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夜の密議


重厚な鉄扉が開かれると、黄金に輝く広大な謁見の間が広がっていた。

高い天井には精緻な鍛造細工が施され、壁には古代ドワーフたちが築き上げた栄光の歴史を描いた壁画が並んでいる。

その奥、玉座に座るひときわ威厳ある男――鍛治王トラゴルドがいた。


白銀に輝く長い髭と、深く刻まれた皺。

しかしその瞳は、長年鍛造を極めた者特有の鋭さと、すべてを見透かすかのような重みを宿していた。


「……遠路、よく来たな。サテン殿、そしてその一行よ。」

低く響く声が広間全体に反響し、サテンたちは自然と膝をつき頭を垂れた。


トラゴルドはゆっくりと立ち上がり、視線をサテンの隣に立つ一人の男へと向ける。

――ドルガン。


その瞬間、王の瞳がわずかに見開かれた。

「……“ドルガン”……だと? まさかとは思うが、お主の名は本当にそうなのか?」


ドルガンは軽くうなずいた。

「……ああ、間違いねぇ。俺の名はドルガンだ。」


トラゴルドは低く唸るように息を吐き、玉座の横に置かれた古びた鉄板を手に取る。

それは、王家に代々伝わる“伝承録”だった。


「二千年前……我らが祖先を救った伝説の鍛冶師の名が、確かにそう記されておる。

 『魂喰らいの剣』を打ちし者――それがお主か。」


その場にいたドワーフ兵たちがざわめいた。

「二千年前だと!?」「嘘だろう……ドワーフだろ、こいつ……」

「いや、待て……もし本物なら、伝承にあるペンダントを持っているはず……」


サテンはここでようやく、ペンダントの意味を理解し始めていた。

あれはただのペンダントではなく、この国にとって何か特別な象徴だったのだ。そう、あのペンダントに書いてある紋章は、ダイヤモンドに金槌と釘が交差してその周りを蔦が囲っているマークだ。しかし今の王国の紋章は、両方が金槌になっている。


