5.「最強騎士団千人vs最弱スライム千人(※全モンスター投入の全面戦争は第10話前後くらいにアップする予定です)」
事の発端は、オガリィが、飛行機能を有する小型の魔導具〝偵察くん〟によって王都を偵察したところ、千人規模の最強騎士団を編制していることに気付いたことだった。
「十中八九、ここに攻め込ませるためだよね」
「そうじゃな。モンスターたちに迎撃させるとするのじゃ。出来るだけ強いモンスターが良いじゃろうな」
そう言ってドラファが、モンスター全員に対して、脳内に語り掛けていると。
<ドラファ様、どうか、お願いしまスラ!>
<我々スライム軍団に任せて頂けなイム?>
スライムたちから懇願されたのだ。
<ふむ。どういうことか言うてみい>
<スラ!>
スライムのリーダーらしき二人の男女(男は皆語尾がスラで、女はイムらしい)は、語り始めた。
<我々スライムは、今まで散々最弱だのなんだの言われてきたスラ>
<でも、それはただの悪口じゃなくて、実際にそうだったから、何も言い返せなくて悔しかったイム>
<人間の子どもに悪ふざけで石ころを投げられて、その衝撃で死んだ仲間もいたスラ>
<登山に来ていた老人が気付かずに寝ていたスライムを踏んでしまって、絶命したこともあったイム>
<酔っ払った冒険者が立小便して、浴びせられたスライムが溶けて逝ってしまったことすらあったスラ>
<我ら、紛うことなき最弱イム>
<誰よりも自分たちが一番分かってるスラ>
<でも! いや、だからこそ!>
<今ここで、ドラファ様の! 魔王さまのお役に立ちたいスラ!>
<自分たちにも存在意義があるのだと、証明したイム!>
最後の方は、もう絶叫だった。
涙声による必死な訴えは、ドラファの心を動かした。
<良かろう。そこまで言うのなら、其方らに頼むのじゃ>
<スラ!?>
<イム!?>
<ほ、本当でスラ!? ありがとうございまスラ!>
<必ず御期待に応えてみせますイム!>
高揚感を露わにする彼らに、ドラファは、<一つだけ条件があるのじゃ>と付け加えた。
<妾の加護――つまり【レジェンドドラゴン加護】を、其方ら全員に与えるのじゃ。それが条件じゃ。どうじゃ、呑めるかのう?>
<勿論でスラ!>
<むしろありがたイム!>
<ありがとうございまスラ!>
※―※―※
数日後。
「スライムの誇りに掛けて、絶対に勝つスラ!」
「ドラファさまの、そして魔王さまの僕として、恥ずかしくない姿を! 勇姿をお見せするイム!」
「「「「「スラスラスラスラスラスラああああああ!」」」」」
「「「「「イムイムイムイムイムイムうううううう!」」」」」
僕たちがいる山の麓に広がる荒野にて展開するのは、スライム千人。
青や緑、はたまた赤など、様々な色でバスケットボールくらいの大きさ且つゼリー状の彼らは、ぷよんぷよんと飛び跳ねながら叫び、その覚悟を、決意を戦場に響かせる。
数百メートルの距離を空けて相対するは、槍を持ち腰には長剣を差しフルプレートアーマーを装備した王国の最強騎士団と評される千人の兵士たち。
実際、今まで何人ものモンスターたちが殺されており、隣国との小競り合いなどでも、無類の強さを誇っているらしい。
オガリィが〝偵察くん〟を敵軍の上空に飛ばしてくれており、向こうの兵士たちの声が山の上にいる自分たちにも聞こえてくる。
「スライムだぁ? 舐めてんのか俺たちを」
「良いじゃねぇか。サクッと倒して、帰って一杯やろうぜ」
完全に格下だと思われている。
まぁ、普通に考えたらそうだよね。
でも、今日の彼らは一味違うよ?
「突撃!」
「「「「「うおおおおおおお!」」」」」
騎士団が一斉に向かってくる。
馬も上等のものなのだろう、かなり速い。
その上、槍による練度の高い突きを、密集しながら同時に打ち込まれれば、かなりの威力になるだろう。
〝普通なら〟ね。
「だ、団長! スライムたちが――き、消えました!」
千人もいたスライムが、忽然と姿を消していた。
馬を止めて、呆然とする騎士たち。
「狼狽えるな! ……跳躍したとすれば……上か!?」
団長――と他の団員たちも、天を見上げるが、何も見えず。
「! 下――」
――だ、と団長が声を発した時には。
ドシュッドシュッドシュッドシュッドシュッ
「「「「「ヒヒ~ン!」」」」」
「「「「「うわああああああ!」」」」」
地下から、〝細長く、且つ硬く変化した〟スライムたちが一斉に飛び出して、全体の半分の馬を貫いて致命傷を負わせて、そのまま上空まで飛び上がっていた。
「な、何だこのスピードとパワーは!?」
「き、気を付けろ! 普通のスライムじゃねぇぞコイツら!」
浮足立つ団員たちを遠目に見ながら、僕の隣にいるドラファが目を細める。
「固有スキルではない、妾自身が直接掛けた【レジェンドドラゴン加護】じゃからのう。その効果も段違いじゃ」
馬をやられて地面に着地しながら、団長が声を張り上げる。
「狼狽えるな! 敵は上空に飛んだ! あとは落ちてくるだけだ! 迎え撃て!」
落下してくるスライムたちに向けて、団員たちが槍を構えるが。
「少し〝上げる〟とするかのう。【レジェンドドラゴン加護】〝五十パーセント〟」
