251:まなみの誕生日会、午後の部
午後一時頃に、まなみの誕生日会午前の部が終了後、まなみは海中秘密基地に移動し、艦治を抱き締めながら昼寝を楽しんだ。
なお、廻はこの場所の存在を聞かされていない。
まなみは艦治と二人だけの秘密の場所に、他者を招き入れるという発想がない。
「どこ行ってたんだ、電脳通話も繋がらないし」
「んー、秘密」
廻の質問を適当に躱しながら、まなみは温水プール内をゆっくりと歩く。
日々武術の訓練で身体を動かしていたまなみだが、妊娠してからまともに身体を動かしていない。
身体に負担が少なく、怪我の可能性が低い運動として、プールウォーキングを選んだ。多少なら泳いでも問題はない。
念の為、ナミ型ヒューマノイドが付き添っている。
まなみがプールにいる間に、艦治は公務の中でも人と会わず、かつ重要度の高いものを中心に処理を進めた。
そして午後五時から、家族を中心としたまなみの誕生日会、午後の部が開催される。
場所は鳳翔の中に本物そっくりに建設された井尻家のリビング。
まなみと艦治と廻、治樹と治佳、穂波と真美、治奈と奈都姫が集まっている。
「……まなみ、おめでとう。乾杯」
「「「「「乾杯!!」」」」」
穂波の乾杯の音頭で誕生日会が始まった。
皆が用意された席へ座り、夕食を楽しむ。
治奈と奈都姫はそれぞれの家事ヒューマノイドに世話をされて、ご機嫌な様子だ。
「あれが誕生日プレゼント、ねぇ」
「我が息子ながら、何ともまぁ」
真美と治佳は、まなみの後方に展示されている五千カラットのダイヤモンド塊から目が離せない。
「穂波ちゃん、明日採りに行くわよぉ」
「あ、お父さん! うちも!!」
穂波は無言で頷き、治樹は苦笑いで答えた。
≪あれ以上の大きさはそうそうないと思うけど、頼むよ≫
≪了解致しました≫
艦治はナギに、五千カラット以上のダイヤモンドを採掘されないよう指示を出した。
まなみへ送ったプレゼントが、世界で一番であり続けるように。
ある程度食事が進んだ頃、治奈が無邪気な声を上げる。
「ねぇねぇお姉ちゃん、赤ちゃんが男の子か女の子か分かった?」
両家両親は一斉に、艦治とまなみの方へ視線を向ける。聞きたいけど聞けない、そんな微妙な時期なのだ。
一般的な腹部エコー検査ならばまだ確定させるには早い時期だが、ナミの検診を毎日受けているまなみは、すでに子供の性別を把握している。
「治奈ちゃん、ちょうど今日みんなに話そうと思ってたんだ」
まなみの言葉を受けて、皆が箸やナイフやフォークやグラスを置き、両手を膝に置いて耳を傾ける。
まなみが艦治へ視線を送ると、艦治が立ち上がった。
「お腹の子の性別は、
男の子です!!」
「真!」
「愛治!」
「治人!」
「美治!」
「世統!」
「樹!」
「まもる! まもちゃんが良いと思う!!」
「……治一郎」
艦治の発表と共に、ジジババ達が以前から用意していた名前を叫び出す。
つられて叫んだ治奈は、右手を挙げてその場でぴょんぴょんと跳ねている。
「お腹の子供がビックリするので落ち着いて下さい」
艦治の言葉を受けて、ようやく皆が口を閉じた。
耳と目を塞いで怯えていた奈都姫が、ふぅと息を吐いてジュースを飲んだ。
「名前を発表します!」
まなみが笑顔で宣言し、ジジババ達がまた叫びそうになったが、奈都姫がまた泣きそうな表情になっているのに気付き、心を落ち着かせるべく深呼吸した。
「かんちの艦、伊之介さんの伊、真智ちゃんの智、新郎の郎で、艦伊智郎です!!」
まなみの得意気な表情を眺めた後、ジジババ達の本気なんか? それとも冗談なんか? と窺う視線が艦治へと集中する。
そんな視線に晒されている艦治は、苦笑しながら口を開いた。
「えっと、あくまで候補の一つだから。
ほら、実際に顔を見てからじゃないと名前は決められないって人もいるし、生まれるまでにまた新しい名前を思い付くかも知れないし」
「えー!? 絶対に艦伊智郎が良いもん!! 他には考えられないもん!!」
「どうどうどう」
二人のやり取りを見て、ジジババ達はまなみがマタニティハイの状態になっているのか、それとも本気でその名前が良いと思っているのか、判断に迷っている。
「まなみ、郎って言葉の意味をしっかりと調べたかしらぁ?」
真美が母親として、まなみに問い掛ける。
日本では尊敬すべき男性や、成人した立派な男子を指す言葉として主に使われるが、中国大陸において秦・漢の時代に、宮中の廊下に控えている役人を『郎』と呼び、転じて『郎』は役人を指す言葉となった。
「大日本皇国皇王皇后両陛下の長男が、役人を指す人名を持っているのって、ちょっとどうなのかしらぁ?」
「じゃあ澄んだ明るい月を意味する『朗』にする! 艦伊智朗にする!!」
「その艦伊智朗にお友達が出来た時、何て呼ばれるかしらぁ?」
「呼ばれる? ニックネームって事?
えーっと、かんいちろうだから、……かんち!?
ダメダメダメ! かんちと被っちゃう!! あぁどうしよう!!」
「どうどうどうどう」
艦治はまなみの背中を撫でながら、別に『かんちゃん』でも『いっくん』でも良いのでは? と考えていた。
まなみが落ち着き、名前は改めてもう一度ゆっくりと考える事となった。
「ハッピーバースデー♪」
バースデーケーキに差された十と九の漢数字の形のろうそくをまなみが吹き消し、皆が拍手をした。
切り分けられたケーキを食べながら、まなみが艦治へ話し掛ける。
「私、かんちに誕生日プレゼントに欲しいものをおねだりしようと思ってたんだ。
あんなに素敵なプレゼントを用意してくれてるって思ってなかったけど、どうしても欲しいものがあるんだよね。
聞いてくれる?」
「もちろん」
艦治がフォークを置いて、まなみに向き直る。
まなみがお腹に両手を置いて、真剣な表情で切り出した。
「実は、タイムリープシステムが欲しいの」




