平凡な俺の並外れた初恋
四月。桜が咲くこの季節。晴れて高校生となった俺は、朝からとてもけだるかった。俺、
神羅文冶≪しんらぶんじ≫は、
有理学園に通う至って平凡な高校生。何をやるにも無気力、常に暗い顔をしているような人物であると
理解してもらいたい。これから高校も大学も普通のところに通って、普通に就職して、普通に結婚して、普通に死ぬ。第一こんな平凡な人間に影響を受ける奴もいない。そんな感じに生きてくそれでいいと思っていた。
あいつに会うまでは・・・。
学校に着くと、スーツに身を包んだ先生と思われる中高年の男女が身を連ねていた。
俺はどうやら1組のようだ。
「えっと、俺の隣は・・こ いで?変わった名字だな(俺が言えたことでもないが)」
教室はいくつかのグループに分かれて会話をしていた。大方、中学からの知り合いなのだろう。
俺も知っている奴が何人かいたが入学式という理由で起床が速かった俺は、いまさら友達作りにいそしむ必要も
ないだろと思い、一目散に机に向かい、机に伏せていると、
「起きろ~。机で寝るなんて器用だな」
などと1人で感心している妙な奴が横に立っていた。
眠くて、機嫌が悪かった俺は、
「静かにしろ」
と一言だけ言うと、また、だんまりを決め込んでいた。
あまりにもうるさく、しつこいので、
「何か用か?」と聞いといた。
すると、満面の笑顔で、
「友達になってくれ」と頼まれた。
俺は、
「面倒いからイヤだ」と言うと、
「いいじゃん。名字の初めが神で同じ奴なんて中々いないぞ。」
というので、
「そんな事関係あるか!」
と、つっこんでしまった。
「いいじゃん、減るもんじゃないし。」というので、
「お前とつるむと俺の時間が減るわ」といってやった。
「えー、そんなことないよ。」
と、やたら会話を続けてくる。
早く会話を終了させたかった俺は、丁重になおかつ全力でお断りした。
「眠いから話しかけるな。」
と言ってやった。
眠いと言っているのにやたら起こそうとしてくる。
「うざい!」と言い放つと、
「てへ、悪かった」とかいいやがる。
おかげで、右拳を抑えるのが大変だったぜ。
あまりにも面倒いので、
「分かった。分かった。お前、名前は?」
「俺、神条ナイト≪しんじょうナイト≫。神に二条城の条カタカナでナイトだ。よろしくな。」
「おう。ところでナイト、俺達は友達になったわけだが友達なら嫌がることはしないよな。」
ナイトは清々しく
「当たり前だ。」といった。
「だったら俺の眠りをさまたげるな。以上会話終了。」
そういって机に顔面を打ちつけるような勢いで顔を伏せた。
(頭を打ちつけたことはこの際、黙っておこう)
頭を打ちつけてしばらく痛がっているのを見て、
誰かが声をかけてくれた。
「大丈夫?」
とても明るく元気な声だった。
さぞかし、元気な子だろうと顔を上げると、
案の定とても笑顔が明るそうな顔立ちが見えた。
「あぁ、サンキュー」
俺はその言葉しか言えなかった。
何せ、女子に声をかけられることなんて初めてのことだ。
(自慢じゃねぇぞ。)しかもこれがまた誰が見ても美少女ときた。
凡人である俺が驚かないわけがない。
固まっている俺に
「どうかした?」と、優しい言葉をかけてくれた。
さすがに胸が躍ったね。
でも、残念俺のタイプじゃないんだな~これが。
俺のタイプは、静かで一歩下がって見守ってくれる人がいいんだな。
って、何を語ってるんだ俺は。
でもしょうがない俺だって健全な一高校生だ。
女子にモテたい願望がないわけじゃない。
てか、となりのやつ静かだな。
うお、
横を見るとこれまた美少女だしよ。
スゲェかわいくね。
そんなことを思っていると、体育館への移動の指示が出た。
おとなしく座っていた俺だが、
予想以上にたるかった。
しっかし、校長の話ってのは、どこも長いんだな。
だらだら聞き流しながら横目で例の彼女を見た。
おぉ、ヤベェ目あっちゃった。
どこ見てたのかな。おいおい、話聞いてなかったよ。
(聞く気はなかっただろうが)
終わったし。
教室に戻ると今日は下校とのことだった。このまま残ってても仕方がないので、
おとなしく下校することにした。
帰りにコンビニに寄ると、後から例の彼女が入ってきた。
緊張で死にそうだった俺は、全速力でコンビニを出た。
その後、家に帰って、また、目があっただのなんだのと一人で葛藤していた。
次の日、たるい気持ちとまた会える喜びで、心を2等分されていた俺は、
いつのまにか学校に着いていた。
玄関に向かうと、またあの子がいた。
どう反応していいか分からず通り過ぎようとする俺に、
彼女は、
「おはよう」と声をかけてくれた。
俺は、石像のごとく固まってやっとの思いで、