ドラファの声に呼応して。
「なっ!?」
「消えた!?」
落下中のスライムたちの姿が〝消える〟。
「透明化の魔法だ! 気配を察知して迎撃を――」
「ぐぁっ!」
「がぁっ!」
「ぎゃあ!」
透明になったスライムたちが、上を見上げる団員たちの首の角度に合わせて〝斜め〟に〝加速〟しながら〝音速〟で落下、視界確保のために兜に細長く開いた穴の中へと勢い良く侵入、両目を貫いて視力を奪い、無力化する。
「っと! 危ねぇ!」
だが、流石は最強騎士団、透明化しているにも拘わらず、気配を察知することで回避した者もいたのだが。
「ぎゃあ!」
実は〝透明化しながら最初の位置に残っていた〟残り半分のスライムたちが、勢い良く跳躍、ある者は〝音速〟で目潰しを食らわせ、またある者は密かに足下まで近寄った後に、兜と胸当ての間から喉を突いて、呼吸困難に陥らせる。
「スライムたちがまた地中に潜った! 第二弾が来るぞ! まだ馬が生きている者は、動き回れ!」
的確な指示ではあるが。
ドシュッドシュッドシュッドシュッドシュッ
「「「「「ヒヒ~ン!」」」」」
「「「「「うわああああああ!」」」」」
ドラファの加護により、感知能力が大幅に上がっているスライムたちは、相手が動き回ろうが何だろうが、追尾して、真下から正確に刺す。
全ての馬が絶命、機動力を失った騎士たちは。
「くそっ! 舐めるな! ぶっ殺してやる!」
槍では間に合わないと判断して、腰の長剣を抜いて、〝気配を感じ取る〟ことで、迎撃しようとするが。
「そろそろかのう。【レジェンドドラゴン加護】〝百パーセント〟」
ドラファの声と共に、スライムたちのスピードが変化。
「はやっ!? ぎゃあ!」
「速過――ぐぁっ!」
音速の三倍――つまりマッハ3のスピードまで一気に加速したスライムたちに、騎士たちはついていけない。
「俺の鎧は、目潰しなんか出来ないだろうが!」
視界用の分かりやすい穴が見当たらないタイプの鎧であっても。
「ごぼっ!? 息が出来なごばぼっ!?」
〝呼吸用〟の隙間は必ずあるので、〝半液体〟の状態で兜内に侵入、鼻と口を塞いで、呼吸困難に陥らせて、気絶させる。
あっと言う間に、騎士団のほぼ全員が無力化された。
唯一無傷の団長は。
「やってくれたな……だが、俺は倒れんぞ! 俺には固有スキル〝看破〟があるため、透明化していようと関係無いからな! 俺一人で、貴様たち全員を倒してやる!」
そう豪語すると。
「はああああああああッ!」
全身に光を纏った。
「あれは、闘気!」
「流石は最強騎士団トップ、と言ったところじゃのう」
聞いたことがある。
戦士や武闘家などが、何年も修行した後に、ほんの一握りの者だけが得られると言われるものだ。
闘気に包まれた者は、その身体能力が格段に上がるらしい。
「どうした、そんなものか!?」
団長は、フルプレートアーマーを装着しているにも拘わらず、恐ろしいスピードで戦場を駆け回り、スライムたちの動きも見切っており、全て回避して、当たらない。
更に。
「はああああああああッ!」
「スラッ!? 危なかったスラ!」
斬撃を飛ばせるらしく、地面を抉りながら猛スピードで迫るそれを、スライムたちが慌てて避ける。
「これでどうイム!」
「効かんな」
「!」
前からだと見切られるからと、背中から攻撃をしても、オリハルコン製の鎧で弾かれる。
打つ手なしかと思われたが。
「こうなったら……」
「合体変化するイム!」
スライムたちは、合体して、巨大な槍の形に変形。
「面白い! 受けて立とう!」
団長が、「はああああああああッ!」と、更に闘気を膨れ上がらせる。
「行くスラ!」
「行くイム!」
「来い!」
巨大槍となったスライムたちが、マッハ3のスピードで迫るが。
「甘い!」
団長の剣技は更に速く。
「貰った!」
スライムたちの巨大槍が、真っ二つにされた。
「なっ!?」
――かに見えたが。
「出血大サービスじゃ。【レジェンドドラゴン加護】〝二百パーセント〟」
実はその寸前に、ドラファが加護を追加発動しており、スライムたちは〝分裂〟して二倍に増えていた。
「槍が、二つに増えただと!?」
左右に分裂して、団長の斬撃を回避した二本の巨大槍は。
「両方とも迎撃すれば良いだけだ! はああああああああッ!」
急加速。
「!? はや――ぎゃあああああ!」
〝マッハ10〟のスピードで、団長の両腕を斬り飛ばした。
団長が倒れて。
「や……やったスラ!」
「勝った……! 勝ったイム!」
「「「「「スラスラスラスラスラスラああああああ!」」」」」
「「「「「イムイムイムイムイムイムうううううう!」」」」」
変化を解き、雄叫びを上げて跳躍するスライムたち。
「すごい!」
「うむ、よくやったのじゃ!」
こうして、スライム軍団は、最強騎士団に勝利した。
※―※―※
数日後。
「私は、スパ――ではなく、普通の女の子です」
僕たちの家に、ピンク髪ツーサイドアップの、ちょっぴり怪しげ且つ無表情な美幼女がやってきた。
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