大戦の跡地
昼過ぎ、サテンたちはグランバルド王国を発ち、二千年前の大戦跡地へと向かっていた。
道中、小さな集落を見つけた一行は、休憩がてら立ち寄ることにする。
石造りの家が十数軒並ぶ、穏やかな小村。
サテンたちが足を踏み入れると、集落の子供たちが一斉に駆け寄ってきた。
「旅人さんだー!」
「すごい、剣だ!大きい!」
サナやセレナもすぐに子供たちの輪の中に混じり、笑い声を上げながら一緒に遊び始めた。
いつもは落ち着いて大人びた顔をしている二人だが、こうして年相応に楽しそうに笑う姿を見て、サテンはふと胸の奥が温かくなるのを感じた。
「……あいつら、まだ子供なんだよな。」
ぼそりとつぶやくと、隣にいたドルガンも腕を組んで頷いた。
「だからこそ、俺たちが守ってやらなきゃならねぇ。」
すると、集落の大人たちがサテンたちに声をかけ、お茶と小さなお菓子を振る舞ってくれた。
腰の曲がった初老の男性が湯気の立つカップを差し出しながら、にこやかに問いかける。
「旅の方々、これからどちらへ?」
サテンは少し迷ったが、正直に答えた。
「この先にある草原へ行こうと思ってます。何もないかもしれませんが……一度、見ておきたくて。」
その言葉を聞いた瞬間、男性の笑みがわずかに消えた。
そして、声をひそめるように話し始める。
「あの草原……最近、妙なんです。
草原の真ん中を目指して歩いても、なぜか中心にたどり着けないんですよ。
気づいたら同じ場所をぐるぐる回っている……そんな話を、何人もしておりましてね。」
「同じ場所を回ってる……?」
ユールが眉をひそめる。
「ええ。それに、草原の中心には古い石碑があるんです。
二千年前の大戦を記録した石碑で……そこには、“天使族を葬った場所”だと刻まれているそうです。」
サテンたちは顔を見合わせた。
何もないはずの草原に、近づけない“中心”と、“天使族の墓標”――
偶然にしてはできすぎている。
「……行ってみる価値はあるな。」
ドルガンの声は低かったが、力強さを帯びていた。
やがて、一行は大戦跡地の草原へ到着した。
広大な平原は、まるで時間が止まったかのように静まり返っている。
しかし、サテンたちは足を踏み入れた瞬間、違和感を覚えた。
――何かがおかしい。
見渡す限り、緑の草が揺れているだけ。
だが、中心にあるはずの石碑は、いくら歩いても見えてこない。
「おかしい……この距離ならもう見えていいはずだ。」
サテンが呟くと、ユールが目を閉じ、地面に手を当てた。
数秒後、ユールの瞳が見開かれる。
「……ここ、隠蔽の結界が張られてるわ。」
「結界だと?」
ドルガンが険しい表情になる。
ユールは頷いた。
「おそらく、石碑のある“中心”を隠すためのものよ。
誰かが意図的にここを封じてる。」
「誰かが……?」
セレナの声はかすかに震えていた。
そのときだった。
「おい……待てよ。これは……!」
突然、ドルガンが大声を上げた。
全員が一斉に振り返ると、彼の足元に一枚の羽根が落ちていた。
白く透き通るような、まるで光を反射して輝く羽――
その形状は、そこらを飛ぶ鳥のものではなかった。
ドルガンの声は、震えていた。
「……馬鹿な。こんなもの、残ってるはずがねぇ……
天使族の羽根だ……。」
沈黙が、場を支配した。
二千年前に滅んだはずの天使族。
その証が、いま目の前に転がっている。
サテンはゆっくりと羽を拾い上げ、ぎゅっと握りしめた。
「……誰かがここにいる。
いや、もしかすると……天使族の血を継ぐ者が生きているのかもしれない。」
ドルガンは険しい表情で草原の奥を睨みつけた。
その瞳は、過去の戦火を思い出すかのように鋭く光っていた。




