203:帰化申請
ルーエンスとマーリンは、下水道内でナギに救出された後、ワープゲート経由で第十三手術準備室のシャワールームへ放り込まれた。
艦治が面会するのはほぼ確定的だった為、医療用ヒューマノイドが問答無用で二人の衣類を脱がせて全身隈なく洗浄した。
そして用意された白いワイシャツと上下黒のスーツ、黒いネクタイを絞められて、今は応接室に移動している。
『あまり好きじゃないんだけどな、酸っぱくて』
ルーエンスは出されたレモネードにチビチビと口を付ける。
『何か意味があったりするんじゃない?』
マーリンは胸ポケットに刺されたサングラスをいじっている。
そんな二人の前に、ワープゲートをくぐって艦治とまなみが現れた。
「おぉ、最高秘密機関のエージェントみたいだね」
「何それ? 映画の話?」
軽い口調で話す二人に対し、立ち上がって頭を下げ、最敬礼で迎えるルーエンスとマーリン。
「両陛下、このたびは、とっても貴重なお時間をちゅだい致しまして……」
『あ、そういうのいらん。座れ座れ』
日本語が完璧な訳ではないルーエンスを英語で制し、艦治とまなみも向かいのソファーへと座る。
まなみは艦治の言葉を聞きながら、相変わらず英語だと偉そうな態度になるなぁと笑っている。
『二人は本国に家族は?』
『おりません。
いや、いない。二人共』
『じゃあ問題ないな。受け入れよう』
艦治があまりにもすんなり受け入れると判断したことから、ルーエンスとマーリンは目を見開いて驚いている。
『……良いのか?』
『構わん。
もし俺達を裏切ったら、赤い光を当てて記憶を消した上で本国に送り返す』
ルーエンスとマーリンは、艦治の言葉を聞き、抱き合って涙を流した。
「って事で、ナギ。帰化申請を進めてほしいんだけど」
日本国への帰化申請においては法務局での手続きが必要だが、大日本皇国においては全ての事が皇王である艦治の意向で決まる。
ワープゲートからナギが姿を現した。
「畏まりました」
ナギは艦治に頭を下げてから、英語でルーエンスとマーリンに問い掛ける。
『お二人は米国籍を放棄されるお覚悟はありますか?』
『覚悟ならありますが、難しいのでは?』
総理大臣であるナギに対しては敬語を使い続けるルーエンス。
大日本皇国において、日本国と同様に多重国籍を禁ずる。
しかし、米国籍保持者は基本的に、米国籍の放棄をするのは難しい。米国法上、国籍放棄をする際には米国法務官との面談が必要となるからだ。
新たな国籍を取得するだけでは米国籍を自動的に喪失する事がなく、米国の大使館または領事館に赴き、米国務官の前で国籍放棄の宣誓をしなければならない。
またそれだけでなく、国務省の許可も必要となるので、実質的に国籍放棄が難しく、日本国籍取得の場合は特例として放棄せずに受け入れる形となっている。
『それではこれらの書類をご確認の上、必要事項をご記入下さい』
米国籍を放棄する覚悟を表明した二人に対し、ナギが手続き上必要となる書類を渡した。
二人は目の前の書類が米国の正式な書類である事を確認し、用意されていたペンで記入していく。
身分証明書などは元から持っていた為、すぐに米国籍放棄に関する全ての必要書類が揃った。
『それではこちらに米国大統領を呼び出しますので、彼の前で国籍を放棄すると宣誓して下さい』
『はぁ……、はぁっ!?』
艦治とまなみは直前にナギから電脳通話越しに説明を受けていたので、苦笑を浮かべるに留まっている。
『緊急の用事とは何だね? 私もこう見えて忙しいのだが。
……これは一体どういう事だ!?』
護衛として屈強な黒人男性二人を連れてワープゲートをくぐった米国大統領が、ルーエンスとマーリンを目にして激怒する。
ルーエンスとマーリンは立ち上がり、大統領へ向けて軍式の敬礼をして迎えた。
『ルーエンス・フィッシュボーン及びマーリン・リベスコ両名の米国籍放棄の宣誓に立ち会って頂きます』
『何故私がそんな事をせねばならん!?』
『陛下の願いを断るおつもりですか?』
ナギの言葉に、ようやく室内に艦治とまなみがいる事に気付く大統領。
『これはこれは両陛下、失礼致しました。ご機嫌麗しゅう。
それで、ご説明願えますかな?』
『私の仲間が困った状況になっていると聞いたのでね、手を差し伸べたんだよ。
本国の役人から他国で不当に拘束されるなんて、誰を頼って良いか分からない状況だからねぇ』
ルーエンスとマーリンを本国へ送還するよう命令したのは大統領なので、艦治の言葉を聞いた大統領は苦虫を嚙み潰したかのような表情を浮かべる。
『ちょっとした手違いがあったようですね。一度持ち帰って、詳しく精査させましょう。
おい、帰るぞ!』
大統領が護衛に声を掛けるが、二人は微動だにせず反応すら見せない。
『どうしたんだ!?』
大統領が護衛の腕を引っ張る。
『『『あら? お知らせしませんでしたか? 大統領のお身体は大事ですので、護衛として大日本皇国から護衛用のヒューマノイドをお送りしたんですよ?』』』
ナギと護衛の男二人が同時に同じ内容の言葉を発したのを受けて、大統領が飛び上がった。
『しっかりと身元を確認させたはずなのに……!? わざわざ×××まで見たんだぞ!!』
護衛と思っていたヒューマノイドから離れ、壁を背にして室内を見回す大統領。
ここは大統領執務室ではなく、どこか知らない応接室。
自分に対して敬意を見せてはいるが、国籍を放棄したがっている自国民。
最近知己を得た、大日本皇国皇王と皇后だと名乗る若い男女。
そして、宇宙から飛来した地球外人工知能の親玉。
味方は一人もいない。
ようやく自分がすべき事を理解し、大統領はニコリと笑顔を作る。
『私がすべき事は何ですかな?』