トラゴルドはサテンに鋭い視線を向ける。

「サテン殿、その首から下げたペンダント……どこで手に入れた?」


サテンは一瞬迷ったが、正直に答えることにした。

「ドルガンから……彼から譲り受けたものです。」


その瞬間、広間が再びざわめく。

トラゴルドは深く頷き、憲兵たちに手を上げて制止させた。


「よかろう……お主らの言葉、信じよう。」

「だが、事は重大だ。……ドルガン、その剣とお主にまつわる呪い、そしてこの国の王家の行方はどうやらすべて、繋がっておるらしい。」


サテンたちは緊張した面持ちで、ただその言葉を聞くしかなかった。


そして、トラゴルドは重々しく続けた。

「今宵、王族の密議を開く。お主らにも出席してもらう。」


ドルガンは眉をひそめながらも頷き、サテンたちは顔を見合わせた。

どうやら、グランバルド王国の謎は想像以上に深い。


夜になりサテンたちは密議に参加することになった。

そこに集まったのは、国王とサテンドルガンだった。

他のメンバーは、各自部屋を与えられ終わるのを待つか寝ているか、人それぞれの過ごし方をしていた。


重厚な鉄扉が静かに閉じられ、部屋の中には深い沈黙が満ちていた。

長い円卓の先には、鍛治王トラゴルドが座し、その両脇には老ドワーフたちと国王補佐官レイモンドが控えている。

サテンとドルガンは案内されるまま席に着いたが、どこか張り詰めた空気に息が詰まりそうだった。


レイモンドが机の上に二枚の古びた羊皮紙を並べる。

そこには、二つの紋章が描かれていた。


一つは、サテンが持つペンダントに刻まれていたもの。

もう一つは、現王国の公式紋章だった。


「……同じにしか見えないな」

サテンは首を傾げながら呟いた。

だが、よく目を凝らすと、ある違いに気づく。


「……あっ……」

サテンは声を上げた。

「ダイヤモンドに刺さっているのが……片方は“金槌と釘”、もう片方は“金槌が二本”……違う……」


その瞬間、トラゴルドが重々しい声で口を開いた。


「その通りだ、サテン殿。

 お主の持つペンダントは――二千年前の紋章。

 そしてこちらは、今の王国の紋章だ。」


場が静まり返る。

トラゴルドは視線を伏せ、ゆっくりと語り始めた。


「伝承によれば……ちょうど二千年前、真なる王族の一族が忽然と姿を消したとある。

 そしてそれを境に、紋章は“金槌二本”へと変更された。

 何があったのか、我らにもわからぬ。だが――」


そこでトラゴルドは視線をドルガンに向ける。


「……お主ならば、知っておるはずだな、ドルガン。

 二千年前……何があったのか。」


部屋の空気が一気に重くなった。

サテンも、老ドワーフたちも、皆がドルガンを見つめている。


ドルガンはしばし黙り込んでいた。

やがて、深く息を吐き、重たい口を開く。


「……あの王族は……死んじゃいねぇ。」

低く、しかしはっきりとした声だった。

「奴らは今も……生きてる。

 子孫を残し、この大陸のどこかで“隠れ住んで”いるんだ。」


「……生きている、だと?」

トラゴルドが険しい声で問い返す。


「だがな、あいつらには……“ここへは来られねぇ理由”がある。」

ドルガンの表情は厳しく、瞳はどこか過去を見つめていた。


「二千年前……俺たちは天使族と戦った。

 そのとき、俺は“魂喰らいの剣”を鍛えた張本人として、剣と自分自身に呪いを受けた。

 ……だが、それだけじゃねぇ。

 天使族は、王族にも別の呪いをかけやがったんだ。」


サテンは息を呑む。

「呪い……?」


ドルガンは頷き、言葉を絞り出した。


「王族にかけられた呪いは、“長くは生きられない”というものだった。

 王族は普通のドワーフよりも寿命が短くなった。

 そして……もうひとつ。

 ドルガンと王族が同時に王国に入れば、グランバルド王国は滅亡する……そういう呪いだ。」


部屋の中の空気が凍り付いた。


老ドワーフの一人が、震える声で呟く。

「……そ、それでは……王族も……そしてお主も……二千年もの間、王国に近づけなかったのか……」


「そうだ。」

ドルガンは深く頷く。

「だからあいつらは姿を消した。

 俺も、剣も、そして王族も……二千年間、姿を見せず、ただ呪いが解ける時を待っていた。」


サテンは、ペンダントをぎゅっと握りしめた。

なぜ、今、そのペンダントが自分の手に渡ったのか。

それは偶然なのか、必然なのか――わからなかった。


だが、トラゴルドはその答えを見据えるかのように、低く言葉を落とした。


「……なるほどな。

 このペンダントを持つ者が現れたということは、呪いを解く時が近いということか……」


レイモンド補佐官が顔を上げる。

「つまり、王族とドルガンさんの呪いを解く方法を見つけることが必要ってことですね。」


「その通りだ。」

ドルガンの声は低く重い。

「だが、呪いを解く方法は試したがまだ何か足りない。そのために手掛かりを探さないと」

「王族の棲家はなんとなく可能性がありそうなところを知っている。そこを当たってみよう」

サテンは深く息を吸い込み、決意を込めた声で言った。

「わかった。じゃあ、俺たちは呪いを解く方法を探る。」


トラゴルドはサテンを見据え、静かに頷いた。

「ならばよい。お主らには“影の任務”を託す。

 ――この王国の未来は、お主らにかかっておる。」


密議は終わりを告げたが、サテンたちの胸に残ったのは、ただ一つ――

天使族の呪いを解き、失われた王族を見つけ出すという重すぎる使命だった。

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