたな」
苦笑しながらそう言うと、
「久し振りに別の景色を見たら、いつもより“綺麗”を見つけやすい。だから、私は楽しみにしてる。あなたはどう?」
こう彼女が聞いてきた。
なるほど、確かにそういう考えもあるんだな、と感心する。
「ああ、楽しみだよ。それ聞いてより一層、ね」
あと少しで秋の森に着く。
今日はどんな“綺麗”をみつけられるだろうか。
嗚呼、本当に楽しみだ!