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2.「新しい家族」

「だ、誰ですか!?」


 いきなり現れた美女に抱き締められ、豊満な胸の中に顔が埋まってしまった僕は、ジタバタ藻掻くも、恐ろしい力で押さえ込まれて、逃げ出すことが出来ない。


「妾じゃ。レジェンドドラゴンじゃ」

「え!? でも、その姿は――」

「この方がやりやすいからのう。こうやって女の胸に顔を埋めるのが人間の男は好きなのじゃろう?」

「そ、そんなことは……」

「否定しきれんようじゃの。ほれっ」

「わぷっ! や、やめて下さい!」


 柔らかくて甘い香りのする拷問から、僕は必死に逃れようとするが、流石はレジェンドドラゴン、ビクともしない。


「そ、そうだ! 『もし僕が勝ったら、一つだけ何でも言うことを聞くこと』って言いましたよね? じゃあ、僕を解放してください!」

「嫌じゃ」

「えええ!?」

「妾はもう決めたのじゃ。其方のものになってやると。良いではないか。何だかんだ言いながら、この状況は、決して嫌ではないのじゃろう?」

「ううっ」


 滅茶苦茶だ。

 結局レジェンドドラゴンがしたいようにしてるだけじゃないか!


 まぁ、もう攻撃してこないみたいだし、それは本当に良かったんだけど。


「それと、先程のようにタメ口で良いぞ」

「え、でも、あれは勝負のために、煽るためにやっただけで――」

「タメ口にしたら、手を離してやるのじゃ」

「……分かった」


 渋々従うと、やっと彼女は僕を解放してくれた。


「では、名前を決めるのじゃ」

「え? 誰の?」

「無論、妾のじゃ」

「でも、超古代炎竜――スーパーエイシェントファイアードラゴンっていう名前があるよね?」

「それはそれ。新たに其方が名付けるのが大事なのじゃ」


 うーん、そう言われてもな……

 名前って大事だよね?


「うーん、うーん……」


 頑張ってうんうん唸って、思い付いたのは。


「ドラファ、っていうのはどうかな?」


 ドキドキしながら、反応を待つと。


「良いではないか! 今この瞬間より、妾はドラファじゃ!」

「むぎゅっ! だから一々抱き締めないでよ!」


 喜んでくれたのは嬉しいけどさ。


「では、早速〝知らせる〟のじゃ」

「え?」


 ドラファは、大仰に両手を広げると、天を仰いだ。


<皆の者。妾じゃ。超古代炎竜――スーパーエイシェントファイアードラゴンじゃ。今この刻より、妾は、ミチトという人間の少年のものとなった。四十六億年で初めて妾を負かした男じゃ。しかも、妾を復活させたのもミチトじゃからのう。決して失礼のないように、妾に対する以上に丁重に接することじゃ。これから妾はミチトと一緒に暮らすからのう。また、妾はドラファという名をミチトからもらった。今後は、妾のことはドラファと呼ぶように>


 すぐそこでドラファが喋ってるのに、その声が、脳内に響く!


「すごいね、それ! 頭の中に直接声が響くよ! ……って、あれ? 今、一緒に暮らすって言わなかった?」

「言ったのじゃ」

「えええ!? そうなの!?」

「先程の抱擁を毎日してやるのじゃ。どうじゃ? 嫌なのかのう?」

「ううっ……嫌じゃない……けど……」

「なら決まりじゃ」


 勝ち誇るドラファ。

 否定出来なくて、なんか悔しい……


 ……男は単純だなんて言われるけど、本当にそうだと、つくづく実感してしまう……


「そう言えば、さっきのって、もしかしてモンスターたちに語り掛けていたの?」

「そうじゃ」

「やっぱり、ドラファは最強だから、モンスターたちが部下ってこと?」

「その通りじゃ。正確には、魔王とモンスター、全てじゃな」

「すごい!」

「それ程でもあるのじゃ」


 ドラファが、豊かな胸を張り得意顔をする。


「あ」


 何かを思い出したように、ドラファが言った。


「勢い余って、人類全てに対しても、語り掛けてしまったのじゃ」

「…………」


 一瞬の沈黙の後。


「ええええええええ!? マズいって! 王様たちが来ちゃうよ! 伝説のドラゴンが僕のものになったとか自分で言ってるのを聞いたら!」

「何か問題でもあるのかのう?」

「あるよ! 大ありだよ!」


 ピンと来ていない様子のドラファに、僕は頭を抱える。


 そうだった。

 彼女は、世界最強なんだった。


 誰が攻めて来ようが、どうって事無いんだな……


「でも、僕はただの人間なんですけどおおおおおお!?」


 巨大な山の頂上に、僕の悲痛な声が響いた。


※―※―※


「では、家づくりじゃ。ほれ」


 ドラファが手を翳すと。


「わぁ~! すごい!」


 一瞬で大きくて立派な石造りの家が出来てしまった。

 

 更に。


「え!? 鶏!? 豚!?」


 近くに、小屋が出来て、鶏と豚が中に入っている。


「牛!?」


 牧場が出来て。


「森!?」

 

