響光のカデンツァ
ドラムセットの影で、赤紙燃がスティックを指先でくるくると回していた。
「緊張してるのか?」
雷の声に、燃は肩をすくめて笑う。
「まさか。ドラムってのはさ、心臓と一緒だ。止まったら終わり」
登夢は苦笑した。
「……さすが部長。軽音の鼓動は完璧だ」
「バカ言え。お前らがいなきゃ、ただの心拍不整だ」
シャケはケーブルを束ね、ミキサーに接続する。
「録音チェック、OK。……ライト、準備入るぞ!」
合図とともに、谷神冬華と静耶がリモートパネルを操作。
天井のライトが順に目を覚まし、柔らかな白光がステージを包む。
“光の鍵盤”が、静かに浮かび上がった。
真理が一歩、ステージに踏み出す。
足元に並ぶ光は、まるでピアノの鍵盤のようだ。
「……ほんとに、音が見えるみたい」
冬華がそっと答える。
「雷くんの設計と、草薙さんの職人さんたちの技術の合作だよ」
律臣がピアノに手を置き、軽く和音を鳴らす。
光は音に合わせて色を変え、右手の高音で白、左手の低音で青に。
真理の声帯と完全に同期している。
雷はノートPCを見つめ、説明した。
「これで、彼女は光で音階を感じられる」
真理は深く息を吸い、マイクを見つめる。
「……こわい。でも、もう逃げたくない」
燃が笑った。
「大丈夫。オレらがリズム、作ってやるから」
ドラムのカウントが刻まれ、翔太のベースが走り出す。
律臣の鍵盤が光を反応させ、ステージは息を吹き返した。
レコーディング本番イントロが流れる。
真理の声が空気を震わせ、光が共鳴するように揺れる。
歌うたびに鍵盤の光が波打ち、音と光がひとつになって彼女の世界を包み込む。
「聴こえる……“みんな”が聴こえる……!」
涙をこぼしながらも、真理は歌い切った。
曲が終わると、スタジオに一瞬の静寂が訪れる。
沈黙を破ったのは、シャケの拍手だった。
「録音完了。最高の一発録りだ」
雷はそっとモニターを見つめる。
「……波形、完璧。ノイズゼロ。真理の声、戻ってきた」
スタジオの外、夕焼けが窓を染めていた。
真理は光のステージを見上げ、静かに言う。
「あの日、もう歌えないと思ってた。
でも、あの光が――みんなの音が――私を連れ戻してくれた」
登夢は微笑む。
「……光は、誰かの想いが反射してるだけ。
真理の声、俺たちの光になった。
それだけだ。」
背後で、燃がドラムスティックを軽く打ち鳴らす。
雷はイヤモニを外し、静耶と冬華が互いに顔を見合わせる。
風見鶏での打ち上げが、彼らを待っていた。




