202:亡命希望者
九月十七日 火曜日
慌ただしく過ぎた三日間、さらにその後の必要な対応を終えた後、艦治とまなみは久しぶりに海中秘密基地を訪れていた。
昨日は祝日で高校は元々休み。今日は皇王皇后両陛下の受け入れ態勢が整っていないからという理由で、高校側から待ったが掛けられている。
「んふふっ、んふふふふふふっ」
まなみは海中の景色などには目もくれず、艦治の胸元に頭を預けながらずっと左手薬指を眺めている。
この二人の結婚指輪、さぞ高価なのだろうと思いがちだが、一般的な市場価格に照らし合わせるとさほどでもない。
「かんちの体内にあった、金。
んふふふふふふふふふふふっ」
「まるで魔女だね」
まなみの指輪は、艦治の体内に存在していた金から生成されたもの。
艦治の指輪は、まなみの体内に存在していた金から生成されたもの。
人間の体内にはごく微量ながら金が含まれており、そのほとんどが血中内に存在する。
その微量な金を、ある程度の日数を掛けて集めたのだ。
採取され不足してしまった金は成分輸血を行う事で補充し、そしてまた採取される。
ただし、輸血の提供元についての詮索はしないものとする。
一見シンプルに見える金色の指輪だが、よくよく観察すると細かな彫刻が施されており、内側には二人の誓いの言葉がそれぞれ日本語で精密に打刻されている。
純金であるが、特殊な加工がされているので傷付いたり変形したりする事はない。
「ねぇ、もう高校なんて行かなくて良くない? ずっと二人でこうして過ごそうよ」
「そういう訳にはいかない、訳でもないんだよねぇ」
艦治が通っている高校からは、すでに卒業を認められている。これからどんなに休もうが、定期試験を受けなかろうが、問題ないとの事だ。
艦治が元々成績の良い生徒である事と、身分が変わってしまった事が要因として挙げられる。
また、進学予定である付属大学についても、通わずとも必要最低限の出席と課題提出などで、学位を認めた上での卒業の道筋を提示している。
学位が認められない場合の卒業として、名誉卒業という道筋も合わせて用意している。
高校についても大学についても、在校中に艦治とまなみの身に何かあったら非常に困る事から、どのような受け入れ態勢を取れば良いのか模索を続けている。
「学校側は来られたら困るだろうし、僕らも別に絶対行かないとダメな状況でもないしねぇ」
「ね? そうでしょ? そうしよ? ね?」
「艦治様。まなみ様。少々お耳に入れたい事がございます」
悩む艦治とかどわかすまなみに対し、家事ヒューマノイド(ナギ)が声を掛けた。
「もうっ! もうちょっとで落ちそうだったのに」
「学校に行かないとしても、ずっとここで暮らすのは無理だよ。
で、何だった?」
ポコポコと胸元を叩いてみせるまなみの頭を撫でつつ、ナギに問い掛ける艦治。
「ルーエンス・フィッシュボーン及びマーリン・リベスコ両名が、大日本皇国への亡命を希望しております」
「あぁ、二人は日本に帰化したがってたね。一流探索者だから、日本国籍も取得可能だったはずだけど」
日本は本来、軍務経験のある外国人に対して、帰化資格を与えて来なかった。
しかし、神州丸の来訪と迷宮出現により探索者の有用性を鑑みて、ある一定基準以上の探索者においては、元軍人であっても帰化を可能としていた。
「迷宮での探索の在り方が変わった事から、日本国籍への帰化申請を行おうとしたようですが、受理されなかったそうです」
艦治が大日本皇国皇王として即位して以降、迷宮内の妨害生物出現設定はオフとなっている。
採掘現場に向かえばモンスターコアことエーテルコアが入手出来るので、わざわざ戦闘する必要がなく、非常に楽な仕事となってしまった。
「受理されなかった? 受け付けてもらえなかったって事?」
「仰る通りです。米国の圧力により、法務局が取り合わなかったそうです。
それどころか、待ち構えていた米国高官によって身柄を拘束され掛けたところを、何とか逃げ出したと」
外国人が日本に対して帰化申請を行う場合、まずは法務局へ相談しに行く日取りを電話で予約しなければならない。元の国籍によって手続きが異なり、かなり複雑な手順を踏む必要があるからだ。
その電話予約の際の情報を、米国筋にリークされたのだろう。
「いくらルーエンスが累計ポイントランキング一位だからって、身柄を拘束するほど重要人物かな?」
「我々が特定の場所にエーテルコアの採掘場所を用意出来ると伝えた事が、ルーエンスを本国へ呼び戻すきっかけになったのでしょう。
艦治様との仲を利用出来ると判断したのでは?」
各国要人との非公式会談の際、様々な情報を伝えている。これは将来的に、地球文明が大日本皇国に完全に依存し切らない為の布石である。
「なら拘束っていうのは悪手だったね。かんちが仲間を見捨てる訳ないもん」
艦治とまなみの中では、すでにルーエンスとマーリンは同盟を組んだ仲間であると認識されている。
「二人は今どこにいるの?」
「鳳翔にて待機させております」
法務局から逃げようとした二人だが、周辺は完全に包囲されており逃げ場がなかった。
地上がダメならばと、マンホールの蓋を開けて下水道に逃げ込んだところ、ナギがワープゲートを開いて救出した。
「よし、今から会おうか」




