7.「前哨戦」
山の麓に広がる荒野に展開するベネットバージェン王国軍一万は、ハイポーションを飲んだかはたまた最上級回復魔法で回復したのか分からないが、復帰した騎士団千人(馬まで再度用意されている)と、魔法師団千人、弓矢部隊千人、そして歩兵部隊七千人だ。
それに対して、数百メートル離れた、荒野の山側に陣取るこちらは、僕ら五人と、一万人のゴブリンたちだ。
「今まで弱くて倒しやすいとか、経験値稼ぎに丁度良いとか散々言われてきたゴブ!」
「自分たちも戦えるってところを、やれば出来るってところを見せたいリン!」
ということで、今回の抜擢となった。
「無論、妾の加護を与えてあるがのう」
ドラファが不敵に笑う。
「「カレレ!」」
「お父さん! お母さん!」
カレレの両親が、両腕を縛られた状態で、国王の傍に立ち尽くす。
「カレレよ。その指輪を五秒間押し続けて、ミチトを殺せ。そうすれば両親を解放してやる。ぐふふっ」
「!」
山の麓に広がる荒野に、一万の軍隊と共にやってきたジェラディド国王は、下卑た笑みを浮かべながら、相対するカレレにそう告げた。
「その指輪には、ミチトを殺す力があるのだ。早くしろ」
「で、でも……」
「両親を殺されたいのか?」
近衛兵二人が、カレレの両親の喉元に長剣を突き付ける。
「カレレ。押してくれ」
僕の言葉に、彼女が目を見開く。
「そ、そんなことしたら――!」
「大丈夫。〝そんなの〟で僕は死なない。それに、僕の家族も、誰一人傷付いたりしないから」
カレレは、僕の目をじっと見詰めると。
「分かった。信じる!」
覚悟を決めた。
「ぐふふっ。言っておくが、こちらにはその指輪の状態を測定する魔導具がある。押す〝振り〟をしても無駄だ。バレるからな」
カレレは、「じゃあ、押すよ!」と言って、指輪に触れた。
「おお、きちんと押しておるな。偉いぞ、カレレ。ぐふふっ」
国王が、カウントダウンを始める。
「5、4、3、2、1、ゼロ! ドカーン! バカめ! それは自爆装置だったのだ! しかも、その範囲は半径数十メートル! ミチトと共に死んでくれるとは、中々良い手駒だったぞ、お前は! ぐふふふふふ!」
勝ち誇る国王だったが。
「ぐふふ…………へ?」
全く爆発していないことに気付いて。
「な、何でだ!? ちゃんとこちらには、押した反応があるというのに! 故障か!? いや、しかし――」
「無駄なの! だって、カレレがしてる指輪は、彼女が寝ている間に、オガリィがすり替えておいた偽物なの!」
「………………は!?」
オガリィが薄い胸を張る。
「オガリィが持ってるこっちが本物なの!」
「に、偽物!? 全く同じものを作ったということか!? オーガごときが!? 有り得ん! それに、仮にもしそうだとしても、押した反応はあった! では、同じことではないか!」
オガリィは「全然違うの!」と、人差し指を振る。
「爆弾だって分かったから、直ぐに改造して、長押ししても爆発しないようにしたの! その上で、さっきは、カレレが押すのと同じタイミングでオガリィが五秒押したの!」
「なっ!?」
呆然とする国王は、「こうなったら!」と、近衛兵からスイッチらしきものを受け取る。
「こっちで操作して起爆してやる! ポチッとな。これで今度こそ終わりだ! ドカーン! ぐふふっ! ……って、何でまだ爆発しないんだ!?」
「さっきも言ったの! 改造したって! そっちでどれだけ操作したって、そんなの意味ないの!」
「ぐぬぬぬ!」
地団太を踏む国王に、オガリィは、「もう要らないから、本物はお返しするの!」と言うと、ダエフィに指輪を渡した。
「ふん!」
それをダエフィが軽く投げると、美しい放物線を描きながら、国王に向かって飛んでいく。
「こ、国王さま! 指輪が飛んで来ます!」
「狼狽えるな! あのオーガが言っていたであろう。もうあの指輪は爆発せん」
余裕綽々といった表情の国王に、オガリィが告げる。
「言い忘れていたけど、その指輪は、オガリィの改造によって、〝長押し〟しても爆発はしないけど、〝五回連続で押したら〟五秒後に爆発するように変えておいたの」
「………………」
一瞬の沈黙の後。
「「「「「うわあああああ!」」」」」
「「「「「逃げ――」」」」」
ドカーン
「ぶべっ!」
国王の頭上で指輪が爆発、国王は、周囲の近衛兵たちと共に、吹っ飛んだ。
「ぐっ! ば、バカめ! お前のせいで人質も一緒に吹っ飛んだぞ! ぐふふふふふ!」
鼻血を垂らしながら立ち上がり、下卑た笑みを浮かべる国王だったが。
「そんなことする訳ないだろうが」
「なっ!?」
爆発直前にカレレの両親を助け出して両脇に抱えた僕が、翼で上空に静止しながら、国王を見下ろす。
「ぐぬぬぬ!」
悔しがる国王を尻目に、僕が自軍陣地にスーッと戻り、鉤爪で縄を斬ると、「「カレレ!」」「お父さん! お母さん!」と、親子は涙の再会を果たした。
「調子に乗るなよ!」
怒りに震えていた国王だったが、ふと、口角を上げると。
「今まで数々の攻撃を躱してきたお前だが、〝それ〟はどうやって回避する?」
そう告げた。
刹那。
「「「「「うおおおおおおお!」」」」」
飛行機能のある魔導具でも装備しているのか、透明化していた百人の暗殺部隊が上空に姿を現し、僕らの頭上から一斉に襲い掛かった。
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