表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

森で歌おう 夏編

 サイクリングが日課となった近頃。僕達は自転車で競争を始めた。夏の森の周りをグルッと一回りするコースで、どっちが速いか競争するのだ。

 最初は彼女の圧勝だったのだが、僕も体力がついてきて、そこそこの勝負が出来るようになったと思う。ただ、ゴールしてもほとんど汗をかいていない彼女を見る限り、それは思い込みなのかもしれない……


 日中僕達はそれをしながら、他の誰かがいたら競争をやめて、いつどこで歌を歌いますよ、というお知らせをしていた。わざわざみんなのところに言って伝えていたら、この前のように何時間あっても足りない可能性があるからだ。

 僕の体力増強にもなるし、お知らせもできる。まさに一石二鳥のサイクリングなのだ。



 そして今日がその日、歌を歌う日だ。夏の森の名所は真ん中を通る川だ。暑い中冷たい水を浴びるというのは実に良いものだし、太陽のもとで煌めく水飛沫は美しい。

 そして夜。水の流れる音が心を癒やす。静かな水面に映る金の月は、荘厳な雰囲気を持っている。



 僕らは座ってそのゆらゆらと揺れる月を見ている。


「今見ている月は、嘘の月」


 僕は言う。


「もし、僕達が本当だと信じている物が、こんな風に嘘の物だとしたら」


 心の泥を吐き出すように、僕は言う。


「みんなはどう思うのかな」

「でも」

 僕の言葉を打ち消すように、彼女は強く言葉を紡ぐ。


「綺麗だよ。本物とは違っても、その月は綺麗だよ。だからみんなここが、この景色が好き。」


 彼女は僕の手を握る。


「あなたが選んで私が作ったこの世界も、綺麗だよ。だから、みんなここが好き。だから自分だけを責めないで」


 俯く僕を彼女は抱きしめる。


「罪は、一緒に背負っていこう。」

「うん……ありが、とう」


 知らず涙が零れて、彼女の肩を濡らす。僕は独りじゃないという安堵が、どこまでも優しく僕を包んだ。




 僕と彼女は片手を繋いで向き合ったまま立ち上がる。


〔川面の月が綺麗〕


 彼女の独唱を、僕は聞く。


〔ゆらゆら、ゆらゆら揺れる〕

〔そんな儚い月〕

〔ならば私は川となろう〕

〔月を映し続ける静かな水面になろう〕

〔その月が消えないように〕

〔私が護ろう〕



 僕は答えるように、僕の独唱を紡ぐ。


{僕は月}

{消えない、儚い月}

{嘘のない、嘘の月}

{何が正しいのだろう}

{何が誤りなのだろう}

{わからず悩み、でも登る僕}

{そんな時、静かな川を見つけた}

{その川面に映る僕を見た}

{それは綺麗な月だった}

{それがわかって悩みは綺麗に無くなった}

{ありがとう}

{川にそう言って、僕はずっと在り続けた}

{その川とずっと一緒に}



 この二つは、僕らを表す歌。そしてお互いの思いを相手に伝える、そんな歌。二つの独唱は一対の歌。彼女と僕は、二つで一つ。

 そんな思いを抱きながら、僕らは微笑みあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