プロローグ
神の世界――神界。
その最奥、金と白の光に包まれた神殿の玉座に、ひとりの男が座っていた。
名は最高神サテス。
全知全能、万物の創造者。すべての神々の頂点に立つ最高神である。
「今日も神界は平和だなぁ。暇だ……」
神の仕事といえば世界の調律やら、星の運行やら、願いの管理やら色々あるが、それは下位の神々の仕事である。
頂点に立つということは、つまり命令する側。だから基本、暇である。
「――よし、宴でも開くか!」
神々を全員呼び寄せ、超盛大な酒宴を開く。
踊れ、歌え、飲め、騒げ! この日は天界すら酔い潰れる祭りの日だった。
だがその裏で――ひっそりと、とんでもない悪ふざけが進行していた。
「ねぇバッコス、そろそろ最高神にも“転生の味”を教えてやっても良くない?」
そう言ったのは、転生神・女神リュミナ。
趣味は転生。性格は自由奔放。そして非常に悪ノリしやすい女神である。
「はっはっは! いいじゃねぇか! あいついつも俺たちのイタズラ止めるしな! ここらで一発、どでかいジョークをかましてやろうぜ!」
こちらは酒と宴と混沌の神、バッコス。
神界でも屈指のトラブルメーカーで、酔った勢いで世界を滅ぼしかけたこともある。
「じゃあ、決まりね。転生先は……多種族がひしめく混沌世界《エル=ディザスタ》! しかも、最高神の力は全部封印っと♪」
「人間からスタートか。いいな、それ。俺が用意した“最高の酒”を飲ませて、記憶が飛んだ隙に送り込もうぜ!」
二柱の悪神が盛り上がる中――
当のサテンは、まさか自分がとんでもない異世界にぶち込まれることになるとは、露ほども知らずに酒をぐいっと煽っていた。