闇オークション
翌朝――。
まだ陽が昇りきらない静かな時間、サテンは心地よい温もりに包まれていた。
枕元には規則正しい寝息が聞こえ、昨夜の光景がうっすら蘇る。
その時、ドアがギィと開く音。
「おっはよー!!
……って、なにやってんだお前らッ!」
大きな声が部屋に響き、サテンは飛び起きた。
「うわっ!? マイナ! なんでいきなり――」
横を見ると、まだ寝ぼけ顔のサナがぴったりとくっついたまま。
状況だけを見れば、確かに誤解されても仕方がない光景だった。
「ちょっと待て! 違うから! これはそういう関係じゃ――」
サテンが慌てて手を振る。
その横でユールが呆れ顔でマイナの肩を叩いた。
「お前なぁ、朝っぱらから人の部屋に突撃するなよ……」
しかしマイナは引き下がらず、じと目を向ける。
「いやだってさ、普通に仲間だと思ってたのに……そんな男女の関係だったとはねぇ?」
「だから違うって言ってんだろ!」
サテンは必死に訂正するが、サナはなぜか少し頬を染めて黙っている。
「おい、サナ! お前からも何か言えよ!」
「……えっと、その……まぁ、別にいいじゃない」
「よくねぇ!」
朝から大騒ぎのサテン邸であった。
やがて場を収めるようにユールが咳払い。
「まあ、とりあえず朝飯にしようぜ」
食卓に集まったところで、サテンは問いかける。
「で、お前らなんでここにいるんだ?」
マイナがパンをかじりながら答える。
「昨日の夜、辞令が出たんだ。王都からの命令で、あんたらの護衛に付くことになった」
サナは嬉しそうに身を乗り出す。
「じゃあ、これからもずっと一緒だね!」
「……だったら先に言えよな」サテンはため息をついた。
その時、ユールが話題を切り出す。
「そうだ、今日領地の地下施設で“闇オークション”が開かれるらしい」
闇オークション――それは王国の正式な許可を受けていない取引市。
厳しい取り締まりがあるはずだが、実際には王族や土地の貴族に高額な上納金を支払うことで開催が黙認されている。
しかも今、この公爵領は正式な領地管理者が不在のため、上納金が安く済む。そのおかげで開催地として人気が急上昇していた。
そこでは他種族の貴重な情報や、通常流通しない品も手に入る。
サテンたちは顔を見合わせ、うなずいた。
「……面白そうじゃないか」
こうして、彼らは初めての闇オークションへ向かうことになった。
夕刻、サテンたちは人目を避けるように路地を進んでいた。
闇オークションの会場は領地の地下――古くから封鎖された貯蔵庫跡を改装した場所らしい。
「ここだな」
ユールが立ち止まった先には、何の変哲もない古びた倉庫の扉。
しかし、その前には屈強な二人の男が無言で立っていた。
一人は腕に獣のような刺青を刻み、もう一人は無表情のまま視線を鋭く走らせる。
「合言葉は?」
低い声で問いかけられ、ユールが短く答える。
「月影に咲く黒薔薇」
扉番はうなずき、重々しい扉を開けた。
中は急な石段が下へと続いている。
階段を降りるたびに、奥から低く響く音楽とざわめきが近づいてくる。
やがて広間が見えてきた。
無数のランタンの光が揺れ、空気は香と酒の匂いで満ちている。
中央には豪奢な舞台、その上には黒い布をかけられた何かが置かれ、競売人らしき男が待機していた。
周囲の客席には、人間だけでなく、耳の長いエルフや角の生えた獣人、異国風の装束を纏った商人たちが思い思いの席につき、金や宝石を手にしている。ここにいる他種族は、どこからともなく遭わられる。どこからやってきたのかも闇に包まれていた。
「うわ……本当に何でもありだな」
マイナが目を丸くする。
サテンは周囲を見渡しながら、小さく息を吐いた。
ここは、正規の市場では決して見られない“裏”の世界。
好奇心と同時に、どこか危うい空気が肌を刺す。
その時――舞台の鐘が鳴り響き、闇オークションの幕が上がった。




