世界情勢
三日目の朝。王都リュスティアは、ようやくその姿を現した。
高い外壁、絢爛な塔、遠くに見える城。
サナは目を輝かせて駆け出した。
「サテン!あれが王都……!」
「――止まれ」
だが、二人の行く手を阻むのは、ただの門番ではなかった。
全身を銀鎧で固めた男が、槍を構えて立ちはだかった。
背後には十数名の兵士。さらに、ローブ姿の魔導士もいる。
「貴様がサテンか。リュスティア王国に仇なす反逆者、ここで処す」
「処すって……話しに来たんだけどな」
「国王陛下からの命だ。話す必要はない」
槍の男が構えると同時に、魔導士が詠唱を始めた。
バトル開始
「サナ、下がってろ」
サテンは木の棒を構える。
だが、相手は訓練された騎士団。しかも、こちらはまだ神力10%。
最初の一撃――サテンは受け流すが、足を取られ、魔導士の火球が炸裂する!
「くっ……!」
木の棒が焼け焦げ、サテンの体も傷つき、膝をつく。
「……サテン!」
サナが叫ぶ。近づこうとするが、別の兵士に蹴り飛ばされる。
「邪魔だ。ガキが出しゃばるな」
倒れたサナは、震えながらも立ち上がる。
「サテンは、悪いことしてない!……優しくて、強くて、助けてくれて……!」
涙を浮かべながらサナは叫ぶ。
「私、サテンに……ありがとうって思ってる! 心から!ずっと!」
その瞬間だった。
神力11%解放
パァァアアアッ!
サナの言葉と想いに呼応するように、サテンの体が一瞬、金色の光を放つ。
「……これは……」
痛みが引き、傷が再生する。折れかけた木の棒が、白く美しい“神木の杖”へと姿を変える。
「サナ……今の、お前の“感謝”が……神に届いた」
騎士団がざわつく。
「魔導か?いや、違う……これはなんだ……!」
「まとめて相手してやるよ」
サテンは、ひと薙ぎで複数の兵を吹き飛ばす。
足元が震え、魔導士の結界がヒビを入れながら砕ける。
「バ、バカな!我が『不壊結界』が……」
そして、サテンの杖が騎士団長の胸に止まる直前で――
「やめろ!!」
叫び声が響く。
城から、重厚なマントを羽織った男が現れた。
国王、登場
「我が名はリュスティア・ガルディーン。王国国王である」
兵士たちがひれ伏す中、王はサテンに近づいた。
「お前が……神か?」
「いいや。元神だ。ただのサテンだよ」
王は腕を組み、険しい顔で続ける。
「ならば、問おう。なぜ、反逆者とされることを知りながら、我に会おうとした?」
「誤解を解くため。……この世界を救うのに、敵を増やしても意味ねぇだろ」
王は沈黙する。周囲の兵士も、口を挟めない。
「面白い」
そう言って、王は背を向けた。
「来い。話を聞こう。お前が“神に等しい者”ならば、我が国の未来もまた、お前と共にあらん」
サテンとサナは顔を見合わせる。
「行こうぜ」
「うん!」
王宮の奥深く、静謐な応接間。
壁には豪華な絵画と盾、天井には金のシャンデリアが輝いている。
中央に置かれたソファに、サテンとサナは座っていた。
向かい側には、リュスティア王国国王――リュスティア・ガルディーンがいる。
王は老練な目を細めながら、紅茶を一口すすり、静かに語り始めた。
「この世界は、すでに一触即発の状態にある」
サテンは黙って耳を傾ける。
「貴様が神であろうと、異邦人であろうと、真実を知る資格がある。いや……知ってもらわねばならぬ」
王は、隣の卓に置かれた一枚の地図を広げた。
そこには、**“七王の名”**が刻まれた印が描かれていた。
「我らリュスティア王国の最大の敵。それは東方に広がる帝国、バルグレイヴ帝国。
そしてこの帝国の中枢には――」
王が指し示すのは、漆黒の冠が描かれた紋章。
「“勇者”だった男がいる。かつて神に選ばれし存在。
だが今は……神に背を向け、自らを王と称し、【闇堕ち勇者】と化した」
「勇者が……闇に?」
「そうだ。やがて帝国は、世界統一の名のもとに他国を侵略し始めた。
リュスティア王国はそれに抗い、世界を守る“最後の砦”であると自負している」
(勇者はかつて、転生神リュミナがこの世界に転生させた勇者だ。)
王は地図の他の印を順に指していく。
「だが、帝国以外にも混沌を招く力が存在する。
この世界には、“七つの大権力”が存在する」
◆七大権力(七王)
1.闇堕ち勇者(バルグレイヴ帝国)
かつて神の加護を受けた存在。
現在は暗黒の力で帝国を掌握し、異世界召喚や闇の兵器を用いて領土を拡大中。
2.精霊王(エルフ族の王)
大森林《セフィラの杜》を統治するエルフたちの支配者。
古の精霊と契約し、強大な自然魔法を操るが、外の世界との関係は断絶状態。
3.獅子王(獣人の王)
神獣の血を引くと言われる獣人族の長。
誇り高く孤高で、力による秩序を重んじる。リュスティア王国とは一触即発。
4.魔王(魔族)
かつて大戦を引き起こした存在の末裔。
地底に王都を持ち、今なお各地で暗躍中。闇堕ち勇者との密約の噂もある。
5.竜王(竜人族)
龍神の血を引く“最後のドラゴン”とされる存在。
大空と大地を支配し、滅多に姿を現さないが、各勢力から最も恐れられている。
6.鍛治王(ドワーフ族/鍛治師)
神すら殺すと言われる【神器】を鍛える孤高の鍛治師。
伝説の武具は争奪戦の火種になっており、各国が狙っている。
7.マーマン王(海の支配者)
海底王国を治め、魔獣たちを従える異形の王。
陸地との接触は稀だが、帝国に寝返ったとの情報もあり、要警戒対象。
王はソファに深く腰を沈め、サテンを見据えた。
「この七つの力が、互いを牽制し合い、奪い合い、睨み合っている。
そして……どこかが崩れれば、一気に世界は戦火に包まれるだろう」
サナが不安そうに尋ねる。
「じゃあ……全部が敵になるの?」
「いや、それは貴様ら次第だ」
王の眼光が鋭くなる。
「我は、世界をまとめることを志としている。帝国に対抗し、正義を示す。
だが、強制するつもりはない」
「なるほど……」
サテンは立ち上がり、地図を見下ろした。
「この世界を変えるには、こいつら“七つの火種”と向き合わなきゃいけないってことか」
王はうなずく。
「それができるのは、“神の加護を受けし者”――つまり、貴様かもしれぬな」
サナはサテンの袖を掴み、小さな声で言った。
「一緒に……止めよう?こんな争い」
サテンはその言葉をしっかりと受け止め、地図を指差した。
「よし、まずは順番に“会いに行く”ところからだな。話せばわかる奴もいるかもしれない」
王は少し驚き、だが満足げに微笑んだ。
「それでこそだ、サテン。――我が国は貴様を“味方”として迎えよう」
サテンの旅は、いよいよ“七王”との対峙へと向かって動き出す。