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王族への手がかり


王都の大市場は昼時ということもあり、通りは人でごった返していた。

石畳の路地の両脇にびっしりと並ぶ屋台からは、肉を焼く匂い、果物の甘い香り、香辛料の刺激的な風が漂い、歩くだけで腹が鳴る。


「おおっ!サテンさん、あれ見てください!肉が丸ごと串に刺さってる!」

ユールが子どものような声を上げて指差した先には、巨大な獣肉の串焼きを売る店があった。

炭火でじっくりと焼かれた肉からは滴る脂が炎に落ち、香ばしい煙を立ち上らせている。


「くぅ〜っ、たまんねぇ匂いだな!」

マイナが鼻をひくつかせて言った。サナも小さな手でお腹を押さえていた。

サテンは苦笑しながらも、早速五本ほど購入し、皆でかぶりつく。


「うまっ!なにこれ、柔らかい!」

「噛むと肉汁がすごいです!塩加減もちょうどいい!」

「ふむ……これは山獣ハルグの肉だな。旨味が強い。」

店の店主が解説する。どうやらドワーフにとっても定番のご馳走らしい。


さらに市場を進むと、ひときわ人だかりのある屋台が目に入った。

そこでは宝石のように色とりどりの団子が並べられている。


「わぁ……きれい……!」

サナが思わず感嘆の声を漏らした。

団子は丸いのではなく、小さな原石のような多面体をしており、

表面には青、赤、緑、紫と、まるで宝石を削り出したような輝きがあった。


「これが噂の“鉱石団子”か。」

サテンが一つ手に取ると、ほんのり甘い香りがした。

一口かじると、外は薄い飴の層でパリッと割れ、中から柔らかな餡がとろりと広がる。


「うっま……っ!これは反則だろ!」

「なにこれ!甘いのにしつこくない!」

「見た目も味も最高ですね!これはお土産決定です!」


皆で夢中になって食べ進め、気づけば50個以上を購入していた。

サテンは鉱石団子が袋詰めされてるやつを手に取り、ふと笑った。


「ドルガンにも買っていくか。これは喜ぶぞ。」

「うん!ドルガンさんは久しく国に帰ってないって言ってたからドワーフの特産品をあげたら喜びそう!」とサナが頷いた。



腹を満たした一行は、工房街へ足を運ぶ。

市場を抜けると、金槌の音があちこちから響き、

炉から立ち上る熱気と金属を打つ火花が路地を照らしていた。


「ここが……ドワーフの工房街か。」

サテンは思わず息を飲む。

露店に並ぶ武具はどれも重厚で、刃の輝きからして一級品と分かる。

世界的にも評価の高いドワーフ製の武具が、ここでは当たり前のように並んでいるのだ。


その中でも、サテンたちは市場で評判が高かったゼール工房を訪れることにした。

重厚な鉄扉をくぐると、内部には小刀から大太刀、鎧、兜まで所狭しと展示されている。


「……おお、見ろよこれ!めちゃくちゃかっけぇ!」

ユールが壁に飾られた双剣を見つけて目を輝かせる。

マイナも店の奥に並ぶ大剣に釘付けだ。


カウンターの奥から、白髪混じりの立派な髭を蓄えた中年のドワーフが姿を現した。

彼こそ、この工房の主――ゼールである。


「ふん……人間の客とは珍しいな。何を求めに来た?」

低く渋い声でそう言うゼールに、サテンは一礼した。


「こいつらに合った剣を新調してやりたいんだ。

既製品じゃなく、体格に合わせて打ってもらえないか?」


ゼールは眉をひそめ、しばし二人を値踏みするように眺めた後、

鼻で笑い、ぶっきらぼうに答えた。


「……贅沢な注文だな。俺の武具は安くねぇぞ。」

「金なら払う。」

「ふん……ならば話は早ぇ。」


ユールとマイナは、自分たちの体格に合った理想の剣を細かく伝える。

ゼールは黙々とメモを取り、時折二人の腕や肩幅を計測しながら頷いていた。


「なるほどな……お前は素早さ重視、こっちは重量級の一撃狙いか。」

「そうそう!わかってんじゃん!」とユールが得意げに笑うと、

ゼールは眉間に皺を寄せたまま「うるせぇ、黙ってろ」と一蹴した。


結局、二人の熱意に根負けしたゼールは、しぶしぶ依頼を受けることに。


「……ったく、めんどくせぇガキどもだ。二日だ、二日後に取りに来い。」

「ありがとうございます!」

「おう!絶対すげぇ剣にしてくれよな!」

「注文受けたからには、最高のもんを渡してやる。期待しとけ。」


王都の病室で、サテンたちはドルガンを囲んでいた。

窓から差し込む午後の光が薄暗い室内を照らす中、ドルガンは顎髭を撫でながら低い声で話し出した。


「……王族が身を隠しておる場所だが、ワシに一つ心当たりがある。」


「どこですか?」

ユールが身を乗り出すと、ドルガンは地図を広げ、王国の北部を指でなぞった。


