草原の主の正体
草原の中心を覆う謎の結界を前に、サテンは立ち尽くしていた。
不気味なほど静まり返る空気の中、冷たい風が頬を撫でる。
その時だった――。
カッ…!
突如、ドルガンが腰に差していた**「魂喰らいの剣」**が、まるで脈打つように震え始めた。
刀身が赤熱し、淡い光を帯びる。
「な、なんだと……!?」
ドルガンは熱さに耐えきれず剣を取り落とす。
だが、地面に落ちるはずの剣は――落ちなかった。
「……剣が、浮いてる!?」
サナが息を呑む。
魂喰らいの剣はふわりと宙に浮き上がり、
まるで意思を持つかのように結界の中心へと飛んでいった。
ズガァァァァァン!!
凄まじい轟音と共に、見えない壁のような結界が砕け散る。
周囲に光の破片が降り注ぎ、草原の中心が露になっていく。
「お、おい……これは一体……」
サテンはただ呆然と剣を見つめていた。
魂喰らいの剣は、草原の中心で静かに宙に浮かび続けていた。
すると、突然――。
バキィィィィィン!!
刀身が砕けた。
砕けた破片から白い霧が噴き出し、見る間に草原一帯を包み込む。
視界が白に覆われる中、
どこからともなく響く女性の声が、サテンたちの耳を打った。
「……やっと……やっと復活できたわ!!」
その声はあまりにも美しく、透明感があり、
声を聞いただけで“絶世の美女”を想像させるほどだった。
サナとセレナは顔を見合わせ、興味深そうに首をかしげる。
しかし――ただ一人、ドルガンだけが顔を曇らせていた。
霧が少しずつ晴れていく。
輪郭が浮かび上がり、6つの影がそこに立っていた。
先頭に立つ影が、ゆっくりと翼を広げた。
長い銀髪が流れ、虹色の羽が淡い光を放つ。
その姿は、まさに“天使”そのもの。
しかし、その瞳には底知れぬ狂気が潜んでいた。
「……やっぱりお前か!!」
ドルガンが声を張り上げる。
「しかし葬ったはずだ!大天使ナミエル!!」
サテンたちが息を呑む中、女はにっこりと微笑んだ。
その笑顔は息を呑むほど美しい――が、開いた口から出た言葉は冷たかった。
「ちゃんと生きてたようね!岩ヤロウ!」
「い、岩ヤロウ?」
サナがぽかんとする。
サテンが小声で耳打ちした。
「……ドルガンのことだな。」
ドルガンは苛立ちを隠さず、牙を剥くように叫んだ。
「なぜ生きている!!」
ナミエルは挑発的に笑い、くるりと空中で一回転してみせる。
「ふふっ、知りたい? じゃあ、クイズよ。
なぜ私が、あなたの剣に呪いをかけ、魂を食わせたと思う?」
ドルガンは唸るように答えた。
「……完全に消滅させるため、じゃないのか……?」
ナミエルは小さく首を振る。
そして、唇に妖艶な笑みを浮かべ、告げた。
「違う。
あの剣は“魂を食う”んじゃない。
“魂を集めて、保存する”ための器よ。」
「……何だと?」
サテンが眉をひそめる。
ナミエルは人差し指を立て、得意げに語り始めた。
「天使族の身体はね、数千年かければ再生できるの。
でも――魂が消滅したら復活はできない。
だから、あなたの剣を利用したの。神器で神の武器にもなるほどのものだから」
サテンたちは言葉を失う。
「神器?」
セレナが小さくつぶやく。
ナミエルは頷き、片手を胸に当てると、うっとりとした表情を見せた。
「そう。神器。
あの剣は、魂を保存することも、神を憑依させることすら可能な器だった。
だから私は、あの剣を“呪い”で変質させて私たち天使族の魂を保存させてもらってたの!」
ドルガンは拳を握りしめ、怒りに震えながら問いかける。
「なら……なぜ俺をも呪った!!」
ナミエルはにっこりと笑った。
「決まってるでしょ?」
そして、吐き捨てるように一言。
「復活した時に最初に殺すのは、私に屈辱を与えたアンタに決まってるでしょ?」
その瞬間、サテンたちの背筋に冷たいものが走った。
全ては、理由があって呪われていた。
魂喰らいの剣も、ドルガンも、王族も――
この女が仕組んだ“2000年越しの復讐”のために。




