250:まなみの誕生日会、午前の部
三月三十一日 火曜日
今日はまなみの十九歳の誕生日だ。
大日本皇国の公式行事としてお祝いをする、という案もあったのだが、お披露目する国民がいない事と、外部に対して気を遣うイベントをわざわざやりたくないという事で、採用されなかった。
また、この機会に妊娠を公表したいとまなみは希望したが、いわゆる安定期にはまだ早いという理由で、艦治が賛成しなかった。
鳳翔、皇宮内パーティールームにて。
午前十時半から、友達だけを集めてブッフェ形式の誕生パーティーが開かれた。
まなみと艦治に加えて廻、良光と望海、亘と恵美、輝と彩が参加している。
「誕生日おめでとう! 乾杯!!」
「ありがとう」
艦治の音頭に合わせて皆がソファーに座っているまなみに向けて乾杯をした。
そして、それぞれ用意されている料理を取りに向かう。
そんな中、彩がまなみへと近付いて来た。
「触っても大丈夫です?」
「彩、ちょっとは遠慮しろ」
まなみのお腹を触っても良いか尋ねた彩だが、彩の不審な動きに注意していた良光が止めた。
「大丈夫だよ。
でも、優しく触ってね」
許可を得た彩が、恐る恐るといった様子でまなみのお腹を、服の上からゆっくりと撫でる。
「うーん、動かないですね」
「そりゃそうだろ」
まだ妊娠十五週目前後であり、胎動が分かる時期になっていない。
「まなちゃん、めぐちゃんは良いんです?」
彩が可能な限り小さな声でまなみへ問い掛ける。
お腹を撫でる事はただの口実で、彩は自分を気遣ってくれているのだとまなみは気付いた。
まなみが良光へ視線を送ると、小さく頷いて料理を取る為離れて行った。
「うん、この子が生まれるまではめぐに虫除けになってもらうんだ。
この子の次は、めぐの子になるかな」
「そうなんですね。
もしお二人とも同時に妊娠された時は、私に声を掛けてほしいです」
まなみが目を細めて見つめると、怖気付かずにじっと見つめ返す彩。
「私だって艦治さんの事、物心付く前から好きだったんです。
あの交通事故が起きてなかったら、今隣にいるのは私だったかもですよ?」
彩が言う通り、もしも交通事故が起きていなかったら。
彩は治奈と、そして艦治と良光と一緒に遊んでいただろう。
少し年の差がある気はするが、なくはない可能性の未来なのかも知れない。
「……そうだね、分かった。
でも、十八歳になってインプラントを入れてから、かんちに直接言ってくれるかな?
私としては、告白するのは許すよ」
「言質を取りましたよ!
あなたの弟か妹を楽しみにしてて下さいねぇ」
そう言って、彩はまたまなみのお腹を撫でる。
二人のやり取りを遠巻きに見ていた皆が、どう言って良いか分からないという表情を見せている。
彩以外の全員がインプラントを入れているので、内緒話でも聞こうと思えば聞けてしまう。
「そ、そうだ!
僕が用意したまなみへの誕生日プレゼントを披露して良いかな!?」
「お、それは楽しみだ!」
「何かなー気になるなー」
空気を変えるべく声を上げた艦治に、亘と恵美が続く。
「私達にはプレゼントは不要だって言ったくせに」
「だって、実際のところ何を用意したら良いか分からないでしょ?」
望海がまなみに文句を言うが、この世の全てを持っていると言って良い皇王皇后両陛下に対して、ただの大学生(入学前)が何を用意したら良いのか迷うだろう。
「来てくれただけで嬉しいから。
本心だって分かるでしょう?」
「まぁそうだけど……」
そう言って引き下がる望海の前で、輝が亜空間収納を開いて段ボールを取り出した。
「余計なお世話かも知れないけど、ストンポールのマスターに色々と作ってもらったんだ。
つわりはないって聞いたけど、妊娠中は味覚が変わるって聞くから、種類があったら選べるかなと思ったんだ。
今朝早くに作ってもらった出来立てなんだ」
輝は、弟である良光と妹である彩の時、母親がつわりで苦しんでいたのを覚えており、まなみに対して出来る事を考えた結果、大量の軽食を用意しようと思い立ったのだ。
「輝ちゃん、ありがとう!
すっごく嬉しいよ」
まなみが段ボールを開けて、中身を確認する。
中にはサンドウィッチ・ナポリタン・ハンバーグなどが、一口で食べやすいサイズに包まれている。
まなみは確認を終えて、出来立て熱々のまま保存する為に、亜空間収納に入れた。
「そういうプレゼントもありなんだ。
輝さん、御姉様と呼ばせて下さい!」
「お、ヨシも遂に結婚か!!」
「おい姉貴、今は艦治のプレゼントの時間だろうが。
横からみんなの注目をかっさらってんじゃねぇよ」
さきほどからずっと亜空間収納に手を突っ込んだままだった艦治が、苦笑いを浮かべながらまなみへのプレゼントを取り出す。
「「「「「うわぁ!?」」」」」
その両手には、岩ほどの煌めく塊が抱えられていた。
「何をプレゼントしたら良いか迷ったんだけど、欲しいものを言えばナギが用意してくれるような環境では、やっぱり自分で手に入れたものが良いかなと思ったんだ。
これは、新大陸に行って自分で採掘したダイヤモンド。五千カラットらしい。
これを砕いて加工して、二十歳の誕生日にはティアラ、その次はネックレス、さらにその次はブレスレット、イヤリングとかブローチとか、順番はリクエスト次第だけど、これを元に毎年アクセサリーを作ろうと思う。
これからの誕生日も、毎年お祝いさせてほしい。
十九歳のお誕生日、おめでとう!」
「うれしい……、ありがとう……」
想像もしていなかった誕生日プレゼントに、まなみが感極まって涙を零す。
今年の誕生日プレゼントだけではなく、来年以降のプレゼントも合わせて丸ごと贈られた形となる。
ちなみに、五千カラットのダイヤモンドから削り出されるティアラ用のダイヤモンドは、まなみの旧姓にちなんでカミリンⅠと名付けられる事となる。
「艦治、加見里さんの隣に立ってダイヤモンドを見せろ。
こっちから撮るぞ」
「これは歴史に残るねぇ」
「皇王家に代々受け継がれる国宝になるねー」
「ほらまなみちゃん、笑って笑って」
良光と亘、恵美と望海が電脳OS越しの写真撮影を始める。
「むぅ……、あれを越えるプレゼントが思い付かないですねぇ。
めぐちゃんは何を貰えばうれしいです?」
「そりゃあ……、まなと艦治殿と過ごす初めての夜、かなぁ」
「うわぁ」