 森が出来て、兎や猪が顔を出す。


「ついさっきまで、活火山だったのに……」


 生活のための全てが、次々と形作られていった。


<ん? 何じゃ? 妾達と暮らしたい?>


 ドラファが誰かと喋ってる。


「モンスターの人たち?」

「ああ、そうじゃ。妾と暮らしたいそうじゃ。それはもう大勢の者たちが」

「さすがドラファ、人気あるんだね!」

「当然じゃ。じゃが、妾と暮らしたいという者たちは却下じゃ。多過ぎて収拾がつかんからのう」

「それはそうかも」


 「じゃが」と、彼女は言葉を継ぐ。


「ミチト。其方と暮らしたい、という者たちがおるのじゃ」

「え!? 僕と!? 何で!?」

「……どうやら、その殆どは其方を〝食べたい〟らしいのう」

「ヒィッ!」

「安心するのじゃ。もしそのようなことをする輩がいたら、妾が先に殺して食ってやるのじゃ」

「……ありがとう」


 うん、食べられなくて良かった……


「じゃが、ほんのわずかじゃが、ちゃんとした理由で其方と暮らしたい者たちもおるようじゃ。会ってみるかのう?」

「え? うん、良いよ」

「じゃが、心配じゃのう……」

「何が?」

「其方、浮気する気じゃないじゃろうな?」

「しないよ! っていうか、まだ付き合ってないから!」


 「照れた顔もまた可愛いのう」と言いながら、ドラファが手を翳すと、地面に魔法陣が出現、女性モンスター三人が現れた。


 三人は、ドラファに対して御辞儀をして、礼を言うと、僕に対して自己紹介してくれた。


「わ、我は、マオミィ。ま、魔王だ」


 え、この人が魔王!?

 全然魔王っぽくないんだけど……


 綺麗な人なんだけど、ウェーブの掛かった黒いロングヘアの彼女は、猫背で、病的な程に白い肌に、酷い隈があり、漆黒のマントを羽織っており、もしマントが白衣だったら、研究者にしか見えない容姿だ。


 でも、耳が尖っていて、角と牙もあって、魔王なんだなって思う。


 そう言えば、ドラファも、同じく尖った耳と角と牙がある。逆セクハラされて、それどころじゃなかったから、あんまり意識していなかったけど。


「あたいはダエフィだよ、宜しく。見ての通り、ダークエルフさ」


 手を差し出されたので、僕は彼女と握手した。


 ダークエルフもエルフだから、どっちかって言うと、細身のイメージはあったけど……

 細すぎない!?


 黒い服を着て銀髪セミロングヘアの長身美少女ダークエルフのダエフィは、ガリガリで、ちょっと心配になるくらいだ。


 金髪ツインテールの彼女には小さくて可愛らしい角があって、耳も尖ってるけど、そんなに長くない。


「オガリィは、オーガなの! 十五歳なの!」


 え!? 十五歳!?

 僕も人のことは言えないけど、八歳くらいにしか見えない……


 オーガは、身体が大きくて筋骨隆々っていうイメージだったけど、滅茶苦茶小柄で、オガリィは美少女というよりも、美幼女という感じだ。小さくて可愛らしい角があって、耳も尖ってるけど、そんなに長くない。


「よく来たな、其方ら。何か悩みがあるのじゃろう? 申してみい」

「「「は、はい!」」」


 ドラファに促されて、三人は改めて僕を真っ直ぐに見た。


 「人間だったら、モンスターは持っていないような情報や、知恵があるかもしれないと思って」と言う前置きで、彼女らは、話し始めた。


「わ、我は、腐っても魔王だ。ま、魔力だけは膨大にあり、その威力も凄まじい。だ、だが、唱えた魔法が実際に発動するまでに、三日掛かってしまい、致命的なのだ。そ、それを何とかしたい」


 えー。


「実はあたいは、モンスターの中で一番魔法が得意と言われるダークエルフ族の中で、唯一魔法が使えないんだ。それどころか、魔力すら無い。どうにか魔法を使えるようになりたいのさ! ミチト、頼む! あたいを助けてくれ!」


 えー。


「オガリィは、オーガだから、もっと背を伸ばして、身体も大きくしたいの! だって、パワーで勝負する種族のモンスターだから! お願い、オガリィをムキムキにして欲しいの!」


 えー。


「ミチトよ、妾と彼女らが、其方の新しい家族じゃ。宜しくなのじゃ」

「よ、宜しく」

「ハッ! 宜しく!」

「宜しくね!」


「……うん、こちらこそ、宜しく!」

 

 どうしよう、彼女たちの悩みを解決出来るイメージが全く湧かない!


 何はともあれ、こうして僕は、新しい家族を手に入れた。


※―※―※


 一方、勇者たちは。


「おい、見ろよアレ」

「ガハハハハッ! オーガだが、小さいな!」

「クックック。あれなら、楽勝ですね」


 魔の手が、いたいけな少女に迫っていた。

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