058:専属契約
前回のあらすじ
艦治がロン毛男と金髪ギャルへのお仕置きを指示しました。
あれ? 説明一行で終わった。
艦治がナギへ、ロン毛男こと飛馬と金髪ギャルこと詩歌の処遇についてナギへ指示を出している間、まなみも真美も穂波も、じっと艦治の事を見つめていた。
「おっと、酸素供給再開して。追体験も開始して」
「了解致しました」
ふぅ、と小さく息を吐いた艦治を、まなみが後ろからそっと抱き締める。
≪支援妖精はかんちの部下、いや家族みたいなもんだもんね。分かるよ。大切な存在をむやみやたらに傷付けられたら、誰だって怒るよ。私だって同じ気持ちだもん≫
「……まなみ、ありがとう。
でも正直、自分のやってる事が正しいのかどうか分からないんだよね」
支援妖精に危害を加えられたからと言って、艦治が追及したり罰したりする権利がある訳ではない。
艦治が指示したのはあくまで私刑にあたり、日本においては犯罪行為だ。
「あらぁ? ここは日本じゃなく神州丸よぉ?
艦長である艦治君が法律であると言っても過言ではないわぁ」
「…………気に病む必要は、ない」
真美も穂波も、艦治を咎めるつもりはないようだ。
「ありがとうございます」
「さぁて、三日間って事は日曜日の夕方って事になるのかしらぁ?
今はここにいても仕方がないから、戦利品の清算に行きましょうかぁ」
「えっと、せっかく病院に来たんですし、スキルのインストールして行きませんか?」
艦治はまなみと穂波と真美のスキルをインストールする事を提案するが、真美は首を横へ振った。
「そんなのいつでも出来るものぉ。それこそ日曜日に来た時でも良いわぁ。
それより、このまま帰ったら後味悪いでしょう? 買取店で戦利品を換金して、今日の稼ぎを確認しましょう」
≪さんせー! 初任給でお義父さんとお義母さんにお土産買って帰ってあげれば良いじゃん!!≫
通常、探索者達はダンジョンから帰還した後、スキルショップへスキルガチャをしに行ったり、貯まった探索ポイントを使い装備屋で装備を見直したりする。
その後、ロープウェイを使って港へと戻り、戦利品を買取店で現金に換えるのだ。
「初任給ってのはちょっと違う気がするけど……。
それに時間も結構遅いしね」
すでに時刻は六時半を回っている。そろそろ艦治の両親が帰宅する頃合いだ。
「ご両親にプレゼントするならもっとゆっくり時間を掛けて選ばないとねぇ」
真美がやんわりと否定した事で、今日は買取店で戦利品を換金するだけとなった。
四人は医療施設を出て、更衣室へと向かう。
「おい、<珠聯璧合>だぞ!」
「戻って来たか、どうなったんだろう……」
「娘ちゃんの顔が無表情に戻ってるから終わったんじゃない?」
「あれが優遇されてる新人って子? ふーん、可愛いじゃん」
「おい止めろ」
多少のいざこざはあったものの、四人は着替えを終えてロープウェイを使い、港側へと戻って来た。
入国管理局を出てすぐの通りに、探索者で賑わっている区画がある。
「こっち来てよぉー! 高く買い取るよぉー!」
「だんちょさん、こしつぅでマッサージするネ!」
「高いよ高いよーーー!」
「専属契約で買取金額二倍キャンペーン実施中でぇす!!」
「一点からでも買い取りしてますよ!!」
外国人の若い女性が際どい格好で呼び込みをしている店が目立つが、ほとんどの探索者は見向きもせずに手前の大型買取店へと入って行く。
「呼び込みしてない大きなお店が日本企業の買取店よ。どの店でも買取価格はそれほど変わらないけれど、その時々の欲しがってる物によって価格が変動するわぁ。
電脳ネットで詳しい買取情報が回っているから、気になるなら小まめにチェックするのをオススメするわぁ」
≪日本のお店ならどこでも良いよ。ってかここから向こうには絶対に行っちゃダメだからね!!≫
入国管理局から近い場所に日本企業の買取店が並んでおり、その向こうに外資系の店が並んでいる。
外資系の店は目立つように外壁がネオンで彩られており、それぞれの店の前では様々な人種の若い女性が妖艶な表情を浮かべて手招きしている。
そんな甘い誘惑に乗せられる事なく、艦治は一つの建物の前で立ち止まる。
「実はもう決めてるんだ、ここのお店に」
「へぇ、神州丸科学技術総合研究所ねぇ」
通称『神総研』と呼ばれる特定国立研究開発法人が運営している買取店だ。
「両親が勤めているので、ここにしようって決めてたんです」
≪研究者って聞いてたけど神総研だったの!? めっちゃすごいじゃん!! 世界最高峰の研究機関でしょ!?≫
神総研は神州丸からもたらされた科学技術を研究する、日本一の頭脳集団だ。
国の機関であり、税金で運営されている研究機関であるが、他の企業の買取店と比べて買取金額が低いという事はない。
「あ、<珠聯璧合>が専属契約しているところがあったりしますか?」
特定の買取店と専属契約を結ぶ事で、買取金額が上乗せされたりその他優遇があったりする一方、他の買取店へ入るだけで契約違反と見なされる事もある。
「いいえ、特にないわぁ。今日から私達もこちらの専属契約しようかしらぁ?」
≪さんせー!≫
「…………問題ない」
四人が神総研の買取店へと入ると、入り口で待機していた執事風の白髪男性、村藤潤一がお辞儀をして出迎えた。
「ようこそお出で下さいました。珠聯璧合の皆様。私、村藤が担当させて頂きます」
「えぇ、よろしくお願いするわぁ」
名乗るまでもなく歓迎される四人。そのまま店内を案内される。
店とは名ばかりで、陳列されている商品はなく、仕切りで区切られた商談スペースが無数にあり、さらに奥に進むと個室の扉がずらっと並んでいる。
「こちらへお掛け下さい」
さらに一番奥、貴賓室と言っても差し支えない個室へと通される。ふかふかのソファーをすすめられ、飲み物を聞かれるが、真美があまり時間がない事を伝えて断った。
「それではさっそくですが、本日のご用件を賜ります」
潤一は立ったまま、少し腰を折って用件を確認する。
「私と夫と娘と娘婿、全員がこちらと専属契約を結びたいと思っているの」
「それはそれは……! 非常に光栄に存じます。
すぐにお手続きをさせて頂いても?」
「ええ、もちろんよぉ」
艦治の視界に買取専属契約書と書かれた書類が映し出された。細かい文字がびっしりと書き込まれており、複数枚に渡る内容となっている。
≪ナギ、問題なさそ?≫
≪はい、かなり探索者有利な契約内容となっております≫
≪三人にもそう伝えて≫
ナギに内容を確認させた後、艦治が契約内容を承諾した。
まなみ、穂波、真美もそれに続き、契約自体はあっという間に締結してしまった。
「皆様、誠にありがとうございます。今後とも、よろしくお願い致します」
「ええ、頼むわぁ。
それで、さっそくだけど買い取り査定をお願いしたいの」
「はっ、承ります。差し支えなければ、こちらのテーブルの上へと出して頂けますでしょうか?」
真美は艦治に視線を向け、微笑む。
「ふふっ、この上には載せ切れないと思うわぁ」




