グランバルド王国
こうして、サテンたちの旅に新たな仲間――ドルガンとセレナが加わった。
メンバーはサテン、サナ、ユール、マイナ、ドルガン、セレナの六人。賑やかさはこれまでの倍にも感じられた。
その夜、サテンの家ではささやかな歓迎の食卓が囲まれた。
ユールとマイナ、そしてドルガンの三人は、酒樽を抱えてすぐに意気投合。
「おおー! こいつは強い酒だ!」
「まだまだいけるでしょ!」
杯を重ねるごとに声は大きくなり、やがて笑い声が家中に響き渡った。
セレナはそんな様子を微笑ましそうに眺めながら、控えめにグラスを傾けていた。サテンとサナは半ば呆れながらも、その賑やかさにどこか安心感を覚えていた。
翌朝。
まだ酒の残る空気を振り払い、サテンたちは王都へと向かう。目的は、これからの旅――ドワーフの国行きを国王に報告するためだった。
王城の応接間。
深紅の絨毯の上、玉座の前で国王が彼らを待っていた。
「……ついに行くのか」
その声には期待とわずかな心配が混じっている。
「連れの者を紹介してくれるか?」
サテンは一歩進み出て、まずドルガンを紹介し、続いてセレナを前に促した。
「人魚族……これは珍しい」
国王はわずかに目を細め、興味を隠さなかったが、すぐに王としての威厳を取り戻し、礼儀正しく言葉を交わした。
応接が終わると、六人は昼まで市場へ向かい、旅のための食糧や道具を買い揃えた。
果物の香り、干し肉の山、鍛冶屋の金属音――王都はいつも通り活気に満ちていたが、サテンたちの心はすでに次の地へ向いている。
昼過ぎ。
荷を馬車に積み込み、彼らは王都を後にした。
目指すは、山脈の向こうにある鍛冶と鉱山の国――ドワーフの国。
旅路の先に何が待つのか、それはまだ誰にも分からなかった。
王都を発ち、サテンたちはドワーフの国グランバルドへ向けて旅を進めていた。
途中、小さな山間の村に立ち寄る。村長オルメルが彼らを迎え入れたが、顔は暗い。
「旅の方々、お願いじゃ……。近頃、夜ごと畑が荒らされ、村人たちが怯えておる。どうか力を貸してもらえぬか。」
案内された畑は無残に踏み荒らされ、根こそぎ作物が抜かれていた。
獣の仕業にしては爪痕が深く、大きすぎる。村人たちは「魔獣だ」と恐れ、夜に外へ出る者はいなかった。
サテンたちは相談し、その夜、畑の見張りを決めた。
月が高く昇った頃――影が揺れ、重い足音が土を踏みしめる。
やがて現れたのは、背中に苔と木の根をまとった巨大な獣。
その目は赤く輝き、森そのものが獣の形をとったかのような姿だった。
「やはり……ただの獣ではないな。」サテンが呟く。
「精霊獣かもしれん。」とドルガンが声を低めた。
襲いかかろうとする精霊獣を、サテンは制した。
「斬るな! きっと理由があるはずだ!」
セレナが前へ出ると、透き通る歌声を響かせる。
精霊獣の荒ぶる呼吸が次第に落ち着いていく。
その隙にドルガンとユールが力を合わせ、森の奥に崩れていた岩を退け、新たな棲み処を作ってやった。
マイナは薬草を焚き、煙で獣を導く。
やがて精霊獣は彼らを見下ろし、一声低く鳴くと森の闇へと消えていった。
翌朝、村人たちが畑を見に来ると、もう荒らされた跡はなかった。
オルメル村長は深く頭を下げた。
「皆のおかげで村が救われた……感謝してもしきれん。これを持っていってくれ。」
そう言って差し出されたのは、古びた羊皮紙だった。
そこにはグランバルドへ続く古道が記されていた。険しいが、正規の街道よりはるかに近い道だという。
「真の仲間と共に進むなら、この道を越えられるはずじゃ。」
村長の言葉を胸に刻み、サテンたちは再び歩みを進める。
こうして小さな村での出来事は、グランバルドへ向かう旅路の、確かな一歩となった。
村を後にして三日。険しい山道を越えた先に、ついにサテンたちの目の前に壮大な景色が広がった。
切り立った岩山を削り抜いて築かれた巨大な城塞都市――ドワーフの国・グランバルド。
山肌に穿たれた巨大な門は鉄と石で造られ、陽の光を受けて重々しく光っている。
近づくにつれ、金床を叩く槌音や、炉から吹き上がる熱気の匂いが風に乗って届いてきた。
「ここが……ドワーフの都か。」
サナが息を呑むように呟く。
門の前には屈強なドワーフの兵が並び、鋭い視線を向けていた。
「止まれ! ここはグランバルド。通行を許された者以外は立ち入れぬ。」
緊張が走る。兵たちは異国の旅人を警戒しており、簡単に通せる様子ではない。
その時、サテンが懐から一通の封書を取り出した。
分厚い羊皮紙に刻まれた王都の紋章、そして最後に鮮やかに記された――国王自らの署名。
「王国陛下よりの紹介状だ。我ら一行は正式に、ドワーフの王へ謁見を願う者である。」
兵たちは眉をひそめ、手紙を受け取って目を通した。署名を確認すると、先ほどまで険しかった表情が僅かに緩む。
「……確かに陛下の署名だ。よかろう、通れ。」
重い扉が軋みながら開いていく。
その瞬間、内部から溢れ出した熱気と鉄の匂いに、一行は思わず息を呑んだ。
岩を削り抜いた街並み、炎の灯る炉の数々、石と鉄で築かれた橋と塔――
槌音と歌声が響く「鉄と炎の都」がそこに広がっていた。
マイナは目を輝かせ、セレナも人間の姿のまま見渡して感嘆していた。
ドルガンだけは、深く帽子をかぶり直し、何も言わず静かに街を見つめていた。
サテンは仲間たちを振り返る。
「さあ、まずは王のもとへ行こう。正式な話はそこからだ。」
こうして一行は、ドワーフの国グランバルドへと足を踏み入れた。
この地で待ち受ける試練をまだ誰も知らずに。




