↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『西果てよりのレシピ ―劉玄徳、乱世を煮る―』  作者: 曲木六円


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/11

第7章:関羽雲長 難関突破と曹操の気概 張飛大いに吼える

前書き:『西果てよりのレシピ ―劉玄徳、乱世を煮る―』

歴史の教科書が語る「仁義の英雄・劉備」は、常に涙と共にあった。

だが、その涙の裏に、もしも**「極めて冷徹なまでの合理的知恵」**が隠されていたとしたらどうだろうか。

楼桑村の貧しき青年、劉備。

彼は、誰も知らない「西の果て」の記憶を持っていた。

砂漠を越え、海を渡り、異国で目にしたのは、鉄を飴のように操る炉の炎であり、数年の歳月を封じ込める保存の法であり、そして土の力を限界まで引き出す農耕のレシピであった。

「天下を治める」とは、すなわち「天下を正しく調理する」こと。

彼が振るう双股剣は、異国の製鉄理論が結晶した最強の鋼。

彼が民に配る一椀の粥は、飢えを根絶するための科学の結晶。

そして、彼が懐に忍ばせた「赤実(トマト)の種」は、腐敗した漢帝国を塗り替える、革命の赤。

これは、一人の料理人であり、技術者であり、そして王であった男が、己の五感と知見のすべてを賭けて、戦乱という名の巨大な釜を煮上げる物語である。

さあ、宴を始めよう。

火加減は、諸葛孔明。具材は、関羽、張飛、趙雲。

そして主(シェフ)は、西の記憶を持つ男、劉玄徳。

乱世は今、最も熱く、そして「旨い」季節を迎える。

第7章:関羽雲長 難関突破と曹操の気概 張飛大いに吼える


7-1:第二の関 ― 抜かぬ刃の威圧

第一の関を「言葉」で抜けた関羽を待ち受けていたのは、重装備の兵たちで固められた第二の関であった。

関羽は赤兎馬を止めず、ただ黙って前方を見据えた。劉備から授かった研磨技術により、鏡面のように磨き上げられた青龍偃月刀が、刺すような光を反射する。

関羽が発する**「静かなる殺気」**は、物理的な壁よりも高く、鋭かった。

「通れぬと言うか」

その一言と共に、関羽がわずかに手綱を引いた瞬間、兵たちは蛇に睨まれた蛙のように硬直した。刃を振るうまでもない。技術を極め、忠義に裏打ちされた男の「圧」だけで門が開く。関羽は一顧だにせず、悠然とその間を通り抜けた。


7-2:第三の関 ― 曹操の諦念と、刃先の矜持

遠くからその様子を静かに見守っていた曹操は、もはや関羽の心を繋ぎ止めることは不可能だと悟った。

曹操は自ら馬を走らせ、関羽に追いつく。最後の手向けとして錦の袍(うわぎ)を届けた。

「雲長、これを持って行け。せめてもの餞別だ」

関羽は馬を降りず、偃月刀の刃先でそれを受け取った。その傲岸とも取れる態度に、曹操の側近・許褚(きょちょ)が激昂し、剣を抜く。

「貴様、我が主を愚弄するか!」

「待て、許褚!」

曹操の鋭い制止が響く。曹操は、刃先にかかった錦の袍をじっと見つめていた。

「彼は、私と『直接手を触れない』ことで、我が恩に溺れぬようにしているのだ。……これこそが、彼の純白の忠義。私への最大限の敬意よ。行かせてやれ」

曹操の寂しげな微笑みと、去りゆく関羽の背中。そこには、王と名将という関係を超えた、深い「味の理解者」同士の沈黙があった。


7-3:古城の咆哮 ― 張飛の疑念と「証拠の味」

ようやくたどり着いた古城。しかし、待っていたのは張飛の凄まじい咆哮だった。

「裏切り者の関羽め! 曹操の犬になり下がって、どの面下げて帰ってきた!」

張飛は劉備を案じるあまり、冷静さを失っていた。関羽が何を言っても、その美しい錦の袍が、裏切りの証拠に見えてしまう。

張飛は蛇矛を突き出し、関羽に襲いかかる。関羽は反撃せず、ただ攻撃をいなしながら叫んだ。

「翼徳、これを見ろ!」

関羽が投げ出したのは、曹操からの金銀ではなく、ボロボロの布に包まれた**「黒ずんだ塩漬けの肉」**だった。


7-4:涙のスープ、三人の帰還

張飛はその肉を手に取り、凍りついた。

それは、劉備がかつて教えた保存技術が忠実に守られた、執念の塊のような肉だった。曹操の華やかな都で、関羽がどれほど孤独に、兄との再会だけを信じて「この味」を守り続けてきたか。肉の表面に浮いた塩の結晶が、関羽の流した汗のように見えた。

「……悪かった、兄者! 俺がマヌケだった!」

張飛は蛇矛を投げ出し、関羽に抱きついて号泣した。

そこへ、知らせを聞いた劉備が駆けつける。古城の冷たい風の中、三人はついに再会した。

劉備は、関羽が守り抜いた「塩漬けの肉」と、自分が持ち帰った「赤実(トマト)の種」を合わせ、即席の鍋を作った。

「……味が濃いな、雲長」

「はい。兄上を待つ時間は、ひどく長く、辛い味でした」

三人で啜るスープは、泥の匂いと涙の塩気が混じっていたが、天上のどの料理よりも深く、力強い味がした。こうしてバラバラだった「最高級の具材」は、再び一つの大きな志の鍋へと戻ったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。