076:特待生扱い
「……学部がどこでも良いのなら、国際日本学部はどうかしら?
神州丸と日本の間を取り持つ事を期待されている二人にはぴったりの学部だと思うけど?」
英子が気を利かせて、艦治とまなみの進学すべき学部を挙げる。
まなみはすぐに電脳ネットで国際日本学部の情報を確認し始める。
「どの学部であろうと入学手続きは問題ないと思います。
ただし、卒業となるとまた別の問題になりますので、それだけはご了承下さい」
博務が念の為説明した内容を聞き、艦治はもちろんだと頷いた。
「建前としては、井尻さんと加見里さんには受験勉強の時間を探索活動に充てて頂く為の処置として、上へ話を通します。
形式上、理事長もしくは学長との面接が必要になるかと思われますが、恐らく問題はないかと。私も立ち会わせて頂きます」
「内閣官房からも文科相官房へ働き掛けますので、ご安心下さい」
雅絵も面接に立ち会うつもりのようだ。
自分達の都合に日本政府を巻き込む形となってしまう事を、艦治は申し訳なく感じているが、司(まなみ)は一向に気にしていない。
「成績が分かるものを用意した方が良いですよね?」
「それも形式上必要になると思われますが……」
博務が英子に視線を送る。
「井尻君は問題ないと思います。そもそも内部進学を希望すれば通るレベルですし、よりレベルの高い大学への推薦でも取れるでしょう。
加見里さんについては把握しておりませんので私からは何とも」
「後ほど本人から提出するよう伝えておきます」
司がそう言った事で、神州丸とまなみとの親密な関係である事を確信し、博務と雅絵はまなみの重要度を艦治相当へと引き上げる。
「高校を卒業されているのであれば、恐らく問題ないと思われます。
あ、もちろん特待生扱いですので、学費は政府が負担致します」
「いや、さすがにそれは……」
艦治が恐縮するが、博務が問題ないと主張する。
「井尻さんも加見里さんも、<珠聯璧合>に所属される探索者ですから、お二人が日本国へもたらされる国益に比べると、大学の学費など微々たる費用です」
<珠聯璧合>と聞いて雅絵が目を見開くが、空気を読んで口には出さなかった。
「えっと……、その他にご要望はございませんか?」
「いえ、今のところ特に困った事はないですが……、あっ」
艦治が言い淀んだので、まなみが電脳通話で問い掛ける。
≪どうしたの?≫
≪いや、もし父さんと母さんが治奈の事で僕を頼ってくれて、治奈を蘇生させるとなったら、色々と手続きが必要になると思うんだ。
その時、この二人とのツテがあれば助かるかなと思って≫
「何なりと仰って下さい」
≪なるほど、じゃあそれは私から伝えるね≫
司が雅絵に向き直り、少し声のトーンを落として伝える。
「実は、艦治君は今後日本政府を頼らざるを得ない状況になる可能性がある事案を抱えています。
その時、お二人を頼れるならば心強いのですが」
「お任せ下さい」
「文科省の管轄であれば、お力添え致しましょう」
即座に頷いた雅絵と、やや慎重な姿勢を見せた博務。
艦治は博務の方が信頼出来るだろうと判断した。
「内閣官房として出来る事は全て致します。しかしそれだけでは全てにおいてご満足頂けるかどうか、正直少し不安があります。
そこで、もしよろしければ天辺商事グループの買取店と専属契約をして頂けませんでしょうか?
おはようからその次の日のおはようまで全てのお世話をさせて頂きます」
「いえ、すでに神総研と専属契約を交わしましたので」
雅絵はずっと機会を窺っていた実家の売り込みをするが、艦治に一蹴されてしまう。
「神総研よりも高値で買い取りさせて頂けると思いますが……」
「いえ、両親が勤めているので専属を変えるつもりはありません」
なおも食い下がるが、艦治の反応を見て無理だと判断し、雅絵は諦める事とした。
「そうですか、失礼致しました。
それでは連絡先の交換を……」
「天辺さんの連絡先は僕だけがお伺いします」
司が雅絵にストップを掛けた。
連絡先の交換を済ませた後、雅絵と博務が急いで職場へ戻る必要があると、帰り支度を始めた。
見送りは不要という事で、艦治と司と英子は校長室で二人を見送った。
「……で、式部君の中身はまなみちゃんなのね?」
「あ、はい」
英子はまなみが遠隔操作スキルという未発見のスキルを所持していると思っているので、すぐにその正体に気付いた。
話がややこしくなる可能性があった為、今まで黙っていたのだ。
「はぁ……。何にしても神州丸が二人にかなりの期待を寄せているのは間違いないって事ね。井尻君が支援妖精を二体連れてるのもそうか。まぁあの二人は式部君の支援妖精だと思ってただろうけど。
そう言えば、井尻君が単独でドラゴンを倒したっていう噂は本当なの?」
「はい、本当です。多分そのせいでさっきのお二人が来られたんだと思います」
「さっきの二人だけで済めば良いけどね」
英子の予言めいた発言を受けて、司の目が吊り上がる。
「……そう言えば、さっき天辺さんと連絡先の交換をしていたど、まなみちゃんの連絡先を教えた訳じゃないのよね?」
「はい、ちゃんと式部司としての連絡先を教えましたよ」
「そんな事も出来るのね……」
通常、電脳OSに紐付けされる連絡先は一つのみで、携帯電話の番号のように複数持ったり、変えたりという事は出来ない。
「式部司はまなみが遠隔操作しなくても自律して動くヒューマノイドですから」
「要は外交大使のナギさんを遠隔操作してるイメージって事ね。
それだけ二人が神州丸から期待されているという事なのかしら」
ガチャ……
ちょうどそんなタイミングで、校長室の扉が開き、恐る恐るといった様子で校長が顔を出した。
「えっーと、先ほどのお二人がお帰りの際に職員室へ寄られて、井尻君と式部君にくれぐれも失礼のないようにと仰っていた、のですが……」
だらだらと冷や汗を搔きながらこちらの機嫌を窺っている初老の男性というのは、とても気持ちが悪いものだなぁと思う艦治であった。




