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満たされた条件 ─ 間違っていない。だから厄介だ

作者: 無為(MUi)
掲載日:2026/05/26

 

  ─ 選び、並べ、決めていく

   すべては順序通りに進む

      不備はない

  それでも、何かがずれている ─ 

  

 

 

 

「よーし、優先順位つけるぞ。水呼びの魔法陣の材料集めと、フェイの魔杖キャストの素材。それから武器の調達」


 適当な店に入って席を確保すると、イーヴォは地図を広げた。


「今日必須なのは、魔導具店。品揃えが分からないから正直時間が読めない」

「御者組合に預けてる荷物の回収と今夜の宿決めもある。宿屋はあまり遅れると足元を見られるぞ」

「魔杖と武器は後回しで構いません。今すぐ必要な品じゃありませんから」

「そうだな、武器選びには時間をかけた方がいい。命を預ける道具になる。返品出来ないなら尚更だ」

「それなら、明日以降に回すか」


 イーヴォは軽く顎に手を当てる。


「じゃあ、御者組合は最後。それでいいか? 魔法陣は出来れば今夜、遅くても明日の午前中には仕上げたい」

「いいんじゃないか。今日中に目星を付けよう。フェイの実家に迷惑はかけられない」

「すみません、あまり馬車と馬を遊ばせておく訳にもいかなくて」

 

 * * *

 

「……なんで砂岩しかねぇんだよ?」

「刻みやすくてお勧めですが」

「刻みやすいのはいい。水吸って重くなる石を薦めるな」


 のっけから剣呑な雰囲気が漂う。


「陶板は置いてないのか?」

「陶板に魔法陣描くことなんてあります?」

「普通にあるんだが」

「そういう特殊な品は扱ってないですね」

「何処なら手に入る?」

「こちらでは分かりかねます」

「……邪魔したな。出ようぜ」

 

 * * *

 

 店を出て少し歩いたところで、イーヴォが口を開く。


「回転重視かよ。品質は二の次」

「一概に悪い商売とは言えないだろ」

「はぁ? 品揃えが貧相過ぎだ。それに大容量お得品って何だよ、使い切る前に劣化するわ。その上質も悪いとか」

「安いから助かる人もいます。普通に使う分には困らないですし」

「選択の自由はどこ行ったんだよ」

「迷わなくて済むという利点もある。選ぶこと自体が負担になる人もいるんじゃないか?」

「俺はちょっと無理だわ。次行こう、次」

 

      *   *   *  

 

 二番目の店は、店主こだわりの専門店らしく品決め自体は揉めることなく進んだ。


(揉めてはいないんだが)


「耐光性の高い顔料ってどれ?」

「高品質って、等級で言うとどの辺?」

「導通良いやつと耐水のやつって混ぜて使えんの?」


 矢継ぎ早に放たれる質問に淀みなく答える店主。


「導媒粉ってあるけど原料は何?」

「中身固まってても返品出来ないんだよな?」


 (まだ続くのか)


 顔料ひとつ選ぶにもこれだ。

フェイは物珍しそうに店内を物色していたが、俺は正直退屈していた。視線を外し、壁に掲げられた告示に目をやる。


『その契約、もう一度確認を』

『条項は、全部読みましょう』

『希望した条件は抜けていませんか?』

『合意後の変更はできません』


(……面倒な街だな)

  

「──その環境ならこれだ。水は弾くし、三年は持つ」

「三年じゃ駄目だ」

「そりゃ、描くだけじゃ無理だな。刻まないと」

「陶板に刃を入れたら割れるだろ」

「石灰岩がお勧めだ。柔らかいが粘りがある。厚みがあるから少々重いが」

「じゃあそれでいいや。他に要りそうな物あったら出して」


 ──段々雲行きが怪しくなってきた。

袋や箱がカウンターの上に次々と並べられていく。


(……品数がおかしくないか?)