「おはよう」の四文字を口にした。
これでまた教室で会うのだから、恥ずかしさで、悶死しそうだ。
彼女は、静かで、決して口が達者ではないはずだが彼女の周りには、
常に人がいた。隣にいるのだから間違いない。
(決してホレたが故の過大評価でないと、弁解しておこう。)
こんなことを繰り返し、中間テスト1週間前、あまり話しかけてこなかった
ナイトが唐突に話しかけてきた。
「文治って、テストできるのか?」
自慢ではないが俺は成績は悪くはない。平均より上 中の上くらいだ。
これまで普通に勉強をしてこなかった俺は、
今回も、あまり勉強する気はなかった。
「まぁ、ビミョーってとこかな。」と、テキトーに返事をしておく。
今の台詞のどこに機嫌を良くしたのか分からんが、ナイトは、
一人で頷いていた。
擬音語が聞こえてきそうな位俺を凝視して、
「俺に、勉強を教えてくれ」と、頼み出した。
今回も、テスト週間をのんびり過ごそうと思っていたのでスケジュールを
組むわけにはいかなかった。
「俺は一人で勉強するから・・・悪いな。」
柄にもなく謝っておく。すると、ナイトは
この世の終わりのような顔をして、
「そうか」と言い残すと、何やら呪文のようにブツブツ言いながら去って行った。
横の人に会話を聞かれていたのか、彼女はクスクス笑っていた。
笑いを落ち着かせている間に俺はその場を足早に立ち去ろうとする。
「待って。」
不意に呼び止められた俺は、振り向くしかなかった。
「何?」一言返すと、
「私に勉強教えてください。」
「え?」俺は思わず聞き返してしまった。
「だから私に勉強教えてください。」
彼女は頬を赤らめながらそう言った。
「え?でも確か入学テストの順位俺より上位だったような」
「じゃあ、私が勉強教えてあげます。」さっきと立場が変わってるぞ。おい。
(ちなみにこの有理学園はそこそこ有名な進学校なので
入学テストの順位も張り出されるのだ)
言ってることが矛盾してるがまあいいか。
「俺もたまにはテスト勉強というものをやっても罰は当たらないだろう」
「じゃあ、よろしく。え~と・・・」
「私、小出愛子。」
「俺、神羅文治」
「知ってるよ。自己紹介してたもん。」
何故俺の自己紹介を聞いていたのか疑問に思ったがあえて聞かない。
「どこでやるの?」
「私の家じゃダメ?」
「いいの?お邪魔しても」
彼女は元気よく
「うん。」
そう言った。
女子の家なんて初めてだ。
これは、人生最大の転機と受け取っていいのだな。
俺が妄想世界に言ってる間に話が進んでいた。
「じゃ、今日放課後一緒に下校しよう。」
こんな美少女と帰れるなんて
クラスの持てない連中が知ったら火あぶりにされそうだ。
「分かった。」
4文字を口にするのに今回はそう時間はかからなかった。
その後授業があったがそれどころではなかった。
清掃中もボーっとしているのでクラスメイトに
「保健室行ったほうがいいんじゃないか?」といわれる始末。
正直勉強などする気はない。
小出さんのこともっと知りたいし。
もっと話せればいいな、みたいな。
「じゃ、行こうか。」
とてもかわいらしい声でそういうと俺の手をとり、足早に教室を出た。
その行動までの途中経過を忘れてしまったくらいだ。
あの時の周りの恨めしそうな視線が忘れられない。
こわかったぞ。マジで。呪い殺されそうだったぞ。
教室を出てから玄関で靴をはきまた彼女に手を握られ、
学校を出た。いつまで手をつないでいるのか疑問に思ったが、
めったにない機会なので黙っておく。
(少なくとも好意を持っている人に
握られた手を振りほどこうとするやつはいないだろう。)
家は、学校から遠くもなく近くもなくといった位置に建っていた。
ちなみに俺の家は学校から徒歩5分くらいのところにある。
そこ、急に態度を変えるな!
家の外見を見るに相当裕福な家庭なのだろうと思った。
中に入ってからもすごかった。本当に同い年?と疑ったほどだ。
突然彼女が「今、親いないんだ」と言い出した。
何が言いたかったのか分からないが・・・
リビングに招かれそこでしばし休憩し、彼女の部屋で
勉強することになった。
彼女は小さい小型のテーブルにつくなりもの凄い勢いで
シャープペンを走らせ出した。
せっかく色々話そうと思っていたのに・・・
自分のやる課題が一段落ついたのか彼女はテーブルに伏せていた。
ここぞとばかりに話しかけようとする俺・・
今現在1分以上会話がない状態。
だって、そんな簡単に話しかけられないし・・。
悪かったな情けなくて
机に伏せていた彼女が突然話しかけてきた。
「ねえ、何したらいいと思う。」
「どっか分からないとこあった?」
「どこがわからないの?」
そんなに質問攻めにされても・・