「王都から北に続くグランツ山脈……その最奥部に“不可侵領域”と呼ばれる一帯がある。

この地は古くから“決して足を踏み入れるな”と伝えられておるが……不思議なことにな、

この言い伝えが始まったのがちょうど二千年前、大戦終結の年と一致しとるんじゃ。」


「二千年前……」

サテンは眉をひそめる。大戦といえば、ナミエルたち天使族とドルガンたちドワーフ族が戦ったあの時代だ。


「まさか……大戦後に王族がそこに逃げ込んだってことですか?」とマイナが尋ねると、

ドルガンは頷きながら言った。


「可能性は高い。実際、ワシは王族と近しい関係にあったが二千年前を境に、王族の消息はぷっつり途絶えワシにも把握出来なくなった。

それ以降、王国中の記録から王族に関する情報が意図的に消されておる。

ワシはずっと調べ続けておったんじゃが……たどり着いた答えが“北の砦”という物が山脈にあると。それが不可侵領域にあると踏んでおる」


「でも、山脈は広大なんですよね?」

サナが不安そうに言うと、ドルガンは深く頷いた。


「ああ。とてもじゃが一つずつ当たっていくわけにはいかん。

だからまずは資料館じゃ。あそこは膨大な資料が貯蔵されておる、王族についても貯蔵されておったが大半が消されているはずだ。しかし漏れている資料もあるかもしれない。過去の文献に手がかりが残っとるやもしれん。」



王都の中央広場にある王立大資料館は、古代文明の書物や地図を保管する場所で、

普段は研究者以外ほとんど立ち入ることが許されない場所だ。


サテンたちは、鍛治王の推薦状とドルガン本人からのお願いのおかげで中へ入ることができた。

薄暗い室内に並ぶ本棚はどれも天井に届くほど高く、

古文書の香りが漂う静謐な空気が広がっていた。


「……これ、ぜんぶ読むんですか……?」

ユールがげんなりした顔をしていると、サナがぷっと笑った。


「そんなわけないでしょ。目星をつけて探すのよ。」


ドルガンは古地図のコーナーに足を運び、一冊の分厚い地図帳を開いた。

そこにはグランツ山脈の詳細な地形が描かれているが、

ある一帯だけが真っ白に塗りつぶされていた。


「……ここだな。」

ドルガンが指差すと、サテンも顔を寄せる。


「地形データすら載ってない……逆に怪しいな。」


さらに奥の書庫で、サナが一冊の古い日誌を見つけた。

そこには「星影の砦」という名が記されており、

「限られた一族のみ足を踏み入れられる」と書かれていた。


「星影の砦……きっとここに王族が……!」

サテンが呟くと、ユールも興奮気味に頷いた。



二日後、サテンたちはゼール工房を再び訪れた。

入口の前から金属を打つ音が響き、炉の熱気が通りまで伝わってくる。


「……来たか。」

現れたゼールは、以前よりもいくらか誇らしげな顔をしていた。

作業台の上には、青白い輝きを放つ二振りの剣が並んでいる。


「おおっ、すげぇ……!」

ユールが思わず手を伸ばしかけた瞬間、ゼールがピシャリと声を上げた。


「触るな!刃が持ち主を選ぶんだ。」

刀に意思がある様なそんな魅力的な刀だ。


ゼールはまずユールに細身の双剣を手渡した。

鞘から抜いた瞬間、刀身が淡い蒼光を放つ。


「軽っ!めちゃくちゃ振りやすい!」

ユールが歓声を上げると、ゼールは鼻を鳴らした。


「“疾風の双牙”だ。お前の体格と戦い方に合わせて鍛えた。

速度を損なわず、切れ味は王国騎士団の剣を凌ぐだろう。」


次に、マイナへ重厚な大剣が手渡された。

大剣には赤黒い鉱石が埋め込まれ、力強い輝きを放っている。


「……重っ!けど、しっくりくる!」

マイナは一振りしただけで、空気が震えるような衝撃波が走った。


「それは“紅蓮の破刃”だ。重い分、力を乗せた時の威力は凄まじい。

だが制御を誤れば自分の骨を折ることになる、気をつけろ。」



ゼールは裏庭に案内し、試し斬り用の訓練場を見せた。

そこにはドワーフ職人たちが用意した魔鋼製の訓練人形が立ち並んでいる。


「こいつらは普通の鉄じゃ斬れねぇ。お前らの腕前、見せてもらおうか。」


ユールが構え、疾風の双牙を一閃――

ヒュンッ!という風切り音とともに、訓練人形の首が滑らかに落ちた。


「おおおおっ!すげぇ斬れる!」

「ふん、まだ本領発揮してねぇな。」


次にマイナが紅蓮の破刃を振り下ろす。

ズドォォン!!

地面が揺れるほどの衝撃とともに、人形が真っ二つに割れた。


「おおおおおお!やった!」

「……悪くねぇ。二人とも、剣の特性を使いこなせば戦力は大幅に上がるぞ。」


ゼールは腕を組んで満足げに頷いた。


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