 ────購入品は二十を軽く超えた。


「……本当に全部必要なのか?」

「要る。半恒久の水呼び板にするから」

「……なんか、すみません」

 

 * * *

 

 店の主人は配達を勧めてきたが、嵩張るものでもなかったので三つに分けてもらうことにする。

第一、今夜の宿も決まっていないのに荷物の受け取りようがない。

 

「思ったより時間食っちまったな。後は宿屋と御者組合か」


 早くも杖を持て余し気味のイーヴォが、荷物を置いて首を揉む。


「行くなら御者組合だろ。荷と宿をまとめて片付けられる」

 

 * * *

 

「──宿の紹介ぐらいはお安い御用だが、どれくらい出せるんだ?」

「金額うんぬんより、夜中に音出してもいい宿とかない?ノミとハンマー使いたいんだけど」

「それならあそこだな。職人にも人気がある。──ただ、安くはないぞ」

 

 * * *

 

 ──紹介された宿は、敷地に余裕があった。馬車が数台は並べられそうな広さで厩舎もある。建物もゆったりと構えていて騒がしさとは無縁だ。


「こちらになります」


 案内されたのは、建物の裏手だった。

勝手口のような鉄の扉を抜けると、階段が下へと続いていた。空気がひんやりと沈んでいる。


 石の階段を下りきると、広い空間があった。


「夜間の作業でしたら、こちらの方が都合よろしいかと」


 扉の鍵を渡され、荷物が床に置かれる。


「ごゆっくりどうぞ」


 部屋の端にベッドが四台。石の床に絨毯が敷かれ、壁は厚く音を吸う。窓はない。


「……地下倉庫か何かを改装したみたいですね」

「悪くねーじゃん。てか、むしろ最適だろ。音は漏れないし邪魔も入らない」


 奥にある扉を開ける。


「そっちは水回り?」

「作業場だな」

「じゃ、材料は全部そこに置くか」

 

 ──てっきり離れか何かに案内されるかと思ったらこれか。

確かに間違ってはいないし、騙されたわけでもない。


「やられたな」

「何の話?」

「認識がズレてたってだけだ」

「レナリウムらしいといえば、らしいです」

「まぁ、いいか。条件は満たしてる」

 

 * * *

 

 ──階段を上がり扉を開ける。

満ちかけの月が、夜空の中ほどに浮かんでいた。


「ザエッダは月信仰が盛んだと聞きました」

「盛んというか……。まぁ、日常だ。フェイはレグナンの信徒なのか?」

「存在を疑ったことはありませんが、特に信仰はしてません」

「理由を聞いてもいいか?」

「そうですね……」


 フェイは視線を落とし、少し間を置いた。


「俺の周りの人たちは割と……、打算的というか、得になる神さまを選ぶ人が多いんです」

「損得で信仰を決めるのか?」

「結構多いですよ。商売人は金運の神、船乗りは海運の神とか。実際に信徒になれば小さな奇跡を授かるそうです」

「祝福というやつか。俺の住んでいた村にも大地神ダリオーネの神父がいた」


 ──あれは決して小さな奇跡ではなかった。少なくとも俺にとっては。


「今はまだ祝福を必要としてませんし。……それに何だか怖い気もするんです」

「怖い?」

「強く信じ過ぎると、それ以外が見えなくなる気がして……」

「視野を狭めたくないってことか」

「そうかもしれません。……結局、臆病なんです。見えても見えなくても踏み出すのは怖いです」

 

 

 ……分かる気がした。

 

 

 

 言葉は、返さなかった。







 ─ End ─


 

 武器選びは、思っていたより奥が深い。


 それは単純な性能の話ではない。

扱いやすさ、重さ、見た目、そして“使ってみたい”という感覚。


 中央の武器屋で、フェイはひとつの武器に心を惹かれる。

  

  

※次回は、『ザエッダの弓手 14:似合わない武器』の予定です。

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