鍛治王に報告
翌朝。
食堂の卓上には、鮮やかな木の実が山盛りに並べられていた。
赤、紫、緑……どれも見たことのない形や艶をしている。
不可侵領域の特殊な環境で、独自の進化を遂げた果実たちだった。
「うわぁ……! キラキラしてる……!」
サナは思わず声を漏らし、目を輝かせる。
レオナードは穏やかに微笑んだ。
「さあ、遠慮せず召し上がれ。これでも我が家自慢の一品だ」
サテンはひと切れを頬張り、口いっぱいに広がる甘酸っぱさに思わず笑みを浮かべた。
「……うまい! 元気出そうだな、これ」
仲間たちもそれぞれ果実を口に運び、朝から贅沢な彩りに舌鼓を打つ。
その時、不意にサナがサテンをじっと見つめた。
「……サテン、何かあったの?」
「え?」
「少しだけ……顔が暗いように見える。無理して笑ってる、みたいな」
サテンは一瞬言葉に詰まり、それから慌てて笑顔を作った。
「な、なんでもないって。気のせいだよ」
だがサナは首を傾げる。
「……本当に?」
サテンは軽く肩をすくめ、逆に明るい声で言った。
「まあ、よくないことがあってもさ。徳を積んで、いいことをし続けた人には――神様はちゃんと見てる。最後には、きっとご褒美をくれるんだ」
その言葉に皆は一瞬黙り込み、やがて小さく頷いた。
サナもそれ以上は追及せず、そっと笑顔を返した。
「さあ! そろそろ準備して王都に向かうか!」
サテンが声を張ると、仲間たちは気持ちを切り替えるように腰を上げた。
だが、ドルガンはそこで一歩引いて口を開いた。
「俺は……もう少しここに残る。レオナード殿の決断を待ちたい」
レオナードはサテンの方を見やり、真剣な表情で言った。
「王都で報告する時、我々のことは……あまり詳しくは語らないで欲しい。多くを明かせば、王族を疎ましく思う者たちに隙を与えてしまう」
サテンはしばらく考え、それから親指を立てて笑った。
「わかった。上手いこと言っとくよ」
旅路は穏やかだった。
北の山々を抜け、広がる平原を進み、遠くに馴染んだ城壁が見えてきた。
「……懐かしい」
誰ともなく漏れた声に、仲間たちの表情も和らぐ。
サテンの胸にも、自然と温かな感情が込み上げていた。
(帰ってきたんだな……)
王都、王城、謁見の間にて
玉座に座る鍛治王が、重厚な声を響かせた。
「……戻ったか。報告を聞こう」
サテンは深呼吸し、心の中で何度も整理していた言葉を口にする。
「はい。今回、北の山脈を捜索し――王族の方々を見つけることに成功しました」
「ほう……!」
広間にどよめきが走る。
鍛治王は鋭い眼差しを向け、低く問いかけた。
「噂では……その地にはフェンリルがいると聞くが。まさか、実在していたのか?」
サテンの胸が一瞬跳ねた。
(……フェンリルを知ってるのか)
短い沈黙の後、彼は迷わず言った。
「はい。フェンリルと戦闘ののち……何とか仕留めることに成功しました。その後、王族の方々と会うことができました。今はまだドルガンと共に協議中とのことなので、我々だけが先に王都へ戻り、報告に参った次第です」
鍛治王は長く顎髭を撫で、やがて大きく頷いた。
「……そうか。よくやった。下がって休め」
「はい」
サテンたちは一礼し、謁見の間を後にした。
ユールがすぐに小声で詰め寄る。
「サテン……さっきの、嘘ついてたけど……本当に良いのか?」
サテンは立ち止まり、真剣な目で仲間を見回した。
「良いんだ。レオナードにも言われてた。あまり多くを話すなって」
サナが眉をひそめる。
「でも、どうして?」
サテンは少し声を潜めて答えた。
「これまで王族への暗殺は、全部フェンリルが阻止してきた。だが――“そのフェンリルが死んだ”って情報が広まれば……どうなると思う?」
サナははっと息をのむ。
「……暗殺の連中が、動き出す……!」
「そうだ。反王族派が本当に存在するなら、今こそ行動を起こすはずだ。そいつらを逆に炙り出して仕留める……そうすれば、レオナードたちが安心して王都に戻って来れるだろ」
マイナはニヤリと笑い、拳を握った。
「すげえ計画だな! 絶対に成功させようぜ!」
サテンも頷き、目に力を宿す。
「……ああ。これは“王族を守るための戦い”だ」
その夜。
宿の食堂で簡単な夕食を済ませた後、サテンたちは各々の席で外の通りを窺っていた。
街はいつも通り賑やかで、祭りの後のように平和に見える。
だがサテンの胸には、確かな予感が渦巻いていた。
(……来るはずだ。必ず……)